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海を渡った難民の子どもたちの過酷な人生。映画紹介「トリとロキタ」「ウィ・シェフ」

前回のブログで地中海をボートで渡るアフリカ難民のドキュメンタリーを紹介しました。

難民の中には保護者のいない未成年者が多数含まれているそうです。
その子どもたちはヨーロッパに上陸後もどうやって生活していくのでしょうか?
いざヨーロッパに着いても、その子たちにとって安心が訪れるとは限りません。

子どもたちのその後を描いた映画を紹介します。


「トリとロキタ」(ベルギー・フランス/2022年)


Story
トリはアフリカ大陸西部ペナン出身の幼い男の子。ロキタはカメルーン出身の10代後半の少女。
保護者のいない2人はアフリカからベルギーに渡る途中で知り合い、姉弟ということにして協力して生活しています。
しかし、保護者のいない難民の2人を助けてくれる人はなく、2人はレストランで歌いながら、レストランの裏家業の麻薬の運び屋をして生活費を稼いでいます。
トリにはビザが出るのですが、ロキタにはビザが出ません。ロキタは故郷の母と弟のために送金しなければならず、さらに密航の仲介業者からも支払いを催促されます。ビザさえあれば家事ヘルパーとして働くことができるのにと気持ちがあせるロキタでした。
さらにロキタに対して、ことあるごとにレストランのオーナーは性的な行為を要求します。
さらにロキタは、偽造パスポートと引き換えに大麻を違法栽培する仕事をやらされることになって。トリとも引き離されてしまうのです。



監督はベルギーのジャンピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。
保護者のいない未成年の移民が最近、数百人単位で消息を断っているという記事を読んでこの映画を制作したようです。
18歳になってビザがないと彼らは強制送還されてしまいます。
18歳の少し前に犯罪組織にのみこまれ、売春や麻薬の密売の仕事をさせられ、最悪の結末を迎える場合もあるという記事でした。
このような事実に対して社会が無関心であるのに憤りを感じたそうです。



日本でも同じような状況です。
難民申請が通らず進学や就職ができなくて困っている未成年者が多数います。
以前私たちが紹介した「マイスモールランド」という映画はそのようなクルド人家族の苦境を描いています。



「トリとロキタ」は、BGMがありません。
音のない感じがヒリヒリしており、残酷さを観る者に問いかけています。


「ウィ・シェフ」(フランス/2022年)


Story
テレビの料理番組で有名なシェフ、リナ・デレトのレストランで働くカティ(主人公)は、ある日料理の味つけをめぐってリナ・デレトと大げんかし、店をやめてしまいます。
あたらしく雇ってくれる店を探しますがなかなか見つからず、「魅惑の空間」「辛口の客」の店という言葉にひかれて応募した先は移民のための施設でした。
同伴者のいない未成年者で移民の子どもたちが自立できるように就学を援助する施設の住み込み料理人を募集していたのです。
ショックを受けるカティでしたが、他にあてもなく自分の店を持つために貯金するための我慢と思って仕事を引き受けます。
しかし、子どもたちは無愛想、厨房の設備は不衛生、食材も缶詰ばかり。
75人分の食事作りに時間がかかって昼食の時間に間に合いません。
施設長から子どもたちに手伝わせてはと言われ、本格的に子どもたちを調理人として鍛えることになりました。
調理の方法から食材の選び方、テーブルセッティングや接客の仕方、調理道具の後片付けまでみっちり教え込みます。
熱心に学ぶ子どもたちと一つのチーム(ブリガードーこの映画の原題名です)となるうちに、一匹狼的だったカティ自身が変わっていきます。
カティ自身も児童養護施設育ちで両親を知らなかったのです。

子どもたちにも意欲や才能があることがわかり、施設に調理師コースを作ろうという計画も生まれます。
そうすれば多くの子どもが強制送還されずにすむのです。
そこでカティはある決心をしてテレビの料理対決番組に出場します!


物語の背景にあるのがフランスの移民制度。
18歳までに職業訓練学校に就学できないと強制送還されるのです。
施設長は子どもたちにフランス語や数学を教え、何とか子どもたちを学校に受け入れてもらおうと奮闘します。
また街でたむろしている不法移民の子どもをみかければ施設に来るよう声をかけます。
でも現実は厳しく、子どもたちは骨密度から未成年者かどうか検査され、成人だと判定されると容赦なく強制送還されます。


この映画にはモデルがいます。
苦境にある子らを調理師として自立させる教育活動に取り組むカトリーヌ・グロージャンです。



命がけで故国を脱出しヨーロッパに来ても厳しい現実が待っている移民たち。
教育や職業訓練に力を注げば移民との共存も可能なのではと思いました。


執筆者、ゆこりん

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