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鷹取ゆう『ただいま収蔵品整理中! 学芸員さんの細かすぎる日常』 : 好きでなければ、やれない仕事

書評:鷹取ゆう『ただいま収蔵品整理中! 学芸員さんの細かすぎる日常』(河出書房新社)

いったいどんな人が、こんなマイナーで地味な仕事を扱った「お仕事マンガ」などを買うのだろうか。もちろん、学芸員を志しているような人なら買うかもしれないが、それではとうてい商業出版するほどの部数が捌けそうにない。じつに謎である。

では、そんなことを考える私が、なぜ本書を買ったのかと言えば、以前に一度だけ、美術館の学芸員さんと一緒に仕事をさせてもらう機会があり、その地味で堅実な仕事ぶりに、心の底から感心し、感謝もしたことがあったからだ。

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私はもともとコレクター気質の人間で、子供の頃からいろんなものを蒐めてきた。そして幸いなことに整理癖もあった。こう書くと、一見、学芸員に向いていそうに思われるかも知れない。
しかし、大人になってから、ほとんど好き放題に好きな本を買い蒐められるようになると、整理が追いつかなくなってきた。まず、保管場所がなくなってきた。蔵書を本棚に収めきれないとか、そういうレベルではない。初めから本棚に収め切られるなどとは考えず、本を分類して段ボール箱に詰めて、それを積み上げていたのだが、その壁際に積んでいた段ボール箱がどんどん増殖して部屋を占拠して、1室潰し、2室を潰し、という具合になってきた。さらに言うと、段ボール箱の壁の手前には、平積みの未読本が山脈状に壁をなしている。未読本は箱詰めにするわけにはいかないからだ。
で、そうなってくると、だんだん本の分類・箱詰めもできなくなってくる。整理整頓というのは、ある程度の空間が確保されていてこそ出来るものであって、空間がなければ、その気はあっても、物理的に整理ができなくなるのである。

そんなわけで、自分の愛するコレクションさえ手に負えなくなっているような私からすれば、学芸員さんの仕事というのは、じつに大変なもので、彼らはまさに「奇特な人たち」だとしか思えなかった。

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とにかく、やることが面倒で細かく、延々と続いて終わりのない仕事なのだ。向いてない人がやったら、三日で発狂するかもしれないような仕事なのである。
だから、本書の中でも、学芸員というのは「濃い人」が多い、という描写がなされているが、完全に納得できる。普通の人では、到底できないであろう仕事をずーっとやっているのだから、基本的に、こうした地味で面倒くさい仕事でも、「好き」でやっているはずで、そんな人たちが「普通」であろうはずなどないのである(失礼)。

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しかしまた、こういう「奇特な人たち」がいてくれるからこそ、貴重な品々(歴史資料や芸術品など)が利用可能な形で、後世に遺されてもいくのである。

文化というものは「創る」ばかりでは継承されない。それを整理保管して「遺す」、裏方さんがいてこその継承だいうだということを、私たちは感謝の念を持って、少しくらいは知っておくべきなのではないだろうか。

初出:2021年1月24日「Amazonレビュー」
   (同年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年2月4日「アレクセイの花園」
  (2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)

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