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ゼルジーとリシアン

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1.夏休みの始まり

1.夏休みの始まり

 7月のソームウッド・タウンは、朝早いというのにじりじりと太陽が照りつけ、周囲の森からはアブラゼミのうんざりしたような鳴き声が鳴り響いていた。今日も暑い一日となりそうである。
 ストンプ家のロファニーとベリオスはつい30分ほど前に、中学校のサマー・キャンプへ行くため、父親の車で駅まで送られていったところだった。末の娘が見あたらないところをみると、1人で森へと出かけているのに違いない。退屈な夏休みが

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2.ゼルジーとリシアン

 車がストンプ家に到着したその頃、リシアンはまだ森の中だった。夏の日暮れは遅い。そろそろ夕方だというのにいまだ日差しが強く、木立の影はくっきりとしていた。
 お気に入りの隠れ家、桜の老木にぽっかりとあいたうろの中で、リシアンはあいかわらず空想の世界にひたっていた。
 いま訪れているのは、何もかもがパンでできた国である。家は丸ごと一斤の食パン。屋根にはブルーベリーやイチゴ、マーマレード、外壁にはバタ

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3.リシアンの秘密の場所

 小鳥のさえずりと次第に大きくなるセミ達の前奏曲にうながされて、ゼルジーはそっと目を開けた。
 差し込む朝日に顔をしかめながら、焦点を合わせようと努める。見慣れない天井が浮かび上がってくる。しばらくの間、自分がどこにいるのか思い出せずに不安になった。たっぷり10秒ほどのちに、ようやく記憶が蘇る。
 そうだ、わたしはソームウッド・タウンに来ていたんだっけ。ここはリシアンの子ども部屋で、夕べは遅くまで

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4.ゼルジーの想像力

 パルナンとゼルジーがソームウッド・タウンへやって来て、すでに数日が過ぎていた。
「お昼を食べ終わったら、また、森へ行くんでしょ?」クレイアが聞く。
 リシアンはスープを飲む手を止め、「ええ、もちろんっ!」と答えた。ゼルジーと桜の木のうろで空想ごっこをし、昼ご飯を食べに戻ったところだ。
「だったら、ウィスターさんところにちょっと寄ってもらえるかしら。クッキーをたくさん焼いたから、持っていて欲しいん

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5.雨続き

「今日も朝から雨ね……」ゼルジーは、リシアンのベッドでどっかりとあぐらをかきながらつぶやいた。
「もう3日も降り続けてるわ。いつになったら止むのかしら」向かい側にはリシアンが座り、うんざりしたような声を絞り出す。
「でも、わたし達には想像力があるわ。そりゃあ、桜の木のうろに行けないのは残念だけれど、空想はいつでもどこでだってできるもの」
「ほんとね、ゼル。あんたの言う通りだわ。今日はどんなことを空

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紙ヒコーキ、はるか宇宙を目指す

紙ヒコーキ、はるか宇宙を目指す

 アレルギー性鼻炎に苦しむわたしを見かねて、主治医が宇宙研究所を紹介してくれた。
「宇宙を知ると、この鼻炎が治るんですか?」わたしの頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
「いや、そうじゃないんです」主治医は理由を説明する。「最新の天文学によってもたらされた情報によれば、遙か4.3光年の彼方、アルファ・ケンタウルスの3つ隣に、ベータ・カロチンという惑星が見つかったというんですな」
「なんだか、体によさ

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6.5つのルール

 ソームウッド・タウンに、久しぶりの晴れ間が広がった。ゼルジーとリシアンは朝食をすますと、走り出す勢いで「木もれ日の王国」へと向かおうとしていた。
「パル、あなたも来る?」まだテーブルに着いたままのパルナンに、ゼルジーはふと尋ねる。
「そこ、カブトムシはいるかい?」その様子から、この間見つけたというクヌギ林では大した収穫がなかったようだ。
「桜の木の蜜を舐めに、カナブンがたかってくるわ。それにいつ

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7.物語の始まり

 次の日も、パルナンは森へやって来た。
「パル、今日は虫採りに行くんじゃなかったの?」ゼルジーが聞く。
「あの桜の木、べったりと樹液が付いていたろ? もしかしたら、面白い昆虫がやって来てるかもしれないと思ってさ」それがパルナンの答えだった。
「そうかも」リシアンが同意する。「沼にはカエルやザリガニもいるし、もしかしたら、大きなトンボが飛んでくるかもしれないわ」
 桜の木を一廻りするパルナンだったが

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8.こわ虫の森

 「木もれ日の王国物語」と書かれたノートは、リシアンの手によって毎日ページが埋められていった。このところ雨も降らず、ゼルジーとリシアンは連日桜の木のうろへ入り浸っている。午前中の虫探しが済むとパルナンもやって来て、空想ごっこに加わるのが日課となっていた。
 この日も3人は、うろの中のこぶに腰掛けて冒険の準備をしているところだった。
「わたし達、いつもいたずら妖精のパルナンには負けてばっかりね」持っ

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9.リシアンのいない空想

 ゼルジーはいま、パルナンと同じ部屋を使っている。リシアンは夏風邪をひいてしまい、自分の部屋のベッドでうんうんうなっているのだった。
「かわいそうなリシー」ゼルジーはため息をつく。「こんなにいい天気だっていうのに、外へ行けないんですもの」
「風邪じゃしかたないさ。おとといの水浴びが悪かったんだな。そうでもしなけりゃ、過ごせないような暑さだったけど」パルナンはベッドに腰かけて、足をぶらぶらさせながら

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10.禁断の扉

「わたしがカゼをひいている間、こんな素敵な冒険をしていたのねっ」すっかりよくなったリシアンは、ゼルジーから聞いた物語をノートに書き記している最中だった。
「まさか、パルナンが一緒に『グリーン・ローズ』を探してくれるとは思ってもみなかったわ」綴られていく文字を眺めながら、ゼルジーもうなずく。
「まあね、ぼくだっていつも悪さばかりしているわけじゃないさ」少し照れながら、パルナンが答えた。
 空想の記録

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11.不吉なきざし

 リシアンは、居間で父と母が話をしているのをたまたま聞いてしまった。
「ウィスターさんは、いよいよ土地を手放すようだね、クレイア」
「ええ、そうなのよ。市がこっちのほうまで道路を敷きたいらしいの。以前から、ウィスターさんと交渉をしていたらしいわ」
「あの森も、すっかり無くなってしまうわけだ。この辺りもたくさんの店ができて、賑やかになることだろうな」リシアンの父ダレンスが言う。
「そうなるでしょうね

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12.氷の国

 翌朝、3人はスズメがさえずりだすよりも早く起きた。
「おかあさん達、さすがにまだ寝てるわね」リシアンが小声で言う。「キッチンへ行って、シリアルを食べましょ。それから、お昼に戻らなくて済むよう、サンドイッチを作っていきましょうよ」
 そっと階段を降りて戸棚からシリアルを出し、冷たい牛乳を注いで食べる。食べ終わると食パン入れからパンを取り出し、冷蔵庫にあるハムやチーズ、ジャム、マーガリンをたっぷり塗

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13.太古の森

 翌朝も3人は朝早くに起き、簡単な朝食を済ませると、バスケットにサンドイッチを詰めて出かけた。
「今日行くところは『太古の森』って言ったわよね?」リシアンが確認する。
「そうよ、リシー。石ばっかりのつまらない国。でも、あの魔法使いは、なんだか含みを持たせていたわね」
「まあ、いいさ。『氷の国』みたいな危険はないだろうし、行ってみれば、どんなところかわかるんだからね」パルナンは言った。
 いつものよ

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