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ミスチルが聴こえる(短編小説)

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Mr.Childrenの曲を聴いて浮かんだ小説を創作します。 ※歌詞の世界観をそのまま小説にするわけではありません。
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記事一覧

君がいる夏 (ミスチルが聴こえる)

君がいる夏 (ミスチルが聴こえる)

 

 僕の好きな夏が終わってしまった。同時に、学校が始まってしまった。夕暮れも悲しくなる季節が来る。海を見ても虚しくなる季節が来る。冷たい風が吹き、寒くなるこれからが、僕は嫌いだ。

「何聴いてるの?」

 放課後。君はイヤホンをした僕の肩を叩いて、訊く。

「言っても知らないよ、君は」

 それでも君は僕を離さない。

「いいじゃん、教えてよ」

 小さな子供みたいにせがむ君。仕方なく、僕は教

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GIFT『ミスチルが聴こえる』

GIFT『ミスチルが聴こえる』

 あなたに贈るべきものはなんだろう?
 プレゼント? それは物? しかし、なんだか違っている。
 僕が贈るべきもの。それは、『言葉』かもしれない。
 僕自身、言葉があったからこそ今まで生きることができた。落ちこぼれな自分を表現できるものは、言葉しかなかった。言葉さえあれば、どんなにどん底にいても自分を慰めることができた。真っ暗闇にいた自分に、光を与えることができた。
 だから今度は、あなたに捧げた

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花の匂い『ミスチルが聴こえる』

花の匂い『ミスチルが聴こえる』

 空っぽになった花瓶は、砂漠みたいに水気が無く干からびている。それ以外は、なんでもない毎日。
 僕は支度をして家を出る。電車に乗って会社へ行き、システムを作って再び電車に乗って帰宅する。夕飯はコンビニの弁当か、スーパーで買った惣菜。あるいは外食。たまにレトルトで済ます。テレビはないから、スマートフォンを使ってネットサーフィンをするか、YouTubeで動画を見る。猫がおもちゃで遊ぶだけの動画。外国人

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羊、吠える『ミスチルが聴こえる』

羊、吠える『ミスチルが聴こえる』

 ねえ、あそこにいる動物、何?
 僕は目を擦って、凝視して少し離れたところにいる物体を見つめる。綿みたいに白いモコモコに包まれていて、のっそりと左右に動くだけだ。
「あれは、羊ですね」
 しかし僕も佐藤さんも首を傾げてしまう。どうして、こんな場所に羊がいるのだろうか。
「ここ、住宅街だよね」
「そうですね。れっきとした」
「この辺に、動物園とかふれあいパークみたいな場所あった?」
「いや、この街に

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ロックンロール『ミスチルが聴こえる』

ロックンロール『ミスチルが聴こえる』

「へい、青年。何聞いているんだい?」
 イケイケな爺さんがトントンと肩を叩いてきたからヘッドフォンを外すと、初対面とは思えない馴れ馴れしさ全開で質問してきた。
「乃木坂です」
「乃木坂? 千代田線の?」
「ええ、まあ」
 面倒な爺さん。早くこの場を去ろう。
「お前さんは、ロックは聞かないかい?」
「ロック?」
「アイスじゃないぜ。ロックンロールさ。知っているだろう?」
「まあ、知っていますけど」

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東京『ミスチルが聴こえる』

東京『ミスチルが聴こえる』

 久しぶりにこの街へやってきた。東京。誰もが何かを求めて、動き回る街。特にエネルギッシュで大人になりたい若者たちが集い、文化を形成していく。そして彼らはここで大人になり、今度は社会人として日本を作っていく。きめ細かく定められたスケジュールをもとに、彼らは働き続ける。そこから脱落するものは、地元へ帰っていくか、空気が美味しい地方へ行って、ゆったりした人生を送る。
 僕も、かつてはここでしこたま働き、

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少年『ミスチルが聴こえる』

少年『ミスチルが聴こえる』

 灼熱のアスファルトを踏みしめながら、僕は君を追いかける。身体はすでに大人になってしまったから、すぐに息切れしてしまうが、それでも君を探さないといけない。
「どこへ行ったんだ?」

 君は突然、僕の前から姿を消した。置き手紙もなく、メールもなく、まるでいつの間にか販売終了した商品みたいにスッといなくなってしまった。
 僕にとって君が最愛の人であることは間違いなかった。だから意識的に君のそばで笑って

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エソラ『ミスチルが聴こえる』

エソラ『ミスチルが聴こえる』

 歌を歌う少年が一人。何の歌かわからない。メロディも曖昧。だけど希望に満ち溢れた歌声で人々を魅了する。
 真の雨が降り続けている。シャワーみたいに粒がきめ細かく、全身を撫でるように濡らしてゆく。その中で、少年は希望を口ずさむ。歌詞はうる覚えなのか、時々鼻歌になる。それでも、少年は一生懸命歌っている。
 人生に息詰まった青年が一人。少年の歌を聞いて涙を流す。嗚呼、僕の人生はちっぽけなもので、少し道を

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HANABI『ミスチルが聴こえる』

HANABI『ミスチルが聴こえる』

 晩夏。僕らの上に広がる夜空に、火の花が咲いた。それは温かく、煙の匂いがした。
「若いっていうのは、とても幸せなことだよ。だって、若ければ何にだって挑戦できるからね。それに、若さは純粋である証でもある。何も知らない分、スッと飛び込めるパワーだってある。若いというだけで、未来は明るく見える」
 父さんは目を細めながら夜空を見上げ、打ちあがる炎の輝きに投げかけるように言った。
「父さんだって、まだまだ

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通り雨(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

通り雨(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 ビルの入り口。僕は突然降ってきたゲリラ豪雨を眺めながら、先ほど買った缶コーヒーを飲んでいる。生憎の大雨。しかし、必然的に降る恵みの雨。考え方は様々だが、この後遊びに出かけようとしていた誠司はうんざりした顔をしていた。
「ひどい雨ですね」
「そうだな」
「全く、これから渋谷行こうとしていたのに。これじゃ行けませんよ」
「お前は若いな。僕はもう、渋谷みたいな喧騒した街に行く気力は微塵もないよ」
 誠

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しるし(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

しるし(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 初めて食べた君の手料理。ポテトサラダ。イモ感強めで、きゅうりとハムが入っている。
 初めて君と出掛けた場所。水族館。君は様々な魚の中で、クラゲをじっと見ていた。クラゲを見ていると不確定な未来でも大丈夫だって思えるの。僕には理解できなかったが、君はそんなことを言っていた。
 初めて君と喧嘩した日。些細なこと。僕が苛立っていたからつい言い返してしまった。全部僕が悪かった。だから翌日きちんと謝った。誠

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フェイク(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

フェイク(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

「嘘の話をしよう。これは僕が小学校五年のときだ。僕は放課後雨の降る街を一人で帰っていた。すると、僕の目の前に一匹の河童が現れて、こんにちはって会釈してきた。あの頃の僕は妖怪が好きだったから、つい興奮してしまって、こんにちはって返事をした。すると河童はこっちにおいでって僕を誘った。僕は河童の後ろをついて歩いていった。しばらくして、河童は一つの川、とは言っても小さな川だ、そこに辿り着き、ダイブした。ひ

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やわらかい風(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

やわらかい風(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 やわらかい風が吹き、どこかでたんぽぽの花が微かに揺れる。紙飛行機が弧を描いて飛んでいく。それから、潤華の長くて清廉された髪を流し、頬を撫でる。
「気持ちいいね、風」
 こんなに穏やかな日は久しぶりだった。空も青く、くっきりとしている雲は美味しそうだった。
「疲れが取れるよ」
 僕も潤華も土手の上にしゃがみ、何もしないでぼうっと時間を過ごす。それが当たり前ではないことを知っているから、流れていく時

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アナザーストーリー(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

アナザーストーリー(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 少しの間、それは夜が訪れるとき、僕はもう一つの物語を考えてしまう。
 もし、君がそばにいたら。
 一年前の僕は強がっていて、素直じゃなかった。自分が常に中心だと勘違いしていて、太陽は僕を照らすためにあるとさえ思っていた。だから僕は自分勝手で、それは恋愛においても例外じゃなかった。
「たまには私の意見も聞いてよ」
 君がムッとした顔で僕に文句を言うと、僕は嫌な顔をして「なんで?」と言ってしまう始末

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