Ponhayakaze

日々の面白いこと、つまらないこと、悲しいこと、不思議なことなどを書いています。役に立た…

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日々の面白いこと、つまらないこと、悲しいこと、不思議なことなどを書いています。役に立たないように書いています。誰かの人生がしあわせになりますように。

マガジン

  • フタ

    なかなか自由過ぎるよりも、一つのテーマで書いてみることをしようと思いました。実験的に、「フタ」「蓋」「ふた」「Futa 」について、文章を書いてみようと思いました。 文章であれば良く、小説だろうが、詩だろうが、俳句だろうが、エッセイだろうが、記号だろうが、説明書だろうが、なんでもいいので、書いてみようと。 文章と、「フタ」という二つの軸が、交わる時、どのような見方が、出来るのか。ともあれ、ひとまず書きに行こうと思います

最近の記事

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おろしは積もった春に

冬だった。雪が降っていたから。でも、その前後の日はやけに晴れていて、春用の服を出していたから、突然の雪のせいで、次の日は少しカゼを引いたと思う。お寺の短い参道には、既に桜は満開で、生き生きとした葉が木についていたのものあった。上を見上げながら不安定な砂利道を歩いた。がり、がり、という音が足から伝わって、小さいころからこの感覚が好きだった。多分石の擦れあう音だったと思うけれど、もしかしたら、雪を踏んでいていた音だったかもしれない。その日は一日中空を雲が覆っていたので、朝も夜も夕

    • ドッキリについて

       人生で最初で最後、ドッキリにかけられたことがあった。中学3年生の頃、中2の時と同じクラスメイトで構成されたにもかかわらず、初めて会ったみたいに気が合って仲良くなった友人がいた。彼は野球部で頭がよく、僕は帰宅部で頭のできは普通だった。クラスメイトという以外に接点のない僕らは何かがきっかけでお笑いが好きだと知って、仲良くなった。ボケてはツッコミを繰り返し、流行ってるものから外れようとした。GReeeeNではなく、ボン・ジョビを聞き、歌詞を解読した。『女々しくて』ではなく、『スリ

      • すそに向かって広がりたい

         春になった。後輩ができた。 ▷  しのやま、です、よろしくお願いします。ぱちぱち、ぱらぱら…。ご迷惑をおかけするかもしれませんが…云々。  「どうも、教育係のわたしです、好きなように呼んでください、よろしくね」 「宜しくお願いします。じゃあ…ちゃっぴーでいいですか?」  わたしはちゃっぴーに生まれ変わった。 「トイレはあっち、お昼は食堂が安い、近くの蕎麦も安いけど、会社の人がいっぱいいる。二つあるパン屋さんのイートインは空いてるからいいよ。あとはカフェがいくつか、

        • ベーコンを焼く弱火になる

           「一番幸せなときってどんなときですか?」 と、数週間前にマッチングアプリで初めて会った男に聞かれ、何も答えられなかった。それまでにどんな会話をしていたのかはもう覚えていないが、その質問の冷たさを妙に覚えていて、冷蔵庫から出したばかりの冷奴を食べた時に、それを思い出した、それが昨夜の話。 *  仕事に行くつもりで起きたが、身体がだるく、熱っぽい。コロナではないと思うが、その可能性を考えて怠くなる。頭が重い。胃の中に角張った四角い物体が入っているみたいに吐き気がする。あと、

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        おろしは積もった春に

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          4本

        記事

          中庭のチムニー

           区切られた窓の外に女が三人通った。1人は犬を散歩し、1人は自転車で、一人は音楽を聴きながら、通っていった。私は胃が痛い。カフェでコーヒーを飲むのを諦めて、ソイラテを頼んだら案外高くなって少し嫌な気分になった。  目の前を横切った女が持っていたトートバッグをみて、ああそれ私も欲しかったのを思い出し、スマホで検索しようと電源をたちあげたら、男の先輩から連絡が来ていたのに気づいた。「大丈夫なん?」ときていたので、非表示にしたら、何をしようとしていたのか忘れて、また窓の外を眺めてい

          中庭のチムニー

          Day by day

           ちょっと肌寒くなってきた2015年の10月。新居に引っ越してから僕はすぐフラれた。一緒に住む予定だった彼女は、突然僕の前から姿を消した。事態を飲み込めないまま、ぼんやりする日が続き、気がつくと日常生活に支障をきたすようになった。仕事で上司からの指示を二度誤って、三回目で説教をくらった。怒られることに耐性のない僕は戸惑い、だんだん仕事に身が入らなくなり、常に頭痛や動悸がするようになっていた。ある日久しぶりに会った先輩に連れられて、精神科に行った。診断書を書いてもらい、(先輩が

          雨の日の由紀子

           今日みたいな雨の日に、大笑いした記憶がある。 起きて時計を見た。12月の○×日。それより大きく表示されている7セグ表示の時間を見て、とりあえず、今から家を出ても間に合わないことがわかった。天井を見上げて一息つく。頭痛がする。腕を頭の下に重ねたら、自分のわきの匂いがこっそり香って、ふうむ、と声が出た。 天井。外の道路を走り去った車のボンネットに反射した、曇りの日の光が、カーテンの上の隙間から、反射した光が映って綺麗、と思った。 「きれえ」 その声は僕の頭の中に響いたんじゃな

          雨の日の由紀子

          Kの相撲

           やけに遅いエスカレータに乗っている。僕、カーゴ、ヤナイはエスカレータの側面に貼られている鏡に映っていた。  各々が好きな服をまとっていた。僕は光沢のある柄シャツの下に、同じ色味の別の柄のパンツを履いて、カーゴはボロボロのカーゴパンツにバンドTシャツ、ヤナイは色落ちしたデニムにリアルなトラのイラストがプリントされたTシャツ。僕らがゆっくりと上がっていく様を鏡が映していて、雑誌の表紙っぽい、と思ったけれど、もし今写真を撮ったら、写りそうなくらいの最悪な空気だったから、画にならな

          インディゴ・ブルー

           「ハイボール200円」ののぼり、雑居ビルから溢れる灯、達筆なフォントの黄色い看板、艶やかに光るピンク、どこかで破裂したような笑いが聞こえる。歌声が、流行りの音楽が、食器の割れる音が、怒号が、悲鳴が、酒を飲め、とコールが響く。座っているだけなのに、音も声も、色も形も一緒になって、波を作り、椅子を揺らす。テーブルはジョッキから滴る結露か、溢れたビールか、誰かの唾液か、涙か汗か、血か、そのどれもが染みつき、ベタベタしている。昼間の残した温度と古い空調の冷気、煙草の煙と卑猥な言葉と

          インディゴ・ブルー

          「弟が、今すぐ白い太身のパンツがないと、死んでしまうんです」  梅雨が明けて、雲ひとつない神保町の空を見あげていたら、虎柄のアロハシャツの男が声をかけてきた。頭はパナマハット、黒縁の丸メガネ、ジーンズ、革靴は光沢があって、足元だけがこの街と、男の格好に不釣り合いだった。私は確かに、通販で買った太い白のパンツ(買った時に外したタグにはキナリ、と書いてあったと思う)を履いていて、コットン100%の厚手生地は、通気性が悪く、夏に着るにはもう遅かったと改めて思っていた。それでも買っ

           サメの人形をきつく抱きしめる女性が、友達と楽しそうに話している。ここはガタンゴトン、公園のベンチではなく、総武線千葉行きの3両目。だけども、何故か、中央に噴水が見える。噴水から湧き出る水が、真夏の太陽を反射させ、一瞬煌めいては消える。捉え所のないしぶき。大家族の母親が、ベビーカーを押して、颯爽と走る(逃げる)息子と娘を嗜めている。その顔は幸せそのものだった。近くに動物園や水族館があるのかもしれない。そんな様子だった。ジョギングをする老夫婦。ベンチでぼんやり話すカップル。大き

          日曜日

          日が落ちると、この部屋はすぐに暗くなる。向かいのくすんだ茶色いマンションの反射する光が、窓を通って部屋に差し込む。薄暗い光が、家具の先に作る影は、部屋を真っ暗にするよりも、闇を作っているように見える。絵の具に使う筆の水気をよく切らないで紙に置くとできる灰色、ただのドブのような水が、部屋の中に溜まっていた。電気をつけるにはまだ早い。天井のシーリングライトの光は真っ白で、その人工的な灯りを気にすると、たちまちいらいらしてしまう。夜。夜の闇が満たしてさえしまえばもう諦めがつく。じっ

          ラーメン、ラーメン

          「あの、さっき、彼氏できたんです」 彼女は開口一番、そう言った。頬が赤らみ、俯いた顔が可愛いなあ、と呑気に思った。それで僕は「はええ」だか「ほぇ」だか言い、そうなんやあ、とつい関西弁を口にした。千葉生まれの千葉育ちだけど。僕はとりあえず、つい口に出てしまった関西弁の代わりに、さっき出されたばかりのお冷を飲み干した。冷たい氷が口に入ってきて、僕はバリバリ食う。そういえばまだ12時も回っていなかった。いらっしゃいませ、お二人様ですか。店員の声が後ろで聞こえる。カップルだろうか。

          ラーメン、ラーメン

          溺レ

          シン・堺は四角いリュックを背負って、あの人の元へ急いだ。彼は、ナビゲートされるがままに最短距離をママチャリ(正確には2週間前に家を出て行った父親が残したものだから、パパチャリ)で走り、示されている住所へ向かう。あと○分で着きます、統計的に計算された時間が表示され、シンはそれがほとんど正しいことを経験的に覚えていた。このナビゲート通りに走れば、多少間違ったとしてもナビはすぐに修正され、時刻を客に報告するので間違いがない。とはいえ、彼があの人の元へ届けるのはこれが初めてではない。

          鍋もまた

          火をつけ、鍋を温めた。油を引いて、玉ねぎを炒める。卵を解き、鍋に入れる。買ってきたカツを袋から出し、鍋に入れるタイミングを伺っていると、卵が固まっていた。急いで火を弱めるが、どんどん硬くなっていく。僕は順序を間違えた。玉ねぎの後は、そもそもタレを作るべきで、その後にカツを底に置き、最後に卵で閉じるべきだったのだ。失敗したと思った。一度目はレシピを適当に探して作ったから、二度目もできると過信していたのだ。あっけなく固まっていく卵を、僕は眺めていることしかできなかった。 仕方な

          鍋もまた

          泳ぎ、痛む

           身体が怠く、右の腹が時々痛んでいた。例えば、家で昼寝をしていて、仰向けから左へ寝返りをうつとき痛んだ。それはギギ、というドアのきしみのようだった。ある時はスーパーで夕飯の鶏肉を選ぼうと腰を折っている時、刺されるようにちくりと痛んだ。ある時は、テレビで自殺をした男について取材した番組を見て、その理由を考えようとした時に、鈍く痛んだ。ある時は、わき腹をつつかれたと思い、振り返ったら誰もおらず、痛みだったことに気づいた。  思い返してみると、最初に症状があったのは年始で、もう一ヶ

          泳ぎ、痛む