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『アイデアをプロダクトの真ん中に』NECKTIE

クリエイターになることに、もはや制限はない。

作りたいものを作るのは、楽しい。
誰にも邪魔されずに己の世界を積み上げる。
抱えていた確信が形になっていく過程は、必ずといっていいほど身体が熱くなる。
問題は、熱意を籠めても売れるとは限らないこと。

自分のしていることに意味があるのか、わからなくなる。
クリエイターが一度は通る葛藤だ。
「好きなんでしょ?」「自信を持ちなよ」と励まされても前を向けない。
その「好き」が通用しない。だから苦しい。

作りたいものを作る。
広々とした頭の中から理想を引っ張り出して、現実で色を付ける。
人に届けるために、たくさんのものを切り捨てる。
それでも、やりたいことを貫いたものには魂が籠るのだろう。

『NECKTIE』が製作している雑貨は、一目でクリエイターの意図が伝わる。
「これは面白いな」と零せば、目の前で相槌を返してくれるような距離感で。

そのクリエイティブについて、デザイナーの千星健夫さんにお話をうかがった。
作りたいものを最後まで作るには。
ファーストインプレッションから販売まで、千星さんは語ってくれた。


概念を流通させる。

『NECKTIE』は千星さんが立ち上げたデザイン事務所。
グラフィックやウェブデザインを領域とし、クライアントからの発注を受けて仕事をしている。

クリエイティブな仕事である一方、デザイナーが何かを発案できる機会は少ない。
クライアントの注文に合わせることが前提にあるため、作りたいものを持ち込んでもフィットしない場合がほとんど。

「『自分はこういうことを考えているよ』を発信できる、メディアのようなものとしてプロダクトを作って販売しています」

プロダクト製作において、千星さんは「思考が伝わること」を意識している。
「作りたい」と思うきっかけになったアイデアだけは、最初のコンセプトから変わらないように注意しているという。

「アイデアが真ん中にあることを大事にしています。見た目がかっこいいとか、素材を変えたとかじゃなくて、『考え方を流通させたい』というのがありますね」

同時に千星さんは「製品の流通」も念頭に置いている。
「作りたい」と並行して、そのプロダクトが売られていることも重視しているようだ。

「深澤直人さんの『WITHOUT THOUGHT』というワークショップがありまして、いろんなインハウスのデザイナーさんが一つのテーマに沿ってプロダクトをデザインする企画なんです。そのデザインが毎回すごく楽しくて、面白いんですね。だけど売ってない。売ったらいいのにな、とずっと思ってたんですよね」

売られていれば、そのデザインは生活に取り込まれていく。
デザインを面白いと思うからこそ、惜しいと思った。
実際にプロダクトを売るにはさまざまな制約がある。
販売できる値段にするためにコストを切り詰めるなど、多角的な視点が必要だ。

しかし、両立は不可能ではない。
アイデアを形にする。実際に製品として販売する。
自分がデザイナーだからこそ、柔軟に対応していける。

概念を流通させる。
その欲求を叶えるためには、作ることも売ることも欠けてはいけないのだ。

熱意と妥協のバランス。

プロダクトとして千星さんが最初に製作したのが『Tea Bag Holder “Shirokuma”』だ。

ティーバックの糸を釣り糸に見立て、釣りをするシロクマを配置。
紅茶を作る待ち時間が絵本のような世界に変わる、愛らしいティーバックホルダーだ。

水を吸ったティーバッグ。持ったら重くて魚を釣り上げているようだった。
ふとしたきっかけからアイデアを広げていく。
紅茶を蒸らす蓋を氷に、その氷上で釣りをさせるなら人じゃなくてシロクマ、糸を通す小さい穴はワカサギ釣りの穴になる。

アイデアを形にしながら、千星さんは自社製品だからこその強みを作った。
それは、陶器とスレンレスという異素材を絡ませたことにある。

「受ける仕事だと、異素材を絡めるということをやりたがらないんです。素材が変わると一つの工場で作れないから外注しないといけなくなるし、素材のノウハウがなかったりする。なので、世の中に少ないものができるのを狙って、陶器とステンレスを合わせた。そうすると競合が少なくなりますよね」

アイデアを売るための工夫は凝らしつつも、決してコンセプトは外さない。

例えばカラーバリエーションを増やしたり、別の動物で作ったりすれば、この製品はさらに売れる。バリエーションが一つだけだと店舗には卸しづらい。
だが、そうすると当初の「シロクマがティーバッグを釣る」というコンセプトからはずれてしまう。

マーケティング的な視点が本来の面白さをぼかす。
ネットでの販売は、自分の発想を貫くためでもあるらしい。

こうした事例が示すように、「作る」と「売る」が合わさると連続して判断を迫られる。

まず、作れるかどうか。
「良さそうなアイデアがあっても、いざ見積もりをとると金型の見積もりが200万円くらいとか、目指す金額にするには1万個作ってください、と言われて断念することも頻繁にあります」と千星さんは言う。
アイデアとしてまとまっていても難航することは多く、上手く落としどころを探していくほかない。

第一関門をクリアしても、今度は「どれを作るのか」が立ちはだかる。
最終的な判断は難しいという。千星さんも「経営判断に割と似ていて、合理的に判断できない」と苦笑していた。

「妥協というか着地点を探す作業は常にあります。社外的には妥協なくと言ってますけど、そんなわけない。素材、値段など、どの部分を妥協すればいいのかと常に着地点を探す。そういうことの繰り返しです」

先の見えない苦難がそこには付き纏う。
アイデアを貫き通すのは、製品を完成させるためには必須なのかもしれない。

作りたいものを作る。

現在『NECKTIE』では、『Tea Bag Holder “Shirokuma”』を含めた4つの製品が販売されている。

『Moment Scale』は陶器で作られた時計。
はかりの上にものを置くと時間が進んでいくようで、不思議な感覚に浸れる。

『Moment Scale』
チープさを避けるため陶器で製造。台所にも馴染むインテリア。

活版印刷を活用した製品も。

『Words Sandwich』はパンと具材からなるレタープレスカード。
アルファベットが書かれたカードはその頭文字の具材と対応しており、単語を作るとオリジナルのサンドイッチを作ることができる。

『Words Sandwich』
製作におけるこだわりはパン型カードにも。パン特有の柔らかさを出すため、電子基盤のプレス時に使われる工業用のクッション紙を使用。質感はそのままに、レーザーカッターで焦げた断面を再現した。

『Letterpress Poster & Frame』はポスターと卓上フレームのセット商品だ。
製作のきっかけは千星さんに男の子が生まれたこと。
5月の節句に飾るこいのぼりで部屋に合うものがなかったので、活版印刷で自作したそうだ。

『Letterpress Poster & Frame』
季節感とシンプルさを兼ねたポスター。クリスマスシーズンに向けたバージョンも。

陶器の『Tea Bag Holder “Shirokuma”』『Moment Scale』は日本有数の焼き物の産地、長崎県波佐見町で作られている。
また、『Words Sandwich』『Letterpress Poster & Frame』の印刷は千星さんのハンドプリント。一枚一枚丁寧に、ビンテージの活版印刷機で刷られている。
素材や製法に、千星さんは手を抜かない。妥協があってもその限界を突き詰める。

製作の様子を、千星さんは販売ページで丹念に取り上げている。

『Tea Bag Holder “Shirokuma”』の販売ページにある写真。
塗料が渇く前に目を描くため、爪をパレット代わりにしている。

「作っている人がもっとフォーカスされてほしいと思っています。製作現場にいくと、何気なくやっている工夫がたくさんあるんです。それを少しでも伝えられたらいいなと」

どんなものも作るかどうかだと語る。

「プロダクトデザイナーのTENTさんがいいことを言っていて。『まずは見積もりを取ろう』と。図面を引いて見積もりを取って、話はそれからだ。やるかやらないかだと思います」

作りたいものを作る。
言わずもがな、そこには苦難が待ち受ける。
それでも、大抵のことはできてしまう時代だ。

クリエイターになることに、もはや制限はない。
アイデアさえ掴んで離さなければ、やり遂げることに意味は必ずある。

プロダクト情報

・オンラインショップ

・運営企業(NECKTIE)

I am CONCEPTC.編集部

・運営企業

執筆者: 廣瀬慎

・Instagram

https://www.instagram.com/i_am_concept_rhr/

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