【BL二次小説(R18)】 卒業旅行⑬
一行は日本館2階のテラスにあるカフェに入った。
赤い和傘の席に着き、大きく息を吐く。
新「ふ~」
眼下に富士山の浮かぶ池と微妙な日本庭園が見えるが、琴の音色のBGMが心を落ち着かせてくれた。
メニューを広げると、久々に目にした日本語にホッとする。
東「オレはコーヒー」
荒「ベプシ」
福「フレッシュアップルジュース」
新「あ!緑茶がある!オレ緑茶ね!」
それぞれ注文をし、椅子の背にもたれる。
改めてカフェ内を見渡すと……。
真っ赤な壁には扇子や法被が飾られ、
フロアの中心には和太鼓が陣取り、
その横になぜかドヨタ車の大きな写真が置かれ、
棚にはラッキーキャットと書かれた招き猫がズラリと並んでいた。
福「……せめてもう少しセンス良く配置出来ないものか」
新「ここが日本のアンテナショップかと思うと……」
荒「オレぁ認めねーぞ!こんなの日本館じゃねェ!」
東「まあ……」
東堂は運ばれてきたコーヒーをすすりながら話し出す。
東「これをシャレとして楽しむのも、荒北のように違うと主張するのも、どちらも正解なのだよ」
福「というと?」
東「アメリカ人は意外と国外に出ない。なぜなら、ほっといても世界中の人や物が勝手にどんどん入って来る。外に出ずとも国内で異文化を充分体験出来るからだ。そのため、本当の外国を知らず間違った知識のまま済んでいく」
新「じゃあつまり、日本に行ったことのないアメリカ人は、日本のことを本当にこんな感じだと信じてるっていうのかい?」
東「そうだ」
荒「ざけンなチクショウ。忍者なんか居ねェぞ!」
ベプシの入ったグラスをダン!とテーブルに叩きつける荒北。
東「貴様達、イタリアに行ったことあるか?」
3人とも「ない」と答えた。
東「イタリアと言ったら何をイメージする?」
福「運河とゴンドラ」
荒「ピサの斜塔と真実の口」
新「みんなスパゲティ食べてる」
東堂はそれを聞いてニヤリと笑った。
荒「オイ!まさか……!」
ガタッ!
荒北は椅子から立ち上がった。
荒「ここのイタリア館がそのまんまだって言うのか!」
新「えー?マジで?」
福「本物のイタリア人が見たら怒るだろう」
呆れる3人。
東堂は両手を広げて言った。
東「ネズミーワールドは夢の国。ここは、みんなの頭の中を具現化した世界なのだ!」
福「シュールだな」
新「深いのか?」
荒「ただの手抜きじゃねェか」
東「しかし、違う見方も出来る」
東堂は身を乗り出し、不敵な笑みを浮かべた。
東「これがもし、確信犯だとしたら?外国など大したことはないと国民に思わせるための」
そう聞いて3人はギョッとする。
福「アメリカ・イズ・ナンバーワンというやつか」
荒「それじゃプロパガンダじゃねェか!」
新「夢の国とは上手く言ったもんだな」
3人は黙り込んでしまった。
東「……どうだ?ただのヘンテコなテーマパークかと思いきや、論文でも書けそうな程の秘密が隠されていた。面白いだろう」
東堂は満足げにふんぞり反った。
荒「普通、遊びに来てそんなこと考えねェぞ。ひねくれてンなオメー」
東「フフフ」
新「聞きたいんだけどさ尽八」
東「なんだ隼人」
新開が悲しそうな顔で尋ねた。
新「この緑茶……。なぜか甘いし白く濁ってるんだ……」
全員が新開の注文した緑茶を覗き込む。
東「隼人。アメリカ人に緑茶や紅茶や抹茶が区別出来ると思うか。tea と名の付くものには全て砂糖とミルクが入っている」
新「最初に言ってくれよ……」
新開はシクシクと泣き出した。
東堂は荒北に向き直る。
東「オレをひねくれてると言ったがな」
荒「なンだ、やる気かァ?」
拳を構える荒北。
東「根拠はあるのだよ」
福「ほう」
福富は荒北を制して身を乗り出す。
東「今回は日程的に行けないが……カリブ海にネズミー所有の島がある。豪華クルーズ船でそこへ行くツアーが人気だ」
荒「規模がパネェな」
東「そのプライベートアイランドでは、遠浅の海中で様々な魚と触れ合えることで有名だ」
福「まさに楽園的な光景だが……サメとか大丈夫なのか?」
東「サメもエイも居る」
新「大丈夫じゃないじゃないか!」
東「安全だ。なぜなら……」
3人は東堂の言葉を待つ。
東「そこに放流されている全ての魚は、1本も残さず歯が抜かれているからだ」
福「……」
荒「……」
新「……」
言葉を失う3人。
東「フハハハ!これが夢の国の現実なのだよ!」
東堂は両手を掲げ、カフェ中に響き渡る声で高笑いをした。
荒「……こりゃア確かに論文が書けそうだぜ」
3人は顔を見合せて納得した。
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