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海に帰りたい星屑

小さな星屑が波打ち際で

ひっくり返っていた

白波けたてて打ち寄せる波が

頑張って星屑を

元の状態に戻そうと

試みるが健闘も虚しく

星屑は仰向けのまま

空に向かって無数の触手を

伸ばしては

助けようとしてくれている

波の気持ちに応えようと

頑張ってはみるが

なかなかどうして

ままならない世の中だ

星屑が諦めかけたその時

ぬっと影が一つ現れた

星屑は涙声で助けを求めたが

言葉は聞こえたのか

聞こえなかったのか

影はしばらくじっと何やら

自分の事を見ているような

そんな視線を感じていた

星屑にとってもはや

すがるものが悪魔だろうと

海鳥だろうと関係ない

嫌いなフナムシだろうと

構わないから

どうかお願いします

僕を海に帰してください

涙が出て景色が歪む

あぁこのまま僕は干からびて

しまうのか

海の底の当たり前のような

日常が今はたまらなく恋しい

星屑がもう一度

声を絞りあげて

影の主に叫ぼうとした時

視界が急に動いた

さっきまで視界いっぱいを

埋め尽くしていた砂粒が

ゆっくりと

自分から離れていく

そうしてこちらを

びっくりした顔で見ている

白波の面々

さっきまで自分の事を

助けようとしてくれていた

波達の顔が今、視界の下の方に見える

なんだ!?

どうした!?

何が起きたんだ!?

星屑も急な出来事に

頭の中は真っ白になって

変わっていく

視界のあらゆるものを

生まれて初めてみるかの様な

顔で見渡した

そこは馴染み深い蒲郡の海だ

竹島の砂浜で

寄せては返す波の音

海鳥がみゃーみゃーと

鳴き叫びながら観光客が

投げる餌の取り合いをしている

太陽が、眩しい

空がこんなにも青いだなんて知らなかった

影の主の顔が

星屑を覗きこんできた

つぶつぶした表皮に触れ

裏側の無数の蠢く触手に

キラキラした好奇心が注ぎ込まれくすぐったい

星屑は自分が今見られている事を

全身を通して感じとっていた

「お父さん、ヒトデつかまえたよ!」

楽しそうな甲高い声

もう一つ影が星屑を覗き込み

「ほぉ立派なヒトデだな、よく捕まえたな!」

もう一つの影が嬉しそうに笑う声

身動きが取れない星屑、、ヒトデは

なすがままの状態で

ためつすがめつ観察の対象物として

しばらく宙吊りのまま

くまなくじろじろと見つめられていた

そうしてそろそろぐったりしてきたあたりで

またヒトデを取り巻く環境が変わった

ひんやりとして冷たく居心地の良い

何やら住みなれた環境

ここは海の中

まだ浅い場所だろうが

影の主がそっと海に逃して

くれたのだろう

気づけばヒトデは

触手を動かして息を吹き返した

もそもそと動き始めた

頭の上の方では

良かったねと

寄せては返す波が

口々にいってきた

もう一人で危ない場所に

来ちゃだめだよ

分かってるさ

ドキドキする冒険は

しばらくはこりごりかな

笑うように波が弾けて

沖へと引き返して行く

海面はキラキラと太陽の光を受けて

ほっとするくらいきれいだ

波打ち際から水面を覗き見ている

親子に向かってヒトデは静かに

ありがとうと手を振って

ゆっくりとその場を後にした

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