見出し画像

【書評】『通勤の社会史』を読むと通勤の解像度が上がる

ロッシーです。

『通勤の社会史』という本を読みました。

通勤をしていても、その歴史的経緯については知っているでしょうか?
 
毎日ルーティンでやっている事ほど意外に知らないものです。

よくよく考えると通勤とは不思議な行為です。大昔なら通勤という概念そのものがなかったと思います。

試しに、あなたが古代人に「通勤とは何か」を説明することを想像してみてください。

あなた:「え~と、会社に行くために、電車に乗ったりすることで・・・」

古代人:「ん?会社?電車?なんでそこに行かないといけないの?」

なかなか想像するだけでも大変そうな気がします(笑)。

本書を読めば、改めて「通勤」というものを歴史的な視点、つまり縦軸で捉えることができると思います。そうすれば、きっと通勤に対する新しい見方ができると思います。


さて、時は遡ってイギリスのヴィクトリア朝時代(1837年から1901年)、最初の鉄道ブームが起こりました。それにより、「通勤」という概念が新しく発生することになります。

通勤は封建制度を打破する力となりました。なぜなら、小作人が土地に縛り付けられることがなくなるからです。

通勤には、一定の場所からの移動を可能にするという正の側面がありました。しかし同時に、鉄道建設のため、歴史的遺物が破壊されたという負の側面もありました。

当時の鉄道による通勤は、いま私たちが想像するような安全なものではなく、危険と隣り合わせでした。爆発や衝突による事故も多く、切符売り場ではなんと生命保険が売られていたとのこと。走行中は進行方向に背を向けるほうが良く、そうしないと汚れた風や飛来物から顔や目を守る必要がありました。

そんな状態であった通勤ですが、通勤ができる人は一部の恵まれた階級だったのです。それはなぜか?

鉄道の乗車料金は当時まだまだ高く、それなりの収入がないと手軽には利用できなかったからです。

「じゃあ、都市に住めばいいじゃないか?」

と思うかもしれませんが、当時のロンドンなど主要都市は、人口過密で非衛生であり、住宅環境としては劣悪でした。

だから、私生活では郊外に住みつつ、仕事場である都心に通勤することがステイタスだったわけです。それができない人たちにとっては、田舎の土地に縛られて働くか、劣悪な環境の都市部に住むかの2択しかなかったのです。

そして通勤によりさまざまな制度が変わります。

例えば時間の統一もそのひとつです。それまでは、町や村ごとに時間が異なるのが当たり前でしたが、それではダイヤが乱れてしまいます。よって、標準時という概念が出てくるわけです。

そして、常に時間を知る必要があるということで、時計というもの需要が増大します。しかし、それまで時間のズレにおおらかだった人たちにとっては、新たなストレスを生み出します。中には、遅刻への緊張から死亡した人もいたそうです。いまだったら考えられませんね。

さて、鉄道で通勤する際、イギリス人は車内で会話をしたがらなかったそうです。これは強い階級意識が原因だったようです。つまり、さまざまな階級の人間がひとつの列車に乗り合っているため、会話をしないほうがマナーとしては適切だったということです。そのため、静かに読書をすることが社内の過ごし方になりました。私たちが社内スマホを見るのと同じですね。

逆に、アメリカでは、そういった階級意識がイギリスほど強くはなかったため、おしゃべりしたり、議論したり、娯楽のためカードゲームをしたりするのが一般的だったとのことです。お国柄の違いとはいえ、面白いですね。

さて、徐々に通勤が広まっていくと、それに伴い郊外のコミュニティがどんどん形成されていきます。これにより、大きく変わったのは、配偶者選びです。なぜでしょうか?

それまでは、人は土地に縛られていました。ということは、結婚したら自分の土地か、配偶者の土地に住んで家庭を築くことになります。よって、配偶者選びもそのような制限がつくわけです。好きか嫌いかよりも、まず土地が近いかどうかが優先されるわけです。

しかし、通勤が一般的になると、結婚した二人がどこに住もうと、勤務先である都市に通える範囲内なら問題はなくなります。つまり、土地に縛られることがなくなり、自由な恋愛をすることができるようになったわけです。

しかし、その結果として、土地ベースではなく、「愛ベース」での配偶者選びに変わることになります。つまり、愛がなければ結婚をしないというわけです。また、結婚後、親元やその近くに住まないケースも増えますから、核家族化もすすむわけです。

なんと、通勤が恋愛の在り方や家族構成にまで影響を与えるとは!面白いですね〜。


本書を読むまでは、通勤が、社会に対してどのように影響をあたえるのか、考えたこともありませんでした。

そういう意味では、本書を読んで視野が広がりましたし、通勤というものに対して以前よりも解像度が上がったような気がします。

このほかにも、本書では、通勤が社会的にどのようなインパクトを与えたのか、歴史的な観点も含めて色々と興味深い内容が書かれています。

この記事では、歴史的な話についてフォーカスしていますが、それ以外にも、日本やインドなど他国の通勤事情、通勤が日常生活に及ぼす影響、自動車通勤、「ロード・レージ」(運転時の怒り)、通勤の未来としてのテレワークなど多岐にわかって述べており、非常に盛沢山の内容になっています。

毎日の通勤を、単に「不愉快な時間」と考えている人は、ぜひ本書を読んでみてください。きっと何かが変わると思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。

Thank you for reading!

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?