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映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』をみる。

「映画音楽家」と訊いて、真っ先に思い浮かべるのは?

ジョン・ウィリアムズ、ダニー・エルフマン、ハンス・ジマー、なるほど。時の流れは残酷なもので我々は20年代にかけフランシス・レイ、ミシェル・ルグランそしてエンニオ・モリコーネとの別れを経験しました。コロナ禍がなければもっと早くこの映画と出会えていたかもわからない。トルナトーレがモリコーネを撮る、という事実がまずどれだけ圧倒的かということ。

庵野秀明が鷺巣詩郎の、宮崎駿が久石譲のドキュメンタリーを撮る…と書くとなんかちょっと違う気もしてきましたが。とはいえ2時間40分、彼の音楽がエンドロールの消える瞬間までずっと心に響き続けます。極めつけには、そこから数時間あるいは数日間に渡り、今こうして編集ページに向かう最中もあの余韻が、残り香が漂い続けている。末恐ろしい映画をみました。

情報量の暴力。トンデモ発言であることは百も承知ですけれど、第一印象はそんな感じ。開始1分少々で、あ、これ5回くらい観ないとあかんやつやと。自身が語るキャリアについては勿論のこと、業界問わず様々なインタビュー映像とうっとりするような音楽とが交錯し続ける。つい聞き蕩れていると、もう全然違うチャプターまで進んでいる。あまりにもスピーディー。

モリコーネをよく知るトルナトーレならではの仕掛けだったのではないか。

つまり冒頭早足で自室に入って来たかと思えば真っ先に向かった先はトイレで、だからって最短ルートを通って行く訳でもない。絨毯の上でおもむろにストレッチを始めたり、もっと広いスペースがあるはずなのにわざわざ狭く散らかった書斎でタクトを振り始める。その間ずっとメトロノームが鳴っている演出まで含め、実に鮮やか。ドキュメンタリー映画斯くあるべし。

過度に神格化しない。墓場まで持ってけそうな裏話も、オスカーへの恨み節も存分に盛り込んだ。ただインタビューを切り貼りしただけの映像にならずむしろ示し合わせたみたいなシームレスさで、自然とあるべき方向へ映画が進んでいく。不思議な感覚でした。人生が音楽になるように、人生が映画になっていくのだということなんでしょうね。

映画音楽をつくったというよりエンニオ・モリコーネという「ブランド」の創立者。音楽が素晴らしいあまりに、ストーリーが全然頭に入ってこない。むしろ記憶にない。といった映画レビュワーの風上にも置けないあなたへ、是非オススメしたい1本。劇中に登場した45本にも及ぶ彼の膨大な作品群を一つ、また一つと楽しみながらちびちびやっております。

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