森幸生
オリジナル小説/帳がおりる、のまとめです。 「夜に外に出ると必ず死ぬ。例外はない」 そんな世界のお話です。
はじめまして、森幸生です。 今日から、オリジナル小説を公開します。 noteに公開中の小説を、YouTubeで朗読配信もしています。 投稿がんばりますので、よろしくお願いいたします。
イオンのヴィレヴァンで新譜のCDを買い、そのままエスカレーターでくだって、ナノは外にでた。交差点、信号が青に変わって歩きだす。 「でー? 誰のCD買ったの?」と電話越しのスピカがナノにきく。「どーせ、またあのアイドルなんでしょ? そんな面倒なことしなくてもさぁ、サブスクでサクッと聴けば良いのに」 「わかってないなぁ」と、これはナノ。電話を耳に当てたまま、うっすら溜息混じりに。交差点を渡りきって、細い路地へ彼は進んだ。「わかってない。スピカはなーんにもわかってない。円盤で
ドラゴンクエストウォークを始めた。 「……今更?」という声が聞こえてきそうだけど、そう。今更。 (4周年おめでとうございます) 理由は、僕の好きなミュージシャンの方がオススメしていたから。興味本位で始めてみた。日によってまちまちだけど、暇なときは比較的よく歩いている。 ※ 説明が遅くなったが、ドラゴンクエストウォーク(以下、ドラクエウォーク)は、スマホ用の位置情報アプリゲームである。 プレイヤー(=僕)が歩くことで、ゲーム内のキャラクターも同じだけ歩き、移動する。そ
YouTubeでブックレビューやってます レビューというより、シンプルに感想ですね 本屋のPOPみたいなものだと思ってください 不定期で動画上げています ↓最近の。
夜の残滓を拾い集めるように、朝四時の町を歩く。 吐く息が白い。 温かい飲み物がほしくて、私は自販機のミルクココアのボタンを押した。吐きだされた缶が、ガコンと殊更大きな音を響かせた。 その音以外には、街路樹から朝露が滴る音だけ。 まだ、街は目を覚ます前。きっと今頃は、巨大な鯨になった夢でもみているはずだ。 まだギリギリ昨日の延長戦。昨日と今日の境界線。 新しい一日が動き始める少し前……。 誰に気を遣うわけでもなく、交差点の横断歩道を独り占め。 この時間帯の空気が
眠れない夜。ベッドに入ってもうどれくらい経ったのかも曖昧で……。 そんなときサイダーの炭酸みたいに頭に浮かぶ、どうしようもなくどうでもいいことの話。 あぁ……。あのとき、ああしていたら今頃どうなっていたんだろう。 こうしていれば、どうなった? ナニナニしてたら。 ナニナニしてれば。 たら。 れば。 もしも。 あるいは。 「人生は選択の連続である」と言ったのは、シェイクスピアだ。 私たちは、常に二分の一の選択を迫られている。 YESかNOか。 行くか戻
この季節にしては、太陽は高い位置にあったけど、風はしっかり冷えていた。「寒ーい」と通りすがりの女子高生が口にする。 私は交差点の先の信号に目を留めた。 信号は赤。 立ち止まる。 信号待ちの人たちの声に囲まれる。 家族の話、仕事の話。 嫌いな先生の話。気になるあの人の話。 昨日のテレビ。バイトの愚痴。SNSで見た噂。 高い声、低い声、近くの声、遠い声、しゃがれ声、笑い声。 声。声。声声声……。 光のフラッシュみたいな声の洪水。まぶしくて、私はちょっと目眩を覚
町には、いろいろなものが落ちている。 知らない誰かの落とし物。 たとえば、傘? スマホの充電器? 中には、なんでこんな物が落ちてるの、と思う物もときどきあって。 今日は、片方だけのショートブーツ。明るいアーモンド色の。 家の近所の道でみつけた。 長く履きこまれたものじゃない。ちょこんと行儀良い姿勢で、ツンとすまし顔をして、自販機の前に落ちていた。 右足のほうだけ落ちていた。 右足の靴と左足の靴で離れ離れになってしまって、これでは、お互い困ってしまうだろう。
明日もキミが好きな歌をうたっていられるセカイでありますように 白い髪を乱してね ときどき、つむじがプリンになっているときも、それもキミのキュートだね 誰にも似てない歌声で キミらしく壊れていてね 僕は「可愛いね」ってまるで誰にでも簡単に言ってるふうに嘯いて 夜はキミを想って壊れそうになっている いっそ壊してほしいと思うけど、まあ言われても困るだろうから言わないよ 明日もキミが光の海で踊っていられるセカイでありますように 僕の耳を犯してね この部屋は息も凍えてしまうの、たく
昨年7月に公開した小説「桜井ハトの話」の新録朗読動画を YouTubeに公開しました。 前回の動画とは演者さんが異なる新録バージョンです。 演劇でいうならば "再演"、映画でいうならば "リメイク" でしょうか。 演者が変わればお話の雰囲気も変わる、そんなところも楽しんでいただければうれしいです。 「ところで。話は変わるけど。きみは、桜井ハトの噂を知ってるか?」 そんなふうに、その話は始まった。 世の大学生の多分に漏れず、学生時代最後のモラトリアムの謳歌に四年生の前
「おーい、直。生きてるー? 大学にも来ないし、電話にもでないし、心配して来てみれば……。そんな出来損ないのゾンビみたいな顔してー」 「横山ぁ。ひとんち勝手に入るなよ……」 「玄関、鍵開いてたよ?」横山は窓のカーテンをジャッと開いた。 うっ、眩しい。「やめて。溶ける……。横山、おれのことはほっといてくれ……」と、僕は芋虫のように身体を丸めた。「こうして壁際で腐っているのが、おれにはお似合いなんだ。それくらいの価値しかない。今後、おれのことは生ゴミだと思ってくれ」 「気
灯りをつけるのはやめておいた。校舎の中にはオンラインの防犯セキュリティが入っていると予想したからだ。この時間、仮にみつかったところで、外から警備員が駆けつけてくるなんてことはありえないが、代わりにドローンが出動してくるはずだ。 雲の動きで、窓に影が走ったように一瞬みえた。風の音も、なんだか不気味だ。 「……ドキドキする」と、アゲハが囁き声で。「静かだね。ちょっと怖いくらい。なんか肝試しみたい……」 「肝試しなんて、リアルでやったことないよ」と僕は答えた。「ねえ。アゲハ
西の地平線に残された一条の光が、細く細くなっていき、最後には糸がちぎれるように消失するさまを、僕はみた。その中を、アゲハに手をひかれて、僕は走った。 「アゲハ。あそこ!」僕は指差す。 ――小学校の校舎だ。 残り三百メートル。 さっきまでは足元に伸びていた影が、もうみえない。見渡す範囲に、人工的な灯りも見当たらない。 正門の鉄柵には、人ひとり通り抜けできる幅の隙間があった。 昇降口のガラス扉をスライドさせて、校舎にすべりこむ。僕が先、アゲハが戸をピシャリと閉めた
僕たちを乗せた特急列車は、西へ向かう。 平日の昼間とあってか、車内はすいていて、クロスシートに膝を突き合わせて、二人で座った。 目指すは、この国の最西端。アゲハの家は、海に囲まれたその町にある。 アゲハがいたのは、携帯電話もタブレットも与えられていない密室で、外部と連絡をとる手段はなかった。しかし今は、ここに僕のスマホがあった。これを使わない理由はない。 「ほら。帰る前に、家に電話入れとけば?」 が、渡されたスマホをじっとみつめて、アゲハの表情は曇っていった。
まーあれだ。大学生の春休みといえば、時間は売るほどあるがお金がない、と古今東西、相場が決まっているわけで……。なので、友人の横山に誘われて、僕はバイトを始めた。 「しっかし、マジでわからんなぁ」と僕は言う。 「なにが?」と横山が。 「なにもかも……。このバイト、謎すぎん?」 事の発端は、ネットの知り合いが、横山に持ちかけてきた話だったと言う。そのネトモ、就職が決まって、長く続けてきた警備のバイトをやめることになったとか。んで、後継者を紹介するよう頼まれて、そこで、
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