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きつねのつき(著:北野勇作)【赤い読書紹介と緑の(みんなの歌)も紹介】

北野先生は100文字SFで有名な作家先生ですが、
普通に長編も書けます。
それがこちら。
福島原発事故とその事後の物語をモチーフにしたような、
痛みと再生の物語です。

(後書きによると2009年頃に書いたものだそうですが、実際の世間とシンクロし始めてしまったので、しばらく世に出せず仕舞いだったようです)

まあでも、まだマシな方ですよ。
連載し始めた後でそっくりの大事件が起こった方が大変。

冲方先生はご愁傷さまでしたが、本題に戻りまして、

作中では原発ではなく、なんらかのバイオハザードという設定です。
それによって、ある特定の範囲で実在する怪異が存在し始めてしまった。
そして主人公の妻は、身重の身で逃げることもできず、
部屋と一体化してしまい、今は巨大な天井になっている。

ある時、柱から娘が生まれてきて、
天井から降りてきている乳房をふくませて育てた。
この地域では事故の影響により、怪異が実在する。
主人公ですらしばしば怪異の力を操れるようになってしまった。
そんなお化けの街で生きていく父と幼い娘の物語。

いや、
お母さんも会話には加わりませんが、家族はみんな一緒。

オムニバスというか、エピソード連作方式。
短編がつながって、大きな長編になっています。
そのせいか、読みやすいですね。

全編、お化けの話です。怪異譚です。
ですが暗い世相と暗い世間話、
近所のいなくなった子どもの話、
実は巨神兵みたいな人型決戦肉を作っていたとか、
そして隔離された地域は、
まるごと捨て石にされたとかなんとか。
人が住めない場所と、
まだ人が住めるけど隔離されてる場所と、
そこに世間からやってくる不躾なレポーターがいるとか、
謎のロボットや謎の鉄道が出てきたり。

父は心を痛めつつもどうにかして、家族との生活を営んでいきますが、
娘さんは幸せそうです。
幼児のあざとさ、じゃなかった可愛さを前面に押し出した、絵本トニックな描写もありますが、そも、お子さんはまだ理解できる年齢ではないというか、それが所与の日常なのです。

私たちの現実は、過去の廃墟の上に成り立っているのです。
みなさん誰もそれに気づこうとしないだけで。
地球そのものですら、かつて音のしない静かな惑星になったことが何度もあるのですから。

きつねのつきはきつねつき♪
逆さにしてもきつねつき♪
月のきつねはきねつきの♪
つねのきつねのきのねつき♪

こんな児童唱歌も載っているということです。

謎が解かれて世界の意味が変わるとか、主人公が大きな挑戦をするとか、大きな展開はありません。ゆっくり展開するお話です。

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