宮本松
動物たちも登場する、ちょっと不思議な世界のお話です。長めのストーリーは分けて掲載しています。
こどもの頃の体験や空想をもとに、5000字くらいのお話を作りました。短めのストーリーのものを掲載しています。
絵と文というのは、まったく異なるジャンルのものだと、数ヶ月前までは思っていました。絵を描く場合、絵筆をうごかしながら、思考にじゃまされずに考えるという、独特のプ…
「ありがたいことだよ。感謝しないとな」 何かにつけて感謝、感謝と父が口にしていたのは、わたしが高校生の時でした。 何事にも感謝する。感謝すべきことは、日々の暮ら…
「そろそろアニバーサリーが近づいてきたね」 アニバーサリーというのは、テル坊の誕生日とわたしたちの結婚記念日のことです。再婚同士であるわたしたちは、結婚式も挙げ…
< 3 > 「まい子、ご飯にしようか」 「うん」 お父さんに言われて、テレビを見ていたまい子は立ち上がり、食卓にすわった。こい緑色のエプロンをつけたお父さん。見慣…
「あんたが掃除してくれた庭がすっきりと片付いて、気持ちがよくてね。庭を見るたびにあんたのことを思い出しているのよ」 実家に帰省した後は二週間ほど、母からの電話の…
皆さんは家の中でスリッパを履かれますか。それとも裸足の方が楽ですか。生まれ育った習慣もあると思いますし、今住んでいる家の造りにもよると思いますが、わたしは40代に…
「うぇえい、うぇえい!」 休み時間になると、校舎のいたるところから子どもたちが運動場にかけ出してきて、何がそんなに楽しいのか、満面の笑みで走り回っている。わたし…
< 2 > 週末になるのが、こんなに待ち遠く感じられるのは、久しぶりのことだ。もちろん学校が休みであることは、いつでもうれしい。でもそれはワクワクする気持ちとは…
「よくそんなにかっこ悪いメガネのフレームを、探し出せたもんだね」 わたしがメガネをかけている姿を見ると、ミドリーが時々そう言って笑います。 「だって、あんなに沢…
わたしが今住んでいる地域は、年中風が強くて、春のこの時期も一日の長い時間、ぴゅうぴゅうと音を立てながら風が吹いています。洗濯物が吹きとばされることもあれば、台所…
夕方18時になると、わたしのスマホがオルゴールの音で知らせてくれます。 「やばい、やばい、忘れるところだった」 バッグのポケットから錠剤を取り出して、パクッと口に入…
< 1 > 学校からの帰り道、まい子は小さな身体に不釣り合いな大きな荷物を、肩から斜めがけにして図書館の前を通り過ぎようとしていた。冬をつれてくる風は、日増しに…
「母さん、絵てがみを持ってきて」 実家に戻ると、何もすることがないとボーッとしがちな母に一つの任務を与える。それもわたしの大切なつとめです。50代前半に30年間つづ…
<3> 土手をもう少しのぼっていった先に、小さな古い家がありました。ぽつんと立っている家のまわりは、ひときわ強い風がふいていました。付近をとおる者はだれもいませ…
ここ半年くらいのことでしょうか、料理に白だしを活用するようになったのは。新しいものを生活に取り入れるのが苦手なわたしは、ずいぶん昔から白だしの存在を知っていたに…
桜の見ごろは終わってしまいましたが、春はあちらこちらの家の庭で、色とりどりの花たちが咲きほこっています。チューリップ、ダリア、三色スミレ、水仙、スズラン。わたし…
2023年12月17日 23:45
絵と文というのは、まったく異なるジャンルのものだと、数ヶ月前までは思っていました。絵を描く場合、絵筆をうごかしながら、思考にじゃまされずに考えるという、独特のプロセスをたどることができるから。反対に文章を書く場合は、かならず書き手の思考を使わなくてはなりません。自分の常識から自由になりたくても、なりきれない。いつもの論理に足元をひっぱられて、書き進めたいことがらの自由度が下がってしまう、そう思って
2024年5月7日 23:41
「ありがたいことだよ。感謝しないとな」何かにつけて感謝、感謝と父が口にしていたのは、わたしが高校生の時でした。何事にも感謝する。感謝すべきことは、日々の暮らしの至るところに見つかる。身近にいる人たちにしてもらったこと、助けられたこと。今元気でいられることも有難いし、ご飯を食べられることも有難い、それから毎日、家族がそろって食卓を囲めるなんていうことは、当たり前のことじゃないんだぞと、機嫌のよ
2024年5月6日 00:11
「そろそろアニバーサリーが近づいてきたね」アニバーサリーというのは、テル坊の誕生日とわたしたちの結婚記念日のことです。再婚同士であるわたしたちは、結婚式も挙げていません。二年ほどお付き合いをして、まずは同居からスタートしました。内輪だけの食事会でも開こうと思っていたにも関わらず、世界中がコロナで大混乱に巻き込まれたため、食事会すら行わないままの入籍になってしまいました。一応、お盆と正月にそれぞ
2024年5月4日 08:13
< 3 >「まい子、ご飯にしようか」「うん」お父さんに言われて、テレビを見ていたまい子は立ち上がり、食卓にすわった。こい緑色のエプロンをつけたお父さん。見慣れない格好だ。ぎこちない空気が台所にみちている。「いただきます」「いただきます」二人とも普段の半分くらいの音量で、挨拶をしてから、箸を手にとった。今日のおかずは、白いごはんとコロッケ、やさいサラダ、それから味噌汁。コロッケはスーパ
2024年5月2日 23:57
「あんたが掃除してくれた庭がすっきりと片付いて、気持ちがよくてね。庭を見るたびにあんたのことを思い出しているのよ」実家に帰省した後は二週間ほど、母からの電話の回数がいつもより割増になります。「そう、それは良かった。毎朝、父さんが庭を掃いてくれてるからね」父は、朝起きてから田舎の田んぼ道を小一時間ほど散歩するのが日課です。散歩からもどってくると、熊手で庭の石砂利をきれいにならします。雑草
2024年4月30日 23:46
皆さんは家の中でスリッパを履かれますか。それとも裸足の方が楽ですか。生まれ育った習慣もあると思いますし、今住んでいる家の造りにもよると思いますが、わたしは40代に入った頃から、スリッパを履くのが習慣になりました。その頃、住んでいたアパートが、日当たりの悪い一階の部屋で、冬場になると地面の冷気が床まで伝わってきて、足元が凍るほどに寒かったせいです。スリッパを履いていないと体温を奪われてしまうので
2024年4月28日 23:37
「うぇえい、うぇえい!」休み時間になると、校舎のいたるところから子どもたちが運動場にかけ出してきて、何がそんなに楽しいのか、満面の笑みで走り回っている。わたしがまだ仕事をしていた頃、時折訪れる小学校で、そんな光景を何度も目にすることがありました。(まだ子どもだった頃、わたしもあんな風に走り回っていたのかな)自分の姿は自分で見ることが出来ませんが、記憶の糸をたどった時にまぶたの裏に浮かんで
2024年4月26日 23:49
< 2 >週末になるのが、こんなに待ち遠く感じられるのは、久しぶりのことだ。もちろん学校が休みであることは、いつでもうれしい。でもそれはワクワクする気持ちとは、ちょっと違う。(こういう感覚、小さい頃によくあったな)まだ小学校の低学年だった頃、休みの日になると、いつもより一時間以上早く目が覚めて、家の中をうごきまわり、お母さんに叱られた。「たまの休みくらい、ゆっくり布団で寝かせてよ」眠
2024年4月25日 23:53
「よくそんなにかっこ悪いメガネのフレームを、探し出せたもんだね」わたしがメガネをかけている姿を見ると、ミドリーが時々そう言って笑います。「だって、あんなに沢山フレームが並んでたら、何を選んでいいのか分からなくなるんだもん」一年半ほど前、5年ほど使っていた老眼鏡の度数が合わなくなってきて、テル坊といっしょに新しいメガネを買い求めたのですが、そのフレームの形が、わたしの顔かたちに合っていな
2024年4月23日 23:44
わたしが今住んでいる地域は、年中風が強くて、春のこの時期も一日の長い時間、ぴゅうぴゅうと音を立てながら風が吹いています。洗濯物が吹きとばされることもあれば、台所の裏のベランダに置いているゴミ箱が倒されていることもあります。朝起きてカーテンと窓を開け、外の空気を吸い込むのはわたしの日課の一つです。「今日は一段と風が強いな」そう感じた日には、テル坊が洗面を済ませ身支度を整えて、朝ごはんを食べ始
2024年4月21日 23:35
夕方18時になると、わたしのスマホがオルゴールの音で知らせてくれます。「やばい、やばい、忘れるところだった」バッグのポケットから錠剤を取り出して、パクッと口に入れます。これが蕁麻疹の薬です。以前の病院では、口の中で溶かすOD錠をもらっていましたが、今の小さなクリニックには常備されていないので、薬を飲み込むためにお水も飲まなければなりません。「なんだか痒いぞ。あれ、腕が赤くなっている」二年
2024年4月19日 23:07
< 1 >学校からの帰り道、まい子は小さな身体に不釣り合いな大きな荷物を、肩から斜めがけにして図書館の前を通り過ぎようとしていた。冬をつれてくる風は、日増しに冷たくなってきているというのに、まい子の額にはうっすらと汗がにじんでいる。実際のところ、中学一年生の荷物は見た目以上に重たいのだ。「もう無理、いったん休憩しよ」図書館の前には小さな広場がある。大きな木の下のこわれかけたベンチに、まい子
2024年4月18日 22:52
「母さん、絵てがみを持ってきて」実家に戻ると、何もすることがないとボーッとしがちな母に一つの任務を与える。それもわたしの大切なつとめです。50代前半に30年間つづけてきた小学校の先生を退職した母は、日常とは忙しいことだという身に染み付いた感覚をもち続けていました。その頃、家を新築して田舎に引っ越ししたこともあり、毎日のように庭の手入れ、畑の野菜作りをしながらも、平日は毎日、何かしら習い事に通っ
2024年4月18日 07:01
<3>土手をもう少しのぼっていった先に、小さな古い家がありました。ぽつんと立っている家のまわりは、ひときわ強い風がふいていました。付近をとおる者はだれもいません。ガタガタと家のとびらがあき、中からおじいさんが出てきました。腰が少し曲がっていて、片手に杖をついています。ポストにたまった新聞を取り出し、家まで持ちかえろうとしたおじいさんは、地面にうずくまっている小さなアマガエルに気づきました。「
2024年4月16日 23:36
ここ半年くらいのことでしょうか、料理に白だしを活用するようになったのは。新しいものを生活に取り入れるのが苦手なわたしは、ずいぶん昔から白だしの存在を知っていたにも関わらず、手を出そうとはしませんでした。ちょっと高級そうだし、使いこなすのが大変そう。そんなイメージが湧いたという、ただそれだけの理由で敬遠していたのです。そんなわたしの煮物の味付けは、もっぱらほんだしとみりん、酒、醤油、砂糖、それから味
2024年4月14日 23:53
桜の見ごろは終わってしまいましたが、春はあちらこちらの家の庭で、色とりどりの花たちが咲きほこっています。チューリップ、ダリア、三色スミレ、水仙、スズラン。わたしがいつも歩く散歩コースには、道端にいろいろな種類の水仙も咲いていて、黄色と白の色合いが少しずつ異なっているので、見飽きることがありません。同じ黄色の花ですが、もっと身近な存在がタンポポです。子どもの頃、登下校の途中や公園で遊んでいる時に