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百人一首

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和歌・秋のおとずれ

和歌・秋のおとずれ

「秋立つと目にはさやかに見えねども
 風の音にぞ驚かれぬる」
 古今和歌集・藤原敏行

山が紅葉して色づいたわけでもなく、
秋がやってきたと
目ではっきり確かめられるわけでもない。

それなのに、
どこからともなく
さやさやと涼し気に吹いてくる風の音に
はっと気付かされることだよ。

*

この歌のように、
秋の気配はまず最初に
風が変わったことで感じますよね。

それに加えて
飛び交うトンボ、

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和歌・神の御心のままに

和歌・神の御心のままに

「このたびは幣(ぬさ)もとりあえず
 手向山(たむけやま)
 もみじの錦 神のまにまに」菅家

(今回の旅は急なことで
お供えする幣の用意もできませんでしたが、
手向の神様どうぞ。
美しく紅葉した葉っぱを幣として捧げます。
どうぞ、御心のままにお受け取り下さい)

※この度とこの旅が掛詞。

※手向の神…道祖神のこと。

急なことで道祖神さまに何もお供えするものがないからといって、
素通りしたりは

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和歌・逃れられない悲しみ

和歌・逃れられない悲しみ

「奥山に紅葉踏み分け
 鳴く鹿のこゑ聞く時ぞ秋はかなしき」
 古今和歌集・猿丸太夫

(山奥まで分け入って
散り落ちた紅葉を踏み分けたなら、
鹿の鳴く声が聞こえた。
秋は物悲しいものだ。)

この歌で奥山に紅葉を踏み分けているのは
鹿だとする読み方が一般的だけれど、
わたしは人と解釈する方がしっくりくる。

俗世が嫌になって
人里離れた山奥に居場所を求めたけれど、
物悲しい鹿の鳴き声を聞いたら

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和歌・舞い散る桜

和歌・舞い散る桜

「久方(ひさかた)の光のどけき春の日に 
 しづ心なく花の散るらむ」
 古今和歌集・紀友則

(光ののどかな春の日に、どうして桜の花は落ち着く心を知らずに散ってゆくのだろう) 

光のどかな
うららかな春の日に、
はらはらひらひらと桜の花が
散ってゆく 

静寂の中を音もなく、
次から次へと
舞い落ちてゆく

まるで春の雪かと見るまでに

ついこのあいだ満開になったばかりで
そんなに急いで散ること

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和歌・一人になりたいけれど独りは寂しい

和歌・一人になりたいけれど独りは寂しい

「奥山に紅葉踏み分け
 鳴く鹿のこゑ聞く時ぞ秋はかなしき」
 古今和歌集・猿丸太夫

(山奥まで分け入って、散り落ちた紅葉を踏み分けたなら、鹿の鳴く声が聞こえた。秋は物悲しいものだ。)

この歌には、中学生の頃に初めて出会った。

当時、世を儚んだ隠遁者が
山奥にまで入って行った際に
鹿の鳴き声を聞いた情景として読んだ。

こちらでも、その読みを採用したい。

俗世を捨てて
人里離れた山奥に居場所

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和歌・センチメンタルな秋

和歌・センチメンタルな秋

「寂しさに宿立ち出でて眺むれば
 いづこも同じ秋の夕暮れ」
 良暹(りょうぜん)法師

寂しさに耐えかねて
外の空気でも吸って気を紛らわそうと
家の外へ出てみた
しかし
辺りを眺めても
どこもかしこも同じように
物悲しい秋の夕暮れが広がるばかりだった…

孤独や寂しさは
ネガティブなものとして嫌われがちですが、
いにしえの人びとは
実に感慨深いものとして
しみじみと味わい愛おしんでいます。

昔の

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