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【書評#2】一つの町と家族の来歴が照らす歴史の深層(赤尾光春)/『ウクライナの小さな町』
■実証史を補う生存者の証言と「想像的飛躍」
序文でこう記したワッサースタインは、ストイックな歴史家としての本分を全うすることに徹した旨を強調する。だが、「それでも時として、祖父やその他の人たちの心の内面がどのように働いていたかを推測したい気持ちに駆られることがあった」と述べ、「想像的飛躍」をした箇所があったことも率直に認めている。
そうした箇所の一つは、著者の父アディをホロコーストから救う
【書評#1】一つの町と家族の来歴が照らす歴史の深層(赤尾光春)/『ウクライナの小さな町』
■かつて東欧に点在したユダヤ人の町「シュテットル」
現在のウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、リトアニア、モルドヴァ、ハンガリーなどの東欧一帯には、かつて住民の大半がユダヤ人であった小さな町が点在していた。こうした「ユダヤ人の町」が分布した広大な領域は、11世紀から18世紀までヨーロッパの大国であったポーランド王国(16世紀後半以降は「ポーランド・リトアニア共和国」)の版図とほぼ重なり、18
【対談#2】山本貴光×見田悠子 書物は人類を救う 『パピルスのなかの永遠』を読む
■声が文字になる時
見田 先ほどホメロスが話題に上がったので関連したお話を。バジェホは声の文化の豊潤さというのも十分わかっていて、声の文化から文字というものが生まれたその瞬間についてこう言っています。「その翼の生えた言葉の豊かさ、即興性、今目の前にいる人たちの心に届くように、その都度つくりかえられる可変性みたいなものがあるのに、文字にした瞬間にそれは死んでしまい、ピンで留められてしまい、精彩を
【対談#1】山本貴光×見田悠子 書物は人類を救う 『パピルスのなかの永遠』を読む
■私のために書かれた本
山本 日本語訳にして500ページくらいになる、たいへん中身の詰まった、イレネ・バジェホさんの『パピルスのなかの永遠』という本が刊行されました。目次を見ると、古代ギリシア・ローマ時代に書物はどういう生態にあったのか、どんなふうにつくられ、書かれ、読まれ、移動したのかという話をいろんな角度から論じている本で、古代世界の書物の話だよと紹介したくなるのですが、それだと足りないの
【新刊】訳者・工藤順さんによる寄稿/『ウクライナの小さな町』
現在の西ウクライナにまたがるガリツィア地方の小さな町クラコーヴィエツがたどった歴史を語る歴史書にして、この町と深い縁のある著者じしんのユダヤ人の家族がたどった苦難の歴史を追いかけてゆく年代記でもある『ウクライナの小さな町』(バーナード・ワッサースタイン、工藤順訳)。ウクライナ辺境の町の歴史と、あるユダヤ人一家の歴史の交錯する軌跡を描いた本書は、東欧の複雑な歴史を複雑なまま理解するためにまさに今求め
もっとみる【対談:年末年始・特別対談一挙公開!】いったいゴジラは、私たちに何を語るのか?
公開されてから、歴代ゴジラ映画のなかでも、好評価の『ゴジラ−1.0』。アメリカをはじめ世界でも評価が高いようだ。
同作をめぐって、「シン・ゴジラ」はいうに及ばず、「すみっコぐらし」「ちいかわ」「ゲゲゲの鬼太郎」、北野武監督映画『首』も参戦。
一体、何が問題で、どんなことを「ゴジラ」は、語ってくれるのか?
批評家の杉田俊介氏と藤田直哉氏(日本映画大学)による、三時間、白熱の本格批評対談。
【対談#2】後半!いよいよ核心へ。藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて
【※ネタバレ注意!】藤田直哉×杉田俊介対談の後編です。
前半【対談#1】藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて|作品社 (note.com)
前半は、『君たちはどう生きるか』とこれまでのジブリ作品を中心に、お話をしていただきました。
本日公開の後半は、いよいよ「ポスト」宮崎駿について語ります。
【対談#1】藤田直哉×杉田俊介対談『君たちはどう生きるか』(2023年7月14日公開、宮崎駿監督)を、僕たちはどう観たのか?――ポスト宮崎駿論を超えて
【※ネタバレ注意!】藤田直哉×杉田俊介対談の前半です。後半はコチラ
編集者(以降、「――」) 宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(以降『君たちは~』と略)をめぐって議論して頂きます。杉田さんは『宮崎駿論』(NHK出版、2014年)と『ジャパニメーションの成熟と喪失 宮崎駿とその子どもたち』(大月書店、2021年)を出版されており、藤田さんは『Real Sound』誌で「宮崎駿の映画は何を伝えよ
【対談#2】藤田直哉×杉田俊介 2022年は、弱者男性やインセルの年だった?――『エヴ・エヴ』『別れる決心』ディズニー作品から考える「新しい男らしさ」
映画や文学の背景にある現在の政治・社会問題や文化批評における「男性性」などを気鋭の二人の批評家が深堀り!
アニメ/映画を含むサブカル・エンタメを、さらに楽しむための本格批評対談を2回に分けてお伝えします。今回は第2回目【後半】を公開いたします。
*前回までの記事はコチラ→【対談1】
■男性の欲望と生成変化――ギレルモ・デル・トロ作品
藤田 韓国映画における女性の描き方は、伝統的に「可哀想な女
【対談#1】藤田直哉×杉田俊介 2022年は、弱者男性やインセルの年だった?――『エヴ・エヴ』『別れる決心』ディズニー作品から考える「新しい男らしさ」
アカデミー賞を総なめにした『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、パク・チャヌク『別れる決心』、ディズニーの作品群、異例のロングラン上映中インド映画『RRR』、新作公開を控える北野武、亡くなったノーベル賞作家大江健三郎の文学まで、その背景にある現在の政治・社会問題や文化批評における「男性性」などを気鋭の二人の批評家が深堀り!
アニメ/映画を含むサブカル・エンタメを、さらに楽しむため
【対談#2】藤田直哉×杉田俊介 『すずめの戸締り』とはなんなのか?――徹底討論
*注意:この記事にはネタバレが含まれています
気鋭の批評家二人が、初期作から最新作まで、政治・社会的なテーマをも織り込んで、その魅力について徹底討論。その模様を2回に分けてお伝えしていきます。
*前回までの記事はコチラ→【対談1】
■鬱屈のラディカリズム
杉田 ところで、オタクの鬱屈を浄化して美しい過去のロマンを捨て去る、自らの鬱屈を「戸締まり」して自力で自己肯定できるように成熟する、とい
【対談#1】藤田直哉×杉田俊介 『すずめの戸締り』とはなんなのか?――徹底討論
*注意:この記事にはネタバレが含まれています
二〇一六年の『君の名は。』で二五〇億円を超える興行成績をあげ、日本映画の歴代興行成績二位に躍り出た監督・新海誠(現在は三位)。その影響力はもはや国民的と言うべきであろう。次作『天気の子』も一四〇億円を超える成績を挙げ、広範な支持を得ている。アメリカのアカデミー賞への招待、『君の名は。』のハリウッドリメイク、国際的な映画祭での受賞等々、国際的な評価も高