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書評「マツダ 心を燃やす逆転の経営」

こんにちは。

牧 菜々子です。

マツダは、なぜ、経営改革を貫くことができたのか。

それは、「代案がなかったから」でした。

「他に良案があれば、喜んでそれに乗ります。」

そう言い続けることで、人を動かし、ついに逆転を果たしたのです。


「じゃあ何をやるんですか?」

トヨタのプリウスが先行する中、ハイブリッド車を後発でやっても、利益が出ない。

規模が違う。

資金も少ない。

でも、ガソリンエンジン「スカイアクティブ」の開発が成功すれば、世界一を狙える。

成功するかどうかはわからない。

なにせ、「志が低い!」と檄を飛ばされて顔が引きつった担当者が、「モノになるかどうかわかりません。」とおずおずと提出してきたのが、スカイアクティブの原型だったのだから。

失敗するかもしれない。

それでも、最初に考え抜いているから、成功の芽が出始めている。

ここでやめたら、じゃあ、何をやるんですか?

頭で考えたらそうなることを、そのまま申し上げただけです。

V字回復の立役者、金井氏はそう語ります。


二兎を追うために「最初に考える」

スカイアクティブに、盲目的に突っ走ったわけじゃない。

水素も試した。

でも、一向に水素ステーションが普及しない。

早めに試して、撤退する。

それは、失敗ではない。

路線を修正すれば、間に合うんです。

マツダが勝つには、エンジンで世界一の性能を狙いながら、開発コストを減らすしかない。

二兎を追うのです。

性能とコスト、どちらもほどほどに、では、売れない。

付加価値がないから。

売れない車を一生懸命造るなんて、空しいですよ。

二兎を追うために、最初に考えるのです。

最初に考えることをしない人がいるなんて…。

面倒なんじゃないですか?考えるのが。

大事なのは、考えて、根拠を明確にして「決める」ことです。

そして、「いつ、誰が、どういう理由で決定したのか」を明記しておく。

責任追及のためではなく、修正ポイントにするためです。

修正ありき。

だから、早めに試すのです。


金太郎飴で大いにけっこう

ドイツ車や、トヨタに、「走りのワクワクではマツダに敵わない」と言わせる。

だから、世界一のエンジン、スカイアクティブに注力する。

最初に考え抜いて、決めて、理由を明確にしているから、注力できる。

そして、コストを抑えるために、デミオ、アクセラ、CX-5、アテンザ、ロードスターのプラットフォームを共通化する。

ある程度共通化すれば、1本の生産ラインに、別の車種を載せることができます。

生産台数を調整できれば、利益が上がりやすくなる。

規模と資金力で劣るマツダの生きる道は、そこしかない。

そのうえで、6車種を「鼓動」デザインで統一する。

よく、「マツダの車は、どれがどれだかわからない。

でも、マツダの車だということはわかる。」と言われます。

狙い通りです。

金太郎飴で、大いにけっこう。

デザインで志を示し、同時にイメージを統一化することで、コストを下げているんですからね。


マツダの志

ワクワクする走りを世界一のエンジンで実現し、環境規制を電気ではなく「燃費向上」でクリアする。

マツダの志は、人生が楽しくなるような、心ときめくドライビング体験を提供すること。

それが、「Zoom-Zoom」戦略です。

セダンもSUVもひっくるめて、理想の1台を造る。

そしてそれを、排気量別、サイズ別、車種別にアレンジするのです。

そうすれば、コストが下がる。

改良も、一気にできる。

規模の小ささが、逆に武器になるのです。


金井氏の心配

そう語る金井氏にも、心配がありました。

自分たちが造った車は、乗っていただければ、初めての体験をしていただける。

デザインも、奇をてらっているわけではなく、真っ当なもの。

その正直なアプローチが、世の中に評価されるのか、ということが、一番の心配だったのです。

世間に評価されなければ、自分が責任を取るしかない。

でも、正直に、真っ当にやっていれば。

自分では言いにくいんですが、王道的な、いいものはいいんだという当たり前のことをやれば。

本当にいいものを、正直に、愚直にやった。

あとは、それが受け入れられるような世の中であることを、信じたい。

心配というか、祈るような気持ちでした。


世の中に受け入れられた理由

そして、マツダのZoom-Zoom戦略は、受け入れられました。

世の中に、受け入れられた理由。

それを、金井氏は、こう分析しています。

それは、約束ですね。

「一貫して続ける」と、ブレをなくした。

そうすることで、「マツダは言うだけじゃないな。

約束を守っているな。

マツダのクルマは真っ当だ。」

そう思ってくれる人が、まだまだですが、増えつつある。

地味なところ、「ペダル配置が運転しやすい」とか、「視界がいい」とか、そういう地味なところに注目してくださる方が増えている。

マツダを「少し知っていた」人が、かなり知ってくださるようになった。

マツダに「ちょっと興味があった」方に、すごく興味を持っていただけるようになった。

金井氏は、そう言います。


顧客は評価したくてたまらなくなる

従来の「常識」とは違うけど、「それはもっともだ」という意見を、なかなか口にできない。

閉塞感が漂う。

そんな時代だから、真っ当なことをしているマツダが気になってくるのではないでしょうか。

普段の生活の中で、「自分が正しいと思っていることは、やっぱり正しいんじゃないか」と思う勇気が欲しい。

そんな人々が、マツダ車の、ペダル配置や視界のよさなど、地味なポイントを評価したくてたまらないのではないでしょうか。

当時のマツダにも、閉塞感があった。

金井氏の提案も、理解されなかった。

今までのやり方を、ほぼそっくり変えなきゃいけない。

変えて何になるの?

どうやって生産するの?

こう言われましたよ。

「金井さん、何を言っているのかわかりません。」

そこで、のみ込みのいい連中と、具体例を作った。

これで、イメージしてもらえるようになります。

そして、口下手でもいい。

技術者に語らせるのです。

熱が伝播し、最後の最後に社内の空気感が変わる。

それが、世間にも伝わる。


トヨタがマツダに惚れ込んだ

そして、ついに、トヨタから、提携の話が来ることになるのです。

2013年、マツダのアクセラに、トヨタのハイブリッドユニットが搭載されました。

そして、トヨタをしてこう言わしめました。

「『走らせて退屈なクルマなんて絶対につくらない。』

マツダのこうした考え方に共感している。

私たちの目指す『もっといいクルマづくり』を実践している。」

と。

マツダの金井氏は言います。

弱者だからって、誇りを持てないわけじゃない。

「いつまでもこのままでいる気はないぞ」という気持ちがあれば、誇りは持てる。

と。

「どうせ俺たちは」という負け犬根性を捨てて、理想を語る。

そこから始まるのです。


人生論として

この本の内容が、こんなに人生論として役立つなんて、思ってもいませんでした。

ただ私が個人的に、2代目アテンザに乗っていたから、そして、街を走っているマツダ車がかっこいいから、どうしてかっこよくなったんだろうと思って、この本を手に取ったのです。

マツダのブランドイメージ戦略が、コストを下げるためのものだったとは…。

あえて似たような車を造り、マツダというブランドを際立たせる。

そして、あのかっこいいデザインが、「真っ当だ」という高評価を受けていたことを、初めて知りました。

たしかに、私が「かっこいい」と思ったのは、「派手さはないけれど」という感覚であって、まさにそこにセンスを感じたものですから、金井氏が「こんなに真っ当で世の中に受け入れられるのかどうか」と祈るような気持ちだったことも、わかる気がします。

そして、マツダのブランド力が向上した。

トヨタが提携を望むまでになった。

私たち一般人だって、絶対敵わないような相手から、憧れられるような時が来るのも、夢ではないのです。

そんな夢が叶ったのも、ワクワク感と、コスト削減という、二兎を追ったから。

ヤマト運輸が、再配達の手間をなくすことと、顧客が自宅で待つイライラをなくすことの二兎を追って、時間指定配達を世に生み出したように。

徹底的に競合を調べ上げ、考え抜き、試しては修正し、「代案があるなら喜んで乗りますよ」と言い続けられるくらいに、「これしかない」と自信を持って貫く。

それはきっと、「こんなに正直で、真っ当で、奇をてらったことは何もしていない、当たり前のことでいいのだろうか」と、自分でも心配になるような、愚直なものであるはずなのです。

資金がなくたって、弱者だって、「いつまでもこのままでいる気はない」という誇りを持って、「走らせて退屈なクルマなんて絶対造らない」と、志を語る。

理想を語る。

そして、その姿を見て、世の中が気づく。

ぶれてないな。

約束を守っているな、と、かなり興味を持ってもらえるようになる。

「いつまでもこのままでいる気はない」

マツダの、心を燃やす逆転の経営の神髄は、この「誇り」にあったのです。

だから私たちは、「いつまでもこのままでいる気はない」という誇りを持って、理想を語ることが大切です。

そうすることで、王者が惚れ込む存在になることができるのです。


『マツダ 心を燃やす逆転の経営』山中浩之著(日経BP)

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