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黒川智之監督『ぼくらのよあけ』 : シンプルに〈期待外れの凡作〉

映画評:黒川智之監督『ぼくらのよあけ』(原作・今井哲也


本稿タイトルのとおりで「シンプルに〈期待外れの凡作〉」であった。

そう。期待はしていたのだ。なぜなら、原作マンガのファンだったからで、何も知らずに新作アニメを観に行ったわけではなかった。だから、とてもとても残念な作品だった。

原作は、今井哲也の同名マンガ(全2巻)で、2011年の作品。
私は、それまでこの作家を知らなかったのだが、たまたま2011年当時に読んで、ぞっこん惚れ込んでしまった。

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男の子らしい男の子たちと、女の子らしい女の子たち。ジェンダーとして「らしい」と言うのではなく、少なくとも私が子供の頃には「こんな奴、いたよな」という、それぞれに個性を持った少年少女が登場する。
そして、そんな彼らが、宇宙探査の旅に出て遭難し、地球にひそんでいた「人工知能を備えた、異星の宇宙探査船」の存在を知り、彼らに支援を求めるその宇宙船「二月の黎明号」を、なんとか故郷に返してやりたいと奮闘する。

『西暦2049年の夏。阿佐ヶ谷団地に住む小学4年生の沢渡悠真は、もうすぐ地球に大接近するという彗星に夢中になっていた。そんなある日、沢渡家の人工知能搭載型家庭用ロボット・ナナコがハッキングされてしまう。犯人は「二月の黎明号」と名乗る未知の存在で、宇宙から1万2000年の歳月をかけて2022年に地球にたどり着いたもののトラブルで故障し、阿佐ヶ谷団地の一棟に擬態して休眠していたのだという。二月の黎明号から宇宙に帰るのを手伝って欲しいと頼まれた悠真たちは、極秘ミッションに乗り出す。』

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原作に関しては、そのうち再入手した上で、きちんと論じたいが、この劇場アニメ版に関しては、それほど多くを語る必要もない。だが、わざわざ「期待外れの凡作」と評するからには、ひととおりの説明はしておこう。

原作マンガが手元にないので、詳しく比較して論評することはできないが、内容については、大筋で変わっていないと思う。それなのに、どうしてこのアニメ版は、パッとしないのか。
それは、端的に言って、演出の不味さであり、監督の力量不足が原因であろう。

原作との、わかりやすい違いといえば、原作がおよそ10年前の作品だから、このアニメ版では、SF的な小道具のデザインが洗練されたものになっている点だろう。
例えば、本作で重要な役どころを担う、主人公の家のオートボット(要は、人工知能を搭載した、家庭用ロボット)の「ナナコ」のデザインが、いかにも家電製品らしく洗練されている点だ。

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(下のアニメ版ナナコは、夜間は、腕の部分をたたんで、下の充電ポッドに収まる)

他にも、子供たちの乗る自転車だとか、そうした小道具も、全体に洗練されていたはずだ。また、キャラクターデザインも、原作がわりあい硬質でシンプルな漫画らしい絵柄なのに対し、本作のそれは、いかにも劇場用アニメらしい、凝ったリアルさが加えられている。

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だが、問題は、それらの手間が「だからどうだ」というほどの効果をあげていない点で、いまどきのアニメなら、作画的に凝っていることなど、よほど突き抜けた表現でも出来ているのでないかぎり、わざわざ論ずるには当たらず、本作の場合は、まさにそのレベルに止まっている。
喩えて言うならば、それなりに小ぎれいな絵柄で描かれているが、内容的な魅力のない「絵本」、という感じだ。

ストーリーが基本的には変わっていないはずのに、どうしてこうもパッとしないのか。
それは、ドラマの展開や「絵」の見せ方に「メリハリ」がなく、すべてをベターッと丁寧に説明している、という感じで、焦点の定まらない作品だからだろう。そのせいで、欠点らしい欠点というのも、目にはつかないものの、観る者の心に食い入ってくる力がない。ドラマの見せ方に工夫がなく、丁寧なだけなのだ。

「映画.com」のカスタマーレビューを見てもらえば、そこで多くの人が指摘しているとおり、「悪くはなかったが、良くもなかった」「どこがどうというわけでもないのだけれど、いまひとつパッとしなかった」というのが、この作品の正直な感想だろう。
私は、その問題点が、「ストーリー」や「設定」や「キャラクターデザイン」や「作画」や「声優」などのせいではなく、監督の、ドラマを見せるための演出力不足にあると見たのである。

なお、上記カスタマーレビューでも言及されているとおり、賛否の分かれた主人公・悠真の声を当てた人気女優・杉咲花の演技だが、私は、彼女の甲高い女声に、終始違和感を感じたクチだ。
人気俳優がアニメの声優を務めることに抵抗はない方だが、これはうまくいっていなかったと思う。

一方、この作品で良かったのは、デザインを変更されているにもかかわらず、原作と同様に、ナナコがとても健気で可愛かった点であろう。これは、声優・悠木碧の功績によるところも大きかったと思う。

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あと、異論なく評判が良かったのは、ラストでかかる、三浦大知による主題歌「いつしか」だ。
このエモーショナルな曲を聴きながら「もう少し良く出来た作品だったら、この歌で素直に泣けたんだがなあ」と思ってしまった。

また、ついでながら書いておくと、劇場公開に合わせて「YouTube」に公開された「劇場アニメ『ぼくらのよあけ』悠木碧:映画公開コメント」https://www.youtube.com/watch?v=QgTkVYarn5w)で、ナナコ役の悠木碧が、

『作品の見どころなんですけれど、とにかく星空と水の表現が、とっても美しい作品になっています。劇場アニメ『ぼくらのよあけ』はついに、10月21日に公開されます。ぜひね、この星空と水の美しい表現、劇場の大きなスクリーンでお楽しみいいただけたら嬉しいです。』

と言っていたことだ。
コメントは彼女一人ではないから、褒めるところを分担していたのかもしれないが、しかし「そこを褒めるか(そこくらいしか無かったんだろうな)」と、私が思ったのは確かである。

(2022年10月24日)

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