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第13章 歯車の下で−2

Vol.2
朝を迎える日々がどうしてこうも苦痛に感じるのだろう。また一つまた一つと日々を重ねるたびに僕は、どうしようもない気持ちになる。煌びやかな日常を夢見ている。冷めたコーヒーを僕は啜った。

’’全く、君はどうしようもないな。’’

「何がだよ。」

’’いや、決意しては忘れて、決意しては忘れて。そうやって日々を繰り返して、また心をすり減らす。馬鹿の一つ覚えのように君はぐるぐると同じことを繰り返しているじゃないか。いつになったら動き出すんだい。’’

「すまない。正直にいうと、忘れていた。」

’’だろうね。薄々気がついていたよ。’’

「仕方なかったんだ。だって、日常はあまりに早すぎる。それに、精神的に疲れるんだ。」

僕は、ポツリとシンとした部屋で呟いた。すると、彼が僕に言った。

’’疲れるから。しんどいから変わりたいのに。疲れるから。しんどいから変われない。だなんて笑えるな。’’

彼の薄ら笑いが聞こえる。

「笑わないでくれよ。」

’’笑ってないさ。呆れているのさ。’’

僕はその言葉を聞いて自分という人間が心底嫌になった。自分でもわかっている。でも、なかなか変わることのできない自分に苛立ちと嫌気がさしていた。この二つの感情は混ざりやすい。そして、心の中にずっと居座り続ける。

「それは僕もわかっている。」

’’そりゃそうさ。だってー。’’

「でも、こればっかしは、どうにもならない。」

’’つまり。どういうこと’’

「だって、僕みたいな人間がこの世にはたくさんいるだろ。何も、僕だけが選ばれし特別な人間なんかじゃないんだ。世界の有象無象の一人。映画のエンドロールで現れる逃げ惑う人々。名前も与えられてない。なんなら僕よりも頭のいい人間は山のようにいる。そんな人間達、つまりは、キャリアとも言えるだろう。僕のようにこの世界を変えようとしている人間たち。そんな人間たちは何も行動していないじゃないか。僕だけじゃないはずなのに。ずっとその思いは誰かの人生に抱えられながら行き場はないんだ。」

’’確かにそうだ。でも、どうしてだろうな。未来をずっと丁寧に見ているのに今この瞬間をを変えようとしないのは。描いた理想に酔って自慰をしているようにしか思えないな。’’

「今を生きるのに精一杯なんだ。それに、そんなにみんな暇じゃないんだよ。」

’’自分の人生なのに、暇じゃないなんて残念だね。まるで借り物、自分の人生では内容だ。’’

「なにかの小説のパロディみたいなことを言うね。」

’’でも、実際そう言うものじゃないかな。僕らの人生は、まるで登場人物Aのようで、結局一般的、そうだな。’’

しばらく彼は考えていた。そして思いついたように僕の方を見た。

’’棒だ。’’

「ぼう。なんだいそれは。」

’’棒だよ。そこら辺の街路樹の折れた小枝。田舎の畦道に落ちている木の枝。公園でも目にするだろう。そんなどうでもいいようなありふれたものだ。’’

「最近の都会には棒なんて逆に珍しいよ。」

’’そうか。じゃあ、ポイ捨てされた紙屑や石ころなんてどうかな。’’

「そっちの方がしっくりくるかもしれない。」

’’ならそれでいい。’’

「人が小石やゴミクズなんて、君は、地獄の使者とでも言うのかな。」

’’アイロニーにしてはユーモアが足りないな。’’

「別にそう言うつもりで言ったわけではないよ。どちらかといえば、僕は僕みたいな人間は窒素だと思うよ。」

’’チッソ。’’

「そう、この空気中の約7割を占めていて、特に暮らしている上では何にも化学反応を起こすこともなく、すっては吐き出されるようなものさ。窒素は、大抵の状況下じゃ何も変化しないし。まあ、液体窒素なんかは面白いけどね。」

’’酸素も液体になうだろう。磁石に寄らない分、芯が強いのかもね。’’

「それこそ、アイロニーじゃないか。」

’’ユーモアがあっていいんじゃないかな。’’

「確かに。」

’’それに、窒素だって、ハーバー・ボッシュ法のように触媒を与えてやればアンモニアに変身するし、植物の生理学的にも必要だ。金属の窒素加工で硬いものを作れる。’’

「知ってるさ。知ってるとも。」

’’ならきっと、君に足りないのは触媒さ。’’

「触媒。僕にとっての触媒は何あろう。」

’’それは、君が見つけないといけない。’’

「そんな厳しいこと言わないでくれよ。ここまで意志を固めてくれたのは君じゃないか。」

’’そうだね。でも、仕方のないことだ。それは、ダイヤを掘るような作業かもしれない。’’

「え。」

’’原石は、すでにそばにあるかもしれない。見つけるためには掘るだけじゃなくて、磨く作業も大切だ。’’

そう言って彼は、いつの間にか僕の元から消えていた。いや、あるべきところに戻って行った。僕は、自分にとっての触媒はなんだろう。そう考えながら、眠りについた。そして、また休日が一つおわった。

 「おはようございます。」

僕は、また、今日から新しい週を迎えた。積み上げたトランプの後片付けのような気がした。企画がペンディングとなってしまったが、やることはまだいくつかある。他の企画にも参戦しているため、そちらの方に注力する。でも、今日はペンディングになった企画のプロジェクトメンバーの眞田さんと松山さんとの打ち合わせがある。僕は、会議室に移動して二人が到着するのを待った。

「お疲れ様です。」

眞田さんが、いつも通りのクールな感じに会議室に到着した。眞田さんは、僕の4つ上だが、中途採用で去年入社された方だ。いつも、クールというか、かっこいいお兄さん的なオーラを発している。

「いやー。急な決定で戸惑ってると思いますが、すみません。」

僕が平謝りをしながら謝る。それを見た眞田さんが僕に応えた。

「そんな、セレンくんが謝ることじゃないよ。悪いのは、部長なんだから。」

「そうですかね。」

「そうでしょ。あんなオフィシャルな会議でペンディングなんていうのは。なんだろう。普通はしないかな。」

「なるほど。」

「うん。別に会議を設けてやるのが普通かな。」

僕は、そうなんだなあという頷きをして眞田さんの話を聞いた。眞田さんは、こう見えて口が上手い。そこは、注意していかないといけないところでもある。ただ聞いているだけだと、話を丸めるというか。自分が思っていた意見がズラされる。思ってもいない方に結論付けられる。ある意味諸刃の剣だ。まあ、最近になって気づいたことだから。

「ところで、眞田さんはなんで、転職したんですか。」

「えっ。そりゃあ、もちろん金でしょ。」

「金ですか。」

眞田さんはまっすぐな声でそう応えた。

「そう。金よ。賃金を上げたいなら一番いいのは、転職だよ。自分の仕事に見合った給料をもらえないとかさ思ったらね。」

「へー。」

「セレンくんも転職した方がいいよ。」

「転職ですかー。考えておきます。」

眞田さんはうんうんと頷きながら僕にそう言ってきた。確かに、転職するのはこの問題を解決するのは簡単なのかもしれない。でも、僕が抱えている本当の悩みの種の根本的解決に繋がらないだろう。箱が悪ければ箱自体を変える。それは、最も合理的な話だ。でも僕は、会社という箱に対して不満を抱いているのではなく、国という箱に対して不満を抱いている。国を変えろと言えばそうなのかもしれないが。生まれ育つ、この国の未来を考えると憂いてならない。なんとかしたいという思いが湧いてくる。ただ、その湧いてくる気持ちが小川の湧水程度の勢いであるから仕方がない。

「セレンくんはさ。この会社の問題点ってなんだと思う。」

眞田さんは突然話題を振ってきた。

「問題点ですかー。問題点があるとすれば、人事評価にまずは問題があるかなと思います。」

「それはそう。」

眞田さんの口がさらに回り始める。

「だって、いくら仕事してもみんな変わらない評価なんでしょ。残業しても、頑張っても、結局足し引きして同じ評価になってしまう。それじゃあ、何もしないで楽な方にいた方がいいじゃない。現に、今も仕事なんて殆どやってないで時間潰している人だっているでしょ。」

「確かに。」

僕が頷くのを見て眞田さんはさらに続けた。

「どう思うよ。セレンくん。このまま10年も20年もこの会社に居続けたいと思う。」

「嫌ですね。」

僕は本心で答えた。この会社に勤めても輝かしい未来のビジョンがわかないのは眞田さんのいうとおりであるから。

「だよね。だったらもうね。セレンくんもすごく頑張って働いているじゃない。でも、他の人と差が出る評価なんてないんだよ。日本人の気質上、評価を下げるってことはできない。だけど、逆にあげるってことに対してもそんなに積極的にはできない。だから、こんな評価形態になってしまっているんだよね。そうやって、頑張っている人が頑張っているのに報われないものをずっと見させられていると、転職なんてみんなしてしまうよね。」

「確かに。」

「だからね。社内でこうやってね、啓蒙をやっているわけですわ。セレンくんだけじゃなくて、〇〇くんと××さんにも言っているんだよね。彼らも心配だから。」

「眞田さんは大丈夫なんですか。」

「うーん。次は外資系企業とかがいいんじゃないかな。成果主義だし。ちゃんと成績を残せば結果が返ってくるでしょ。」

「なるほど。」

なんだろう。うまく載せられているようで俯瞰してしまう。この人の意見を丸呑みしてしまうのは良くない気がなんとなくした。直感的に、言葉にできない警戒心が心の中にある。

「それにしても、松山さん遅くないですか。」

僕が話を変えるために話題を変えた。

「そうだね。もう幾分か遅れている。」

「ちょっと内線かけてみますか。」

そう言って僕は内線を鳴らした。

「すみません。松山さんいらっっしゃいますか。」

「まだ出社していないですね。」

「そうですか。わかりました。」

僕が内線を切ると、眞田さんがどうだったか聞いてきた。僕は、まだ出社していないそうですと伝えると眞田さんは笑って言った。

「こういうことよ。確かにうちはフレックス出社だからシステム上は問題ないんだけどね。」

「まあ、いつものことですね。」

「それをいつものことで片付けてしまうのがダメなんだよ。こういう人をどんどん減給していくとかさ。そう言うことをして行かないとやる気のある人まで腐ってしまうよね。」

眞田さんは笑っていた。なんだろう。僕に何かを言わせたいのだろうか。僕が黙っていると、眞田さんは続けた。

「そもそも、松山さんってそんな仕事してる。」

「いや、よく分からないですね。僕は松山さんの仕事知りませんから。」

「いやいや、それじゃダメなのよ。特に、課長や部長クラスなんてそこら辺わかっていないでしょ。そうやって放置され続ける環境じゃいけないんだよ。できる人が、どんどん仕事振られて、仕事の偏りがどんどん大きくなっていく。それって、不平等だと思わない。給料も変わらないのに。」

「そうですね。対価がないのは労働者を安く使われているようですね。」

「そう言うことよ。セレンくん。こんなんじゃダメなのよ。」

その後も、眞田さんとの会話は続いた。一時間が過ぎた頃、松山さんはやってきて会議はそのまま軽く済ませて終了した。あまり本題を話せず、なんだか寄り道した気分になった。

 会議の後、自販機でコーヒーを買ってゆっくりとベンチに座った。

 ーなぜ、物事はこうもうまく運ばないのだろう。どうしたらいいんだ。世界は自分中心に回っているわけでもないが。もっと、こう。スムーズでもいいんじゃないかー。

大きなため息を一つこぼし、それをコーヒーを使って再び飲み込んだ。カフェインが脳内を刺激してまた仕事へと戻ることにした。

 その日の仕事は残業だった。最近任される仕事、特に仕事に必要なインフラの管理などの雑務まで任せられるようになり、残業時間が増えていた。そもそも、残業がない日なんてないのだが。やっと仕事に一区切りがついたので家路に着く。家に帰りついたのは夜の8時を超えていた。これは、賛否を呼ぶかもしれないが11時間労働だった。平日にこんなに仕事の時間が多いとしんどい。ブラックではないがダークグレーな残業というのは辛いものがある。Wi-Fiのコンセントを指して、ネットニュースを見ていた。すると、政治家の裏金問題がニュースになっていた。なんでも、総理の派閥の人間が10億円を裏金として利用していたらしい。しかし、逮捕もされないというものだった。とんでもないニュースだ。一般人が脱税で10億円したら懲役何年だろうか。それほどのことなのだ。上級国民とでもいうべきか。それでも国民の代表として選挙に選ばれて政治家になったんじゃないのか。僕は、呆れてため息が出た。さらにニュースを見ていると、子育て支援として、新たに健康保険の増額が行われるそうだというニュースだ。いくら税をあげれば気が済むんだ、この総理大臣は。そういった怒りのニュースで飛び交っていた。そもそも裏金を使っているくらいなら、そのお金を正しく運用すればいいのではないか。僕は、不思議でならなかった。どうして、政治家たちは、こんなにもお金の使い方が下手くそすぎるのか。よっぽど頭がいい大学を出た人たちが官僚をやっているのではないのか。庶民とは、金銭感覚が狂っている。国民に寄り添った政治をするなんて言っていたのはいつだろうかー。

 考えれば考えるほど、怒りが溢れてきた。この溢れ出る感情がトリガーになり、最近起きた出来事がどんどん頭の中に溢れてきた。消そうとしてもそれは根深いカビのように、僕の頭の中を侵食していく。その感情の一つ一つがポロリポロリと口からこぼれ落ちていく。

’’同期や憧れる先輩がどんどん転職していき、一人は自殺。K先輩とはずっとそりが合わない。老害に怒鳴られる。父はガンになった。自分のプロジェクトはペンディングになる。政治は腐敗し、税金としてお金を取られていく。’’

「生きていくのが辛い。自分ってなんのために生きているんだろう。」

’’この世界は、間違っているのだろうか。’’

「間違っているからこんなにも自分は不幸なんだろう。」

’’早く大人になりたいと思っていたあのころ。’’

「自由を求めていた。」

’’けれど、そこに自由なんてものは存在しなかった。’’

「どうして、どうして。周りを見れば幸せそうなカップルがや家族がいる。」

’’でも、僕には幸せから一が抜けている。’’

「’’棒’’が足りない。」

’’その「棒」は僕にとってなんなんだろう。’’

「それは、’’熱情’’だ。」

’’公平な世の中を作る’’

「思っていたよりも、世界は狭くて複雑だ。」

’’感情が乱雑になっていく。’’

「乱雑であって規則的で美しい。」

’’それが答えかもしれない。’’


 僕は、暗闇に呟くのをやめた。窓を開けて外の空気を入れる。風が凍て付くように冷たい。しかし、その中に春を思わせるような匂いが鼻腔をくすぐった。

クシュン

 僕のくしゃみをする音が、窓を閉める合図のように聞こえた。窓の外では、夜が深くなっているせいでより寒さを感じる。遠くで踏切の遮断機の音がした。誰も僕のように窓を開けている人はいない。再びくしゃみをしそうになったので、窓を閉めた。再び僕は暗闇に呟き始めた。

「愛する人を失って革命を起こす人間は、個人的な感情が強過ぎて、目的が個人的すぎる。」

’’テロリストやアジテーター、アナアキスト。ハリウッドで映画になりそうな題材だな。そんな、君はテロリストにでもなるつもりかい。’’

「アジテーターに近い存在。啓蒙とでも言おうかな。」

’’なるほど。イエスの真似事か。’’

「別に、真似事じゃないさ。」

’’なるほど。猿真似はやめときなよ。やっても虚しいだけだ。そこにドラマが必要さ。’’

「うん。分かってる。笑い話になるのはごめんだね。僕は真剣に悩んだんだ。」

’’未来を暗示ている。と言うことかな。’’

「このままでは、本当に取り返しのつかない社会になってしまう。差別や貧困、超少子高齢化。持続可能な社会を目指そうなんて笑えるよ。そっちの方が笑い話じゃないか。」

’’そうだね。君の言うとおりだ。’’

「それに、こんな社会を次世代に残してしまうなんて、未来に申し訳ない。」


’’さて、君の見つめるビジョンは明確か。君の知識は十分か。’’

「言わずもがな。奏功させてみせるさ。」

 暗闇が深まる夜に、僕は、スマートフォンを取り出した。充電は70%だ。これだけあれば十分だ。

’’何をするきだい。’’

「まずは、人間を観察する。SNSに集う民衆を利用するために。」

そして、僕は手始めに♯日本や♯政治などを調べると、たくさんの政権の不満で溢れかえっていた。その一つ一つに返信のコメントがついていた。肯定的なものもあれば否定的なものもある。「お前みたいな奴がいるから日本はダメになる。」、「オワコンだ。」、「これだから頭のわるい人は。」、「は?死ねよ。」「殺すぞ。」それはまるで人間の汚い部分をかき集めているかのようだった。罵詈雑言というのはこういう事を言うのかと思った。

「ひどいな。」

僕は思わず呟いた。嫌なものを見た後、あの本ではないものを手にした。実は、先日とある1冊の本を購入していた。それは、心理学の本だ。影響力に関してをまとめられた本だった。僕がこれから成そうとすることに対して、今の僕には知識が足りないと思ったからだ。それには、力がない人が力を得るためには、群衆を味方にしなくてはならない。フランス革命のようだ。王朝を落とすために人々は協力し、群衆によって資本主義社会を勝ち取ったのだ。僕は、フランス革命を手本にした。多分、ナポレオンや日本の織田信長のようなカリスマ性を持っているわけじゃないので、そっちの方が僕には向いている気がした。そして、それを実現するためには民衆を動かすような行動心理学の知識が必要不可欠だった。知識なしにできることならもうすでにみんなやっている。みんながこれまでやっていないことを成すのだから、知識を学ばなくてはならないだろう。そんなことを思いながら、僕はほんのページを読み進めた。

 その本によると人間の行動原理は、意外と単純な感情の場合が多い。快ー不快、興奮ー沈静、緊張ー弛緩の3方向からだ。そして、SNSには基本的に同調欲求と独自性要求が蔓延っていることに気づいた。誰かと意見を同じくして共感したいという安心感と、そういう群衆とは違うという自分だけは特別であるという優越感。相反するものがまじりあっている。まず、僕がやることは、独自性を出すこと。そして魅力的な独自性に対して共感者を募ることだ。では、僕の持つ独自性とはなんだろうか。僕は、SNSで1つのアカウントを作成した。名前は、テルル。世界に語りかけるようなそんな存在をイメージした。そして、まずは他人と共感能力のありそうな人を見つけてその人の投稿に’いいね’を押した。これは、他人の投稿を’’いいね’’や引用している率が高い、ハッシュタグが多い人達だ。共感能力が高い人は他人の投稿に興味があったり、他人に共感して欲しいという理由でこういう行動をとるケースが多い。例外はいるが、基本的にこのままでいい。そうすると、一定数の人は僕のことをフォローしてくれる。いいねという通知が自分を共感してくれる人だという味方に変わる。そして、少しずつフォローワーが増えていくと、信頼度が増していく。フォローワーの数=信頼度とでもいうのだろうか。飲食店のレビュー数が多いものを人気店と人は判断するように、フォローワーが増えると特別感が出てくる。ここまでは、他人の投稿の引用やいいねを繰り返す。そうしてフォローワーが1000人を超えた頃。僕は、自身の投稿を始める。まずは、引用投稿を利用する。ニュースで議員が寝ている投稿に対して引用をしてコメントをつけた。

’’僕は、不眠症なんだけど、国会に行けば不眠症が治るのかな?’’

この投稿をすると、通知が数多くついた。いいねを押してくれるもの。引用してくれるもの。コメントしてくれるもの。コメントに対しては肯定的なものもあれば否定的なものもあった。「確かに。よく眠れそう。」とか「っっっw」、「永眠してくれw。」、「不眠症大変ですね。」と心配せてくれる人までいた。「そんな呑気なことを言っている場合じゃない。」、「税金の無駄遣いにも程がある。。」などなど。だが、これらのコメントに一喜一憂することはない。全てを肯定的な意見を求めようとするのは良くない。天邪鬼な人も多いし、ストレスや鬱憤を晴らすために返信してくる人だっている。。それに、返信に関しては肯定的な意見の方が割合的には多いのだ。否定的なものは一部の人たちのみ。なぜならば、この投稿が疑問系だからだ。肯定的に「これは由々しき事態だ。」と訴えると鼻につきやすい。なんか、偉そうに意見を述べているように感じるし、少しでも間違いがあろうものならばツッコミどころ満載と言って口を出さずにはいられない。そういうコミュニケーション能力の低い人がいる。コミュニケーションとは、相手との対話であり意思疎通のことである。一方的に相手に自分の意見を訴えることではなく、相手の意見も聞けてこその能力である。まあ、つまりは「出る杭は撃たれる。」だから僕の投稿は、疑問形でSNSの人たちに投げかけるような終わり方にしている。疑問系で終えることによって人はそこに自分の意見を述べられる余裕が生まれるし、自分の意見を押し付けているのではない。それに、この投稿にはアイロニーが含まれている。面白い冗談だと思って人は娯楽としてくれる。また、しばらくすると引用した投稿を行った。政治家たちが防災訓練を行っていてヘルメットの被り方がわからずに遊んでいる投稿だ。

’’今日も日本は平和みたいですね。’’

すると、この投稿に対しても「平和で何より。」とか「小学生かw。」、「楽しそうやな。」、「真面目にやれ。」などとさまざまな返信が送られてきた。また、違う日には、政治家の不倫問題が報じられていたニュースに。

’’夜の国会で一夫多妻制でも検討していたのかな?’’

などという引用投稿を定期的に続けた。すると、フォローワーはどんどん増えていき、二ヶ月ほどで数万人を突破した。僕は、一般人から数万人のフォローワーを持つSNSの人に昇格したのだ。すると、僕の投稿にある程度有名な人たちもいいねをすることが出てきた。影響力が出てきていることを実感する。このいいねのおかげで有名人のファンもフォローやいいねをしてくれるようになる。大きな大義を成すとき、小さな積み重ねを必要とするのだ。と僕は痛感していた。いや、痛感ではなく確信していた。そして、投稿を続けると遂に10万人を見据えるくらいのフォローワーとなった。そろそろ次のステージに進む頃だろう。僕は次の計画を実行するために手のひらサイズの世界に語りかけるために、指先を動かした。

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