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『スラムダンク』に学ぶ人生哲学


実は私、

業界きっての「スラムダンク狂」としてその名を知られています。

前に中田敦彦のYouTube大学で「スラムダンク」が取り上げられ、この度待望の映画化ということで、私なりの「スラムダンク論」を書いていこうと思います。

✔スラムダンクとは何がすごいのか

「スラムダンク」の世界には、「現在進行形で進むバスケのプレイとその周囲の出来事」以外のものがほぼ出てきません。「物語内には存在しない」と言っていいくらいです。


主要登場人物の多くは「現在進行形で進むバスケのプレイ」で己の全てを表現しています。何らかの経験や環境などコートの外で起きる出来事でキャラクターを作っていくのではなく、「バスケをする姿」という情報のみによって彼らがどういう人間かということを想像させ、しかもその手法が登場人物ほぼすべてにあてはめられています。


つまり、登場人物が何を考えているか、どういう人間かを、「コート内でのプレイや言葉」によってのみ想起させているのです。

それでも仙道や牧、藤真などの敵チームのキャラは、試合内容以外の情報がほぼないにも関わらず、非常に魅力的なキャラとなっています。

少年・青年向けのスポーツ漫画は、試合がメインに描かれているものが多いのですが、なかでもここまで登場人物の情報を意図的に限定している漫画は他に無いでしょう。


作者・井上雄彦のこの手法こそが、「スラムダンク」が他のスポーツ漫画と一線を画す大きなポイントなのです。


✔スラムダンクの特異点『三井 寿』

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そんなスラムダンクの人物描写で例外と言えるのが、三井が入部するエピソード。スポーツ漫画の中で一、二を争うほど有名なセリフ

「安西先生、バスケがしたいです」が出てくる回です。

彼の輝かしい過去とその後の過ちが明らかになるのですが、「スラムダンク」の中で三井という男は、「普通の手法で描かれている」がゆえに特異なキャラに仕上がっていて、それが彼の魅力を際立たせていると思います。(実際、ミッチーが一番好きという人も多いですからね)

この「三井的手法=普通のキャラ造形」が多少なりとも見受けられるのは赤木、木暮、魚住、沢北くらいでしょうか。それでも題材は「バスケ」という分野に限定されており、しかもこの三井のエピソード以降はほぼ目にすることが無くなっていくのです。

「スラムダンク」に登場するほぼすべての主要キャラクターが「情報を限定することによって、キャラを描く」という特異な描き方をされていることはすでに触れましたが、そんな「スラムダンク」の中で、さらに別の意味で特異なキャラクターがいます。


それこそ、主人公の桜木花道なのです。

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✔バスケを通して、自分とは何者かを知る

人は普通、「自分がこう思うから」「こういう行動をとる」という順番で動きます。
さらに「なぜ自分がそう思うのか」となると、「自分はこういう人間だから」「こういう風に考える」と己の内側へと思考がさかのぼっていくのです。

三井の名ゼリフに象徴されるように、「スラムダンク」の登場人物の多くは、「俺はバスケが好きだから、バスケをする」、つまり「人格→思考(感情)→行動」となっています。

ところが桜木だけは逆。「行動→思考(感情)→人格」という構造になっています。彼は「バスケット選手(バスケが好き)だからバスケをしていた」のではなく、「バスケをしたから、バスケット選手になった」のです。

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「スラムダンク」とは、「桜木花道がバスケと出会い、バスケをすることで、バスケット選手になるまでの物語」。


さらには「バスケを通して、桜木自身が自分が何者であるのか悟る物語」


「スラムダンク」の山王戦のクライマックスはセリフがほぼありません。


それまでも、言葉ではなく行動のみで自分の内面や思考、感情を語ってきた彼らだからこそ、究極の形としてこのような描写になるのは当然なのかも知れません。

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「スラムダンク」に描かれる登場人物たちは、「自分が何者であるか」を語るのに「バスケのプレイ」という非常に限られたメッセージしか持ちません。しかしその限られたメッセージによって、それを知らない読者にまで、自分がどんな人間であるかということを語り切ってしまう。

「バスケをする」それだけの行動で、人はここまで自分というものを表現し、語ることができるのか。そして「バスケをする」ただそれだけで、自分が何者であるのか知ることができるのか。

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私が「スラムダンク」に感じた、他の漫画にはない凄み、そしてずっと読み続ける理由というのはたぶんそこだったんだろうなあ。なんて思うわけです。

✔映画化も決定!

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自己紹介(双極性障害の元音楽プロデューサー)


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