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『つぎはぎポケット』あとがき

同人サークル【文売班 白黒斑 / Boolean Monochrome】は2023年9月10日開催の文学フリマ大阪11にて、詩集『つぎはぎポケット』を発表・発売いたしました。本記事では著者である水述 諦が、本書の内容について詩的に振り返ります。
※ 本記事は、本書の読了を前提としています


1.恥

遥けき衰え

始まりの詩。おぞましい死が目前に迫るなら、きっと私は詩を求める。

『人間合格』

本名の頭文字が母音なので、学生時代の出席番号はいつも早かった。大抵は窓際の列に座席があって、はためくカーテンが私を教室から切り離してくれていた。そのような時間にあって、私が考えていたこと。

本字の出産

漢字には意味の無い意味が乗り過ぎていると思う。つまりは憑依文字だ。

力が暴れる

人間は理性を持つ動物なので、善き人間の理想というものを所有している。一方、人間は本能に縛られる動物でもあるので、衝動的に理想から乖離する瞬間がある。そういったことに対する折り合いを、一人の男の子が付けようとしている様子。

開悟の花々

「解語の花」の対義語。花と呼ばれるものはいつだって美しいのである。

同胞に号砲

人生でもっとも腹が立つ瞬間の一つは、友達だと思っていた存在が友達からもっとも遠いところにいる存在に成り代わる瞬間だ。しかも一瞬の出来事で。そういう時、かつて友達だったが故にその評価は不当に厳しくならざるを得ないのではなかろうか。

右利き優遇社会において彼女が左利きであることに

逆だ、逆なのだ。「根は優しい」のではなくて、見えているものが根、優しいと思いたい気持ちがあなたの本音。だから、これらはそっくりそのまま逆なのだ。

2.生活

Day By Dry Battery

ただ生きるだけでも大変な社会になりつつあるので、くれぐれもみなさんご自愛くださいませ。働くのは生きるため。働くために生きるのではありません。

寝入る記憶

母を鏡として、少年は自分の姿を見つめている。女の子として生まれてきた自分の姿を。

興味:

私たちはこのような高貴さを持たずして生まれたのではなく、生きているうちにその高貴さをどこかに置いていってしまったのではないだろうか?

消えよ文学

文学の本質は学問から一番遠いところにあって、人生に一番近いところにある。人間が見出すものではなく、人間そのものであると言える。二文字でそれを表現するにはちょっと無理がある。

Hearty Harmony

忙しければたくましくいられる。だからもっと早く駆け抜けたい。

3.五言詩

そうこばん

ばばあが狂っているのなら、倉庫番もまた狂人である。

かったなし

食い物の恨みは恐ろしい。

いきるとは

衣・食・住と、感情。

4.叙情主義

凛々しい律動

忘れるな。糸が千切れる寸前、それは必ず張り詰めている。

5.十進数

1 9 6 10 8

1・4  9・10  10,  10      3610      28

1 9 6 10 8

英語・日本語・語呂合わせという重訳。英単語を「延期の手紙をポストぽーん!」と憶えることに似ているだろうか (なんだそれは)。

1 9 6 10 8

使用できる数字の範囲を 1-9 および10^nで表される数にまで拡張した。なお、定義域を虚数まで拡張した場合は愛について語ることが可能となる。

6.孤独

傷み止め

こういうことを繰り返し考えている者に対して私は親近感を覚えるが、彼らと私が互いに交わることはない。こういうことを繰り返し考えているような者たちだからだ。

Fool Loop Doll

While (1)
{
 FoolLoopDoll()
};

(ブ)ラインド・ウィンド(ウ)

区切られた窓、あるいは盲目の風。目に見えるものは目に見える通りに存在しているわけではなく、目に見えないものは存在していないわけではない。そのことを我々は肌から知る。

Shape of Shade

眠れない夜の思考の散乱と言ったら……。そして、朝になるとそれを一切思い出さない自分も異常だ。

旅の執着

終着の無い移動は、旅ではなくて放浪だ。Hollowな旅には、死ぬまで執着すると良い。

7.恋

私にとっての女神、恋汐りんごさんに向けて。

淡い甘い呪い

会わなくなってからその人のことをますます考えるようになるということが、たまにある。大概はあまり良い状況ではない。蜂蜜の中にいるみたいに、息が詰まってしまうから。

最小で最高の

私にとってのもう一人の女神に向けて。

角帯びる思考

大人は自分が子供よりも概ね全てにおいて優れていると思い込んでいるが、実際にはきちんと愛や恋に向き合う胆力などは確実に子供の自分よりも薄れている。そのことは子供の頃に見抜けていたはずなのに、そんなことも忘れて、今は見透かされる側に立っている。これでは角が立つのも致し方無い。

解けてくゆる

一人で生きていくようなしたたかさを持ち合わせていないから、私たちは一つになりたがる。大きくなってしまえば痛みは分散されるし、溶け合ってしまえば怖さも緩和される。他人の不安と私の不安を曖昧にかき混ぜて、どっちの不安だったかわからなくなった時、私たちはようやく笑っていられるようになる。あなたもわかるでしょう? 迷い無く頷いてくれる、私みたいなあなたが私は好きだ。

I MY MEME

論理としてではなく感覚として、できるだけ概念をありのままの形で表現してみようと思った。それをするには言葉が邪魔になる。しかし詩という形式を取る以上、言葉を使って表現するという制約から逃れることができない。せめてもの抵抗として、言葉を論理的にではなく感覚的に使ってみることにした。その結果、夢の中の出来事のような文章になった。そして必然的に、それは私そのもののような文章になった。

親しき芽生え

30の詩篇を練りながら、詩の自由度の高さが伝われば良いと思い、できるだけ様々な種類の詩を書くことを心掛けた。何を書いても詩になった。畢竟、詩だと思えば詩なのだということになる。それならば敷居は低い、書いてみようか、と今のあなたは思う。
だからこれもまた、始まりの詩。あなたが詩を求めるなら、きっと目前には新しい生が待っている。