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1979年1月創立。軽薄短小の時代に抗い、硬派であるが人文・日本文学・海外文学・芸術・…

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1979年1月創立。軽薄短小の時代に抗い、硬派であるが人文・日本文学・海外文学・芸術・随筆など幅広いジャンルで独創的出版物を刊行。

最近の記事

【書評#2】一つの町と家族の来歴が照らす歴史の深層(赤尾光春)/『ウクライナの小さな町』

■実証史を補う生存者の証言と「想像的飛躍」  序文でこう記したワッサースタインは、ストイックな歴史家としての本分を全うすることに徹した旨を強調する。だが、「それでも時として、祖父やその他の人たちの心の内面がどのように働いていたかを推測したい気持ちに駆られることがあった」と述べ、「想像的飛躍」をした箇所があったことも率直に認めている。  そうした箇所の一つは、著者の父アディをホロコーストから救う上で決定的な一手を差し伸べた人物についてである(228-232頁)。クラコーヴィ

    • 【書評#1】一つの町と家族の来歴が照らす歴史の深層(赤尾光春)/『ウクライナの小さな町』

      ■かつて東欧に点在したユダヤ人の町「シュテットル」  現在のウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、リトアニア、モルドヴァ、ハンガリーなどの東欧一帯には、かつて住民の大半がユダヤ人であった小さな町が点在していた。こうした「ユダヤ人の町」が分布した広大な領域は、11世紀から18世紀までヨーロッパの大国であったポーランド王国(16世紀後半以降は「ポーランド・リトアニア共和国」)の版図とほぼ重なり、18世紀末のポーランド分割以降はロシア帝国とハプスブルク帝国(後のオーストリア゠ハン

      • 【対談#2】山本貴光×見田悠子 書物は人類を救う 『パピルスのなかの永遠』を読む

        ■声が文字になる時 見田 先ほどホメロスが話題に上がったので関連したお話を。バジェホは声の文化の豊潤さというのも十分わかっていて、声の文化から文字というものが生まれたその瞬間についてこう言っています。「その翼の生えた言葉の豊かさ、即興性、今目の前にいる人たちの心に届くように、その都度つくりかえられる可変性みたいなものがあるのに、文字にした瞬間にそれは死んでしまい、ピンで留められてしまい、精彩を欠いてしまう」と。ソクラテスやイエス・キリスト、仏陀も書かなかったという話も出て

        • 【対談#1】山本貴光×見田悠子 書物は人類を救う 『パピルスのなかの永遠』を読む

          ■私のために書かれた本 山本 日本語訳にして500ページくらいになる、たいへん中身の詰まった、イレネ・バジェホさんの『パピルスのなかの永遠』という本が刊行されました。目次を見ると、古代ギリシア・ローマ時代に書物はどういう生態にあったのか、どんなふうにつくられ、書かれ、読まれ、移動したのかという話をいろんな角度から論じている本で、古代世界の書物の話だよと紹介したくなるのですが、それだと足りないのですよね。本のあちこちに、コンピュータの環境も含めた我々に身近な現代の話や、映画

        【書評#2】一つの町と家族の来歴が照らす歴史の深層(赤尾光春)/『ウクライナの小さな町』

        • 【書評#1】一つの町と家族の来歴が照らす歴史の深層(赤尾光春)/『ウクライナの小さな町』

        • 【対談#2】山本貴光×見田悠子 書物は人類を救う 『パピルスのなかの永遠』を読む

        • 【対談#1】山本貴光×見田悠子 書物は人類を救う 『パピルスのなかの永遠』を読む

          【新刊】訳者・工藤順さんによる寄稿/『ウクライナの小さな町』

          現在の西ウクライナにまたがるガリツィア地方の小さな町クラコーヴィエツがたどった歴史を語る歴史書にして、この町と深い縁のある著者じしんのユダヤ人の家族がたどった苦難の歴史を追いかけてゆく年代記でもある『ウクライナの小さな町』(バーナード・ワッサースタイン、工藤順訳)。ウクライナ辺境の町の歴史と、あるユダヤ人一家の歴史の交錯する軌跡を描いた本書は、東欧の複雑な歴史を複雑なまま理解するためにまさに今求められる注目書です。 近日中に刊行予定の本書の訳者による、「訳者あとがき」に代わる

          【新刊】訳者・工藤順さんによる寄稿/『ウクライナの小さな町』

          【対談:年末年始・特別対談一挙公開!】いったいゴジラは、私たちに何を語るのか?

           公開されてから、歴代ゴジラ映画のなかでも、好評価の『ゴジラ−1.0』。アメリカをはじめ世界でも評価が高いようだ。  同作をめぐって、「シン・ゴジラ」はいうに及ばず、「すみっコぐらし」「ちいかわ」「ゲゲゲの鬼太郎」、北野武監督映画『首』も参戦。  一体、何が問題で、どんなことを「ゴジラ」は、語ってくれるのか?  批評家の杉田俊介氏と藤田直哉氏(日本映画大学)による、三時間、白熱の本格批評対談。 ◆みんなに評価される「ゴジラ」 杉田 今日は主に『ゴジラ−1.0』と山崎貴を

          【対談:年末年始・特別対談一挙公開!】いったいゴジラは、私たちに何を語るのか?

          【対談#2】 原瑠璃彦×matohu 堀畑裕之 「スハマーとは何か?――現代に生きる海辺の思想を探る」

          『洲浜論』の刊行を記念して、2023年8月9日に代官山 蔦屋書店で開催したトークイベントの模様を2回に分けてお伝えしていきます。 *前回までの記事はコチラ→【対談#1】 ■海の向こうの常世という思想堀畑 何があるかは分からないけど、果てしなく広がっている。だから未知なる世界がある。そういう海の信仰は、本州にもあったけれど、沖縄など南の島にも結構残ってますよね。 原 そうですね。いまも申しましたように、日本に大陸からいろんなものが入ってくるわけですけど、海に関係するものが

          【対談#2】 原瑠璃彦×matohu 堀畑裕之 「スハマーとは何か?――現代に生きる海辺の思想を探る」

          【対談#1】 原瑠璃彦×matohu 堀畑裕之 「スハマーとは何か?――現代に生きる海辺の思想を探る」

          『洲浜論』の刊行を記念して、2023年8月9日に代官山 蔦屋書店でトークイベントが開催されました。 著者の原瑠璃彦さんと、カバーのビジュアルをご担当いただいた服飾ブランドmatohuの堀畑裕之さん、「スハマー」(洲浜を愛する人)のお二方をお招きし、装丁の制作秘話をはじめ、洲浜という視点から見えてくる「まったく新しい日本文化」の見方についてお話しいただきました。その模様を2回に分けてお伝えしていきます。 ■洲浜を愛する人、スハマーになったきっかけ原 最初に僕からご説明しないと

          【対談#1】 原瑠璃彦×matohu 堀畑裕之 「スハマーとは何か?――現代に生きる海辺の思想を探る」

          【対談#2】後半!いよいよ核心へ。藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて

          【※ネタバレ注意!】藤田直哉×杉田俊介対談の後編です。 前半【対談#1】藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて|作品社 (note.com)  前半は、『君たちはどう生きるか』とこれまでのジブリ作品を中心に、お話をしていただきました。  本日公開の後半は、いよいよ「ポスト」宮崎駿について語ります。【編集部】 ◆宮崎駿の弟子が作った『シン・仮面ライダー』 ――宮崎駿の弟子で

          【対談#2】後半!いよいよ核心へ。藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて

          【対談#1】藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて

          【※ネタバレ注意!】藤田直哉×杉田俊介対談の前半です。後半はコチラ 編集者(以降、「――」) 宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(以降『君たちは~』と略)をめぐって議論して頂きます。杉田さんは『宮崎駿論』(NHK出版、2014年)と『ジャパニメーションの成熟と喪失 宮崎駿とその子どもたち』(大月書店、2021年)を出版されており、藤田さんは『Real Sound』誌で「宮崎駿の映画は何を伝えようとしてきたのか?」を連載されています。前回は、『エブリシング・エブリウェア・オ

          【対談#1】藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて

          【対談#2】藤田直哉×杉田俊介 2022年は、弱者男性やインセルの年だった?――『エヴ・エヴ』『別れる決心』ディズニー作品から考える「新しい男らしさ」

          映画や文学の背景にある現在の政治・社会問題や文化批評における「男性性」などを気鋭の二人の批評家が深堀り! アニメ/映画を含むサブカル・エンタメを、さらに楽しむための本格批評対談を2回に分けてお伝えします。今回は第2回目【後半】を公開いたします。 *前回までの記事はコチラ→【対談1】 ■男性の欲望と生成変化――ギレルモ・デル・トロ作品 藤田 韓国映画における女性の描き方は、伝統的に「可哀想な女性」として描く傾向があります。そして、そのように描いてきたことが、現在のフェミニ

          【対談#2】藤田直哉×杉田俊介 2022年は、弱者男性やインセルの年だった?――『エヴ・エヴ』『別れる決心』ディズニー作品から考える「新しい男らしさ」

          【対談#1】藤田直哉×杉田俊介 2022年は、弱者男性やインセルの年だった?――『エヴ・エヴ』『別れる決心』ディズニー作品から考える「新しい男らしさ」

          アカデミー賞を総なめにした『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、パク・チャヌク『別れる決心』、ディズニーの作品群、異例のロングラン上映中インド映画『RRR』、新作公開を控える北野武、亡くなったノーベル賞作家大江健三郎の文学まで、その背景にある現在の政治・社会問題や文化批評における「男性性」などを気鋭の二人の批評家が深堀り! アニメ/映画を含むサブカル・エンタメを、さらに楽しむための本格批評対談を2回に分けてお伝えします。 ■問題提起――2022年は、弱者男

          【対談#1】藤田直哉×杉田俊介 2022年は、弱者男性やインセルの年だった?――『エヴ・エヴ』『別れる決心』ディズニー作品から考える「新しい男らしさ」

          【対談#2】藤田直哉×杉田俊介 『すずめの戸締り』とはなんなのか?――徹底討論

          *注意:この記事にはネタバレが含まれています 気鋭の批評家二人が、初期作から最新作まで、政治・社会的なテーマをも織り込んで、その魅力について徹底討論。その模様を2回に分けてお伝えしていきます。 *前回までの記事はコチラ→【対談1】 ■鬱屈のラディカリズム 杉田 ところで、オタクの鬱屈を浄化して美しい過去のロマンを捨て去る、自らの鬱屈を「戸締まり」して自力で自己肯定できるように成熟する、という場合に、そもそも、『秒速5センチメートル』的な鬱屈のラディカリズムは『すずめの

          【対談#2】藤田直哉×杉田俊介 『すずめの戸締り』とはなんなのか?――徹底討論

          【対談#1】藤田直哉×杉田俊介 『すずめの戸締り』とはなんなのか?――徹底討論

          *注意:この記事にはネタバレが含まれています 二〇一六年の『君の名は。』で二五〇億円を超える興行成績をあげ、日本映画の歴代興行成績二位に躍り出た監督・新海誠(現在は三位)。その影響力はもはや国民的と言うべきであろう。次作『天気の子』も一四〇億円を超える成績を挙げ、広範な支持を得ている。アメリカのアカデミー賞への招待、『君の名は。』のハリウッドリメイク、国際的な映画祭での受賞等々、国際的な評価も高い。二〇二一年一一月一一日公開『すずめの戸締り』は、ロングランヒットを続けている

          【対談#1】藤田直哉×杉田俊介 『すずめの戸締り』とはなんなのか?――徹底討論

          【鼎談#3】沼野恭子×工藤順×石井優貴「幻の作家プラトーノフ」

          『チェヴェングール』の刊行を記念して開催したトークイベントの模様を3回に分けてお伝えしていきます。 *前回までの記事はコチラ→【鼎談#1】 【鼎談#2】 ■海外の『チェヴェングール』事情沼野 一区切りついたところで、ちょっと回顧調になるかもしれませんが、この作品が英語に訳された時の話をしたいと思います。なにしろ『チェヴェングール』は英語に訳すのも難しい、何語にも翻訳できないと言われていた作品です。英語版は1978年にアーディスという出版社から出されました。とても有名な出版

          【鼎談#3】沼野恭子×工藤順×石井優貴「幻の作家プラトーノフ」

          【鼎談#2】沼野恭子×工藤順×石井優貴「幻の作家プラトーノフ」

          『チェヴェングール』の刊行を記念して開催したトークイベントの模様を3回に分けてお伝えしていきます。 *前回までの記事はコチラ→【鼎談#1】 ■何かが欠けている人たち沼野 では、この作品の魅力を解きほぐしていきたいと思います。まずは内容、それから文体的なことにも話が及ぶといいかなと思います。まずは「わからなさ」について。この感じは日本語で読んでもそうですが、最初は茫洋としていて「何が書かれているんだろう」と、霧に覆われているような中を手探りで進んでいく感じですよね。それに耐

          【鼎談#2】沼野恭子×工藤順×石井優貴「幻の作家プラトーノフ」