見出し画像

丸山「戦争」発言が浮き彫りにした三つの問題(その3 民主主義と教育)

▼前号では、丸山穂高衆議院議員の「戦争」発言が、北方領土交渉に深い打撃を与えかねなかった事実を確めた。

▼今号では、丸山氏と、丸山氏を「支持」「擁護」する人たちの、マスメディア攻撃の劣悪さについてメモしておく。2019年5月15日付の毎日新聞で、丸山氏とビザなし交流訪問団とのやりとりが細かく報道されている。

▼その前に、出来事の経緯を、同27日付紙面で確認。

北方領土へのビザなし交流訪問団に参加中、丸山穂高衆院議員が戦争による北方領土返還に言及した問題は、約2週間経過した現在も収束する気配がない。(中略)

参加した団員らによると、今年度最初のビザなし交流訪問団が国後島を訪れた2日目の(5月)11日午後8時ごろ、宿泊先の「友好の家」で丸山氏の発言は飛び出した。代表取材で同行中の新聞記者が団長で元島民の大塚小弥太さん(当時89歳)に取材中、酔った状態の丸山氏が大声で割り込んだ。

誤解したままの人が多いようなので、もう一度確かめておくが、「丸山議員と訪問団との私的な会話に対してマスメディアが勝手に聞き耳を立てた」のではなく、「マスメディアが訪問団に取材している最中、泥酔した丸山議員が、その取材を邪魔して割り込んだ」のである。

▼では、15日付の報道から。

〈日本維新の会の丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=が国後島訪問中の11日夜、北方領土問題について元島民の男性に「戦争をしないとどうしようもなくないか」「(戦争をしないと)取り返せない」などと発言した問題。丸山議員と男性との主なやりとりは次の通り。

丸山氏「団長は、戦争でこの島(国後島)を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」

元島民「戦争で?」

丸山氏「ロシアが混乱している時に取り返すのはOKですか?」

元島民「戦争なんて言葉を使いたくないです」

丸山氏「でも、取り返せないですね。戦争しないとどうしようもなくないですか

元島民「戦争なんぞはしたくありません」「先生、やめてください

丸山氏「何をどうしてですか。この島をどうすれば良いですか」

元島民「それを私に聞かれても困ります。率直に言えば返してもらえれば良いと思います」

丸山氏「戦争なく?」

元島民「戦争はすべきでないと思います。早く平和条約を結んで解決してほしいです」

丸山氏「逆に関係なく平和条約が欲しいんですか」

元島民「それは政府の方々に任せているわけで、あくまで私たちは交渉をやりやすくする下支えのために交流している。我々の署名運動などを今やめて元島民があきらめたと言われたら大変だから継続してやります」

丸山氏「取材はするけど何もしない人(マスコミ)に言ってほしい

※11日午後8時前、国後島古釜布の「友好の家」で。訪問団員の音声データに基づく〉

▼ほんとうに、近年稀(まれ)に見る問題発言だが、前半部分の戦争を煽(あお)った問題については、広く報道されている。それよりも深刻な、今回の最大の問題は、本間記者の記事によって詳(つまび)らかにされたように、「国後島で「友好の家」の外に出ようとした」点にある。

▼さらに、筆者が気になったのは、後半の太字にした一言である。

取材はするけど何もしない人(マスコミ)に言ってほしい

▼さて、「取材はするけど何もしない人」とは、どういう意味だろう?

その人は、「取材をしている人」であって、「何もしない人」ではない。発言そのものが矛盾している。

それを、丸山氏は「何もしない人」と呼ぶ。丸山氏は、民主主義の社会でマスメディアが持つ役割を知らないか、もしくは自らの論理的な矛盾を気にしない可能性がある。

89歳の元島民にロシアとの戦争を煽り、マスメディアに対して「取材はするけど何もしない」と悪態をつく衆議院議員が、なぜ育ったのか。

彼を教育した学校や職場(西大和学園高校、東京大学、経産省、松下政経塾、日本維新の会など)に、構造的な問題はなかったのか。検討する価値がある。

▼また、こういう人が、なぜ小選挙区で何度も選ばれてきたのかも興味深い。マスメディアに対して、ジャーナリストに対して、丸山氏が吐き捨てたような「取材はするけど何もしない人」といった認識は、ネット民と言われる人たちのなかで普及している。

サイバーカスケードとか、フィルターバブルとか、人類がまだ経験したことのない技術によって、社会がどんどん変化しているが、日本社会の民主主義は危うい、ということを、丸山氏の「戦争」発言は露わにしてくれた。ここに彼の社会的価値がある。(つづく)

(2019年5月29日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?