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テセウスの街

テセウスの街

鉄が赤錆びて
いつかほろりと綻びていくように
生きていくためには
いつかどこかで朽ちていく

あなたを探して
旅に出た 夜の街中
"変わっても変わらない何か"
それが あなた
あなたを探している

昨日なかったビルが
今日ここに建っていた
この街は変化する
この街は 生きている
わたしは今ここにいるけれど
明日はきっといないだろう
わたしは変化する
わたしは 生きている

生きることは
いつか朽ち

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恋しい

恋しい

恋をしている
もう君じゃない、名前のついた誰かのことだよ
"彼"は電子の中に住んでいる

"彼"について
わたしは何でも知っている
画面越しに話してくれたことなら
"彼"は
どんなメディアにも存在する
色んな"彼"たちがいて
わたしは沢山所有している
"楽しいもの"はたくさんあった方が良いでしょう?
"彼"が寝てしまったら
無意識のまま泳ぐように
別の"彼"を探す
スクリーンをシャッフルしながら

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ノンラベリング・エモーション

ノンラベリング・エモーション

コンクリートの高層ビル群が お互いに擦れて軋む音が響く
全てをラベリングしたい人間の賢さが創造した社会
賢くも鈍くもなれない僕の自我がブレる

心から生まれた ぐらぐら揺れる知らない何かが怖くて
何でもいいから知っている名前を当てはめて
さっさとピンボケした不安感を終わりにしてしまいたい
「スキ」でも「キライ」でもいい 変わりない安らぎを抱こうと
不定形なこいつのためのありふれた型を求めて彷徨う

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夜想詩

夜想詩

恐ろしい
本能的にそう思う暗闇は
実はそっと あなたに手を差し伸べている
かもしれない

あなたが傷ついた夜
悲しい夜
震えながら涙を流す夜

空に広がる藍色は その全てを抱き留めた
ただ黙って 優しく深い色で あなたに寄り添った
その大きな身体であなたを包み
柔らかい綿の 温かな布団と一緒に
穏やかな風のリズムで
苦しい心を和らげてくれた

藍色夜空は
たくさんの子供たちの棘をぬいて
たくさんの

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LOOP

LOOP

僕以外の時間が止まったのは
僕が死んだせいなのか それとも生きているせいなのか
誠実さが僕を切り捨てて 狡猾さが僕を救った/何故?
濁った針と痛んだ糸で
縫い合わせてくれなくても良かった
関節ごとに指が転がる ころころ
そのままで良かった

真実が僕を見捨て 嘘が僕を拾い上げた
生命を繋ぐ肉体が 心臓を押しつぶそうとする/何故?
前を向くために涙があるのなら
涙が出ないのは 全てをあきらめたのか

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夏の色、0の記憶 ‐XXXX年‐

夏の色、0の記憶 ‐XXXX年‐

遠い遠い未来の昔
うたかた屋さんという泡売るお店が
海のなかにありました

色んなものから生まれた泡 例えば
うたた寝する海藻の夢
入り組んだ洞窟の迷図
海を切り裂く甲板が流す錆びた涙
そういったものから生まれた泡を
ビンなどに詰めて売っているのでした

うたかた屋さんの店先は
風色 陽の色 海の色
色とりどりに塗られた傘の内側に
たくさんの泡たちを集めて 綺麗に飾り付けられています
まるで色んな

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模倣イデオロギー

模倣イデオロギー

恐怖がココロを浸食しやがて終末に至る町は
これまで生産/悪食した
どんなに生々しいバッドエンド・フィクションも
無臭のまま腐り続け、代わりにこの世が臭うようだ
道化を得ても王は得ず
空回りの一人芝居、乾いた空で舞う

不思議でも何でもないことだが
老人には年老いた町が
子供達にはサイケデリック
高層ビル同士、生命のペイントが最高にイカしてる
"ハカイセヨ ハカイセヨ"
"オマエノイバショヲ ハカイ

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最高でも最悪でもないわたし

最高でも最悪でもないわたし

時々想像してみる わたしの全てが最高だったらって

運動神経 バツグン 陸上部のエース級
頭脳明晰 国語算数理科社会英語 全部テストで満点
顔なんて誰よりもかわいくって クラスでアイドルやってる

そんなことを考えてみたら……
本当のわたしって
ああ 全然大したことないんだなって

時々想像してみる わたしの全てが最悪だったらって

借金して お金のない貧乏生活 お菓子も買えない
怪我と病気で 身

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四季彩/colorful

四季彩/colorful

掌に収まった、本の弾力を確かめている。
線香の白煙と枯葉化粧が、彼岸の時刻に触れている。

鈍い空が、どこか遠くでクラクションの響きを抱き留めた。
日光で膨らむ布団、肌触り、
寒さに感化、眠気を揺り起こす。
ホットミルクの湯たんぽと、
弄ばれた舌先のチョコレート――なめらかに蕩ける。

無言の部屋には、雑多で曖昧な音が満ちている。
いつの間にか、青色で、瞳萌える空気。
いつの間にか、薄墨色、滲み霞

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等速が止められない、空を切る手。

等速が止められない、空を切る手。

誰にも見えない透き通る刃物、
僕の内の"何か"が握った。
不自然に無痛の感覚。
切りつけ傷つく裂け目から、
僕が"僕"から剥がされていく。
乖離、乖離、乖離……
宙に浮いた裂け目、空白、
僕等の間。
"僕"は知らないふりをした。

"僕"はもう僕ではなく……
つまり今は"君"だった。
君を僕は捕まえることができなくて、
空を切る手。
一人の感覚が剥がれていく、
二人になる、
二人のまま離されていく

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青空の下、原色の景色

青空の下、原色の景色

子供たちは知っている
夏は異界の門 ひらく
太陽揺らめき 月は十六夜
惹きあえばほら
どこにだって現れる
ワクワクのファンタジー

大人が忘れた わたしたちの遠い街
自分の足で走り出せば
必ずどこかで辿りつける
透明な空と純粋な雲が
それを証明してくれる
追いかけて どこまでも行く
夏、原色の景色

ヒカリ、ひかり、光。

ヒカリ、ひかり、光。

君が一体何者なのか
私は知らない 分からない
まるで分かっているような
気にはなって いたけれど
君と私が出会う前
どこに居たのか 何していたのか
まるで分かっちゃいなかった

何光年、何千光年、何億光年。
不可思議、那由他、阿僧祇か。
君が生まれた場所、終わりを迎える地。
気にしたこともない 自分のことばかり考えて

セント何度、何オクターヴ。
君の聞こえない声の色、伝わらない熱の意味。
不思議

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ティータイム

ティータイム

ティーカップに手を当てて 伝わる微熱
火照る水面が回す三半規管 移ろう景色を反射する
艶(つや)やかな銀色スプーンで
自分で揺らしたはずだった
それでも栗色の円流に
つられ つられて
ぐるりぐるりと流れの中心
私こそが目まぐるしく回っているように
ぐるり ぐるり
ぐるり ぐるり

宙にさらされたスプーンに残った二雫
微かに震えてあなたを映す
頬にかかる白い香りは
私の手を取り誘わせた
「あなたと二

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水神(みなかみ)

水神(みなかみ)

海に深く沈んで 
水面より現れ出ずる 幻想(モザイク)の光の中を
揺蕩うている夢だった
あなたの髪の毛が 潮風のような匂いを孕んでいたので
惑わされたのだ

太陽の光は
水のフィルターを通して 段々細々となっていった
最後まで残った光の粒は 極上の砂金となって
海の底に 静かに落ち残る
そこは
誰の手にも渡ることのない
神の密かな安息地
荒らさぬように そっと泳いでいかねばならない

道中 神の化

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