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詩『SANAGI#~#最後の日~』#シロクマ文芸部

最後の日、私がとうとう羽化するカウントダウン、2023.12.31.23:59。新年まであと一分を切った。毎年、ひとり寂しく年を跨いだ10年間の匂いと色と汗が染みついたしろい部屋。所々、壁が汚れて、凹んでいる。狭い洋式トイレの便座は、夜中にふらふらで覚醒したときに、崩れおちるように座って割れてしまった。もがき続けたもうひとりのわたし、の胎動の痕跡とその証明書。

(目覚メナサイ、時ハ満チ満チタ)

ぺりり、と蛹の形をしたワンルームマンションは、しずかに剥がれ落ちていった。ちいさな殻をなかなか破れなくて、膝を抱えて蹲っていた日々。来年こそは扉を開けて、この10年間から卒業してゆくのだ。卒業おめでとう、わたし。

こわれものみたいな淡いいろの羽根をそっと解放する。真新しい未来を睫毛の止まり木に乗せて、ゆうるり、と瞬きしながら飛んでゆく。ひかりの羽ばたき、スローモーションで弾けるセピア色の記憶たち。泡、溢れ出すシャンパンのような慟哭。5、4、3、2、1……一斉に……

『A Happy New Year!』

『あけおめ』で溢れるスマホのラインラッシュ。テレビの中の馬鹿騒ぎ。コロナの自粛要請は徐々に薄れてゆく。マスクを外す機会が増えた。地続きの地平線は、永遠につづくかと思われた。しかし時間は地平線ではない。自分の足で立ち上がれ。

(Hello、hello、もう一度、産み落とされたあたらしいわたし、)

もうこの手のひらは迷わない。
空を翔けて、新世界へ。
何度だって、扉を開け続けるだろう。

Good-bye、2023.12.31、最後の日、ありがとう。


*過去作イラスト「SANAGI#」からイメージして、詩を書きました。

photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、Perfect Disco さん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾
イラスト:未来の味蕾


#シロクマ文芸部
#最後の日

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