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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#55

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#55

12 神の行く末(2)

 気分転換と机の上に長崎の周辺の地図を広げた。ジリ貧の財務を考えると、収益の手を考えなくてはならない。この近隣で金を生むことができるもの。炭坑や鉱山があればそこまで知行地を広げて行ければ何とかなるはずだ。そこまで考えたところで、部屋を出ようとした。廊下には人影が見えた。大隈が去っていっていた。
「また大隈じゃ。見張られているようじゃの」
思わず部屋に引っ込んでしまった聞多

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#56

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#56

12 神の行く末(3)

 聞多にとってこの大坂行きは、大隈と親しくなる良い機会になった。そのまま二人で宿舎となる宿に到着した。宿に着いた聞多を待っていたのは木戸からの文だった。その文を読んだ聞多は木戸のもとへ急いだ。
「そう急がずともよいだろ。明日には俊輔もつくようだし」
「俊輔がおらんほうがええんです。わしはほんとうの意味では、厳罰は望んではおらんのです」
「どういうことだ」
「イギリスで見た

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#57

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#57

12 神の行く末(4)

 木戸が切り出したところで、皆で席を立って、動いた。聞多は大隈と並んで歩いた。
「くま、どうじゃ。うまくやれそうか」
「木戸さんとおぬしとのやり取りいつもああか」
「そうじゃ、堅苦しいのなしじゃ言うとったじゃろ。でも、結構気難しいぞ」
「おぬしには言われとうなかだろ」
「そうかの」
聞多がケラケラ笑いだしていた。
 そうこうしている間に行在所についた。門から入ると「聞多」

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#58

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#58

12 神の行末 (5)

 料亭に入り、聞多が色々注文をした。料理が運ばれると聞多と俊輔は酒を飲み始めた。
「聞多、長崎はどうなんじゃ」
「まぁ、どこもそうじゃろうが金がない事にはの。何もできん」
「神戸の方は外国人との間のいざこざが多くて大変じゃ。攘夷など無意味だと通知を出しただけじゃ変わらん」
「おまけに贋金もあるしの。しょっちゅう外国人商人からねじ込まれて、頭の痛いことばかりじゃ」
「やは

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#59

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#59

12 神の行末 (6)

 聞多は木戸に会議の終わったあと、控えの間で待っていてほしいと言われていた。外を眺めて待っていると、木戸が入ってきた。
「すまん、待たせた」
「いや、それほどでも」
「実は、このあと長崎に行きこの件の説明をすることになった。そのついでにというか山口にも行って、新政府出仕者の帰藩が認められないことについても説明して来ようと思っている」
「殿には義理が立たぬことになってしまう

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#60

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#60

13 貨幣の重み(1) 木戸が長崎を去った頃、キリシタンの送致に気づいた外国の公使たちが抗議に押しかけてくるということもあり、なかなかこの問題も静まることができなかった。
 その上資金不足が顕著になってきた。新政府になって一番の問題は金がないこと。東北の会津や佐幕藩の征討についても、金がなく軍を動かせない状態があった。少しでも政府に金を作ろうと、太政官札を運用してみた。しかし使える地域は限られてい

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#61

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#61

13 貨幣の重み(2) もうひとつこの旅で見つけられたものがあった。下関から船で門司にわたり、陸路で長崎を目指していた。途中で寄った博多の街で、つい骨董品屋を眺めてしまった。
 「これは、良さげなものがありそうじゃ」
するとそこにあった、素晴らしい染め付けの五客の器と目があってしまった。こんなに目が離れていかない感覚は初めてだった。
「うーん、目が離せない。どうやっても目がいってしまう」
「この値

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#62

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#62

13 貨幣の重み(3)
 製鉄所の方も壁にぶつかっていた。
「どういうことじゃ。まだ規則案が提出されておらん。速やかにしろと言ったはずだ」
「それは、事業所内の廃刀とは。あの」
所長が歯切れの悪い答えをした。その物言いが馨の気持ちの糸を切った。
「士だと威張ってどうなる。町人だと侮っておるから、製鉄所の空気が淀むのじゃ。皆で力を合わせてやる算段を考えろと申している」
「わかりました」
「良いか、一

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#63

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#63

13 貨幣の重み(4)
 また殿を始めとする藩主への根回しもほぼ済んで、版籍奉還が決定されることになった。ただ問題の知事の身分については、世襲制で決定しようとされていた。木戸と俊輔と歩調を合わせて辞職願を出して、世襲制反対の意思を明らかにしてほしいとあった。俊輔からも同様の文が来ていた。聞多は同意する旨と辞職願を木戸に当てて送った。
 同じ頃、山口の吉富から文が来ていた。はるが無事子を生んだとあっ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#64

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#64

13 貨幣の重み(5)
 聞多が向かったのは品川の宿ではなく、大村益次郎の屋敷だった。
「夜分恐れ入ります。木戸さんから先生のご意見をお聞きするように命じられました。長崎を長く留守にするわけにも行かず、時間が惜しいのでご迷惑とは存じますが罷り越しました」
「まぁいいでしょう。お上がりなさい」
「木戸さんから長州での財務・兵制の改革の指揮監督をするように命じられました。実際は私は大阪におり、実務は山

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#65

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#65

13 貨幣の重み(6)
 中央では民部省大蔵省の合併による財政と地方行政・通信交通政策の一元化も進められている。民部大蔵が合併すると、聞多も民部大蔵大丞兼大阪府大参事心得となり、造幣頭から異動したものの、大阪勤務は変わらず造幣寮への監督は続けていくことになった。造幣頭には井上勝(元の野村弥吉)が就任した。
 何をするにも金はかかるのに、手元にはない状況は相変わらずで、結果税金の取り立ては厳しさを増

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#66

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#66

14 脱隊騒動(1)

 聞多が大村益次郎の策を受けて、杉と山田顕義とやってきた山口での兵制改革だった。5000人を超える奇兵隊と諸隊を解隊して、朝廷のため中央に送る部隊を2000人選抜することが、まずやるべきことであった。その選抜の過程で、不満を持った兵たちが山口の本隊を抜けて、三田尻に集まり2000人にもなった。その兵たちが宮市に進み、常備軍と対峙する事態になっていた。藩庁は説得に努めていたが

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#67

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#67

14 脱隊騒動(2)

 事態は動いていた。山口の藩政府が状態が改善しないことに不安を感じ、藩知事の居館を警備させるため萩から干城隊を動かそうとした。
 それに反発して脱隊兵たちは藩知事を警護するといって、山口の藩知事居館を包囲する行動に移していた。しかも、救援に向かった干城隊を打ち破った。木戸は小郡に逃れて、野村靖や三好たちと対策を話し合っていた。
 東京についた聞多は、兵部省に赴き事態の説明を

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