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創作物ーどこまで真実かは貴方が決めていいー

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小説、詩、短歌……精神の解離と統合、少女性とリアリズム、その境界線に走らせた筆の跡。
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記事一覧

詩「今日も世界に泥が降る」

詩「今日も世界に泥が降る」

泥水が降ってきた

また夜に覆われる

白い水仙が一輪だけ咲いていたが

もう世界は沼になってしまって

泳いで探そうにもどこへ進んでいるのかわからない

夜を潜り続ける

もしかしたら水仙は見間違いだったのかもしれないし

重たい泥に手折られてしまっているかもしれない

もったりとした夜を手で掻きながらそう思う

いつの間にか地球は夜に黒く塗られてしまった

裏側は朝なのだろうか、白いのだろうか

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七つの大罪自由律俳句(短歌)「色欲」

七つの大罪自由律俳句(短歌)「色欲」

洞窟の中でのたうっても貴方は知らない
この暗さを湿っぽさを出口のない入り口を

誰のものでもないその笑顔だから愛しく自分だけのものに出来るはずがなく

あんたなんかじゃ吊り合わないよと言ってしまったわたしなんかじゃ、もっと

全部ぶちまけて壊れてしまえ 思えども思えども引き金は固く押せない「送信」

死んで傷になるしか心に残る術がなく
死に損なって忘れられてゆく
せめて綺麗な想い出にと 足を止めた

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受胎告知あるいは自我の訃報

受胎告知あるいは自我の訃報

ある日私は、私自身の訃報を聴いた。しかしそれは、同時に私自身の産声でもあった。

私は私を受精し私自身を妊娠する。私は私の胎児、私は私の母親、私は私を産み落とし生まれ直す。

天使のお告げはいらない。
アダムもいらない。

私は私の創造主、私は私の聖典、私による私の堕天、私は私を磔にして三日後に私の復活祭をする。

私は私を信仰し、懺悔し、私を密告する。

そして世界は、私ひとりぽっちになった。

「幸子の最期の走り書き」

「幸子の最期の走り書き」

ぬるいおべんちゃら浴びせられるくらいなら
冷や水ぶっかけられる方がマシだ
綺麗事のオブラートで適当に包んだ
その奥の真っ黒い臓物を見せてくれよ
お前となら死ねると思ってた
お前となら死ねると思ってた
死ぬ気で差し違えてもいい覚悟だったのに

朗読詩「自胎動」

朗読詩「自胎動」

どくん。
今、動いた。
どくん。
今、蹴った。
私のナカの私。
新しい、私。
新しい、命。
どくん。どくん。
うずくまって、私は私の胎動を聴く。
もうすぐ、生まれる。
どくん。どくん。どくん。
血の呪縛は血をもってして解こう。
私は私と結合し、私は私を受精する。
これから私は、私の子宮から生まれ直すのだ。

七つの大罪自由律俳句「暴食」

七つの大罪自由律俳句「暴食」

箸を運ぶ指と吐かせる指はどうして同じ指なのか

肥大する胃と比例して膨らむ虚無感

高級品も希少部位も満足させることのない飢餓感

吐いたらゼロ吐いたらリセット言うだけで通り過ぎる呪文

栄養が欲しい熱量が欲しいそれでも心は満腹にならない

七つの大罪自由律俳句「憤怒」

七つの大罪自由律俳句「憤怒」

世界中の薔薇を全部むしってもおさまらぬ怒り

傷つくし傷つけるからと飲み込む怒鳴り声

石を投げて当たった鏡の破片で顔を切った

やけ酒したこの身に火をつけたら巴里よりも燃えるだろう

右脳は罵声を叫び続け左脳がそれをなだめている

詩「変身」

詩「変身」

夜中になると私は
脚は八本
眼は三つの
巨大な毒蜘蛛になる

もう毎晩のことなので慣れてはいるし
早寝をしてしまえば関係がない

うっかりと酒がすすんで
すっかり夜更けになっていて
「しまった」
と気づく頃にはもう遅い

一度毒蜘蛛になってしまったら
夜が明けるまでそのままなのだ

六畳ワンルームの部屋にぎりぎり収まる体
ギチギチと音を立てる八本の脚
らんらんと光る三つの目

恐ろしくはない
だっ

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詩「夜鳥」

詩「夜鳥」

夜空を飛んでいる鳥は
誰にも見られることはない

ひとは飛ぶ鳥に自由を見出すけれど
それは青空のお話

誰にも見られず
誰にも想像されず
想いを託されず
撃ち殺されることもなく

ただ暗闇を羽ばたいている自分こそが
心の底から自由なのだ

詩「自分着ぐるみ」

詩「自分着ぐるみ」

昨日、手首を切りました
だって変な感じがしたのです
鏡の中に知らない人がいたんです
私はこんな姿だったかしら
この腕は本当に私の腕かしら

着ぐるみ、みたい

ふにゃっとした笑顔で時々おどけた動きをしてみる
そんなゆるキャラの着ぐるみの中に入っている気分

中身は?
私に中身はあるの?

流れていく血は果物の果汁のようで
甘酸っぱい香りがしました
痛みはありませんでした

やっぱり私は着ぐるみを着

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朗読詩「母」

朗読詩「母」

「人間が怖い」

そう言い続けていた友人が、子供を産んだ。

「人間は怖い。でもこの子だけは可愛いの。」

そう彼女は言った。

彼女の胸の中で、赤ん坊は腹を空かせては泣き、乳を飲み、やがて眠った。
にんげん、そのもの。
私はそう思った。
こんな欲望のままに生きている、言葉も通じない生き物のどこが愛おしいのか。

私は「人間が怖い」という貴女が好きだった。

「人間は怖いわ。」

私だけが貴女の一

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詩「現実抹殺うけたまわります」

詩「現実抹殺うけたまわります」

わたしは夢売りです
現実抹殺うけたまわります

人は誰しも毎日が
予想もつかない本当の世界との拳闘ショウ
笑ったピエロの化粧して
楽屋裏を探しているあなた

あなたに会いに参りました

ご依頼ください
あなたの現実を目の前から抹殺し
跡形も残しません
あらゆる手段で現実を痛めつけ
ごらんにいれましょう

ご依頼ください
手に入らなかった極上の夢を
お見せいたします

妄想
虚言
快楽
幻惑
そのす

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詩「おうちのなか、きけん」

詩「おうちのなか、きけん」

おそとにはわるいびょうきがあるんだって

みんなでおうちにいましょうって

みんなはおうちがあんぜんなんだ

ぼくのおうち

ぼくのおうちは

おとうさんがおさけをのむ

おとうさんがおかあさんをぶつ

おかあさんがぼくをぶつ

おとうとがじっとみている

がっこうにいけなくなって

きゅうしょくたべたのなんにちまえだろ

おなかがすいたな

おなかがすいたな

パンみたいなものがある

かじって

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小説「街売りの少女」

小説「街売りの少女」

 寒い雪の晩のことだった。僕は仕事帰りに、慣れ親しんだ商店街を歩いていた。人気こそないが、街灯と雪明かりがあるのでけっこう明るい。そう、どうせなら明るい道を通って帰りたいものだ。足を滑らせないように用心しつつ歩みを進める。右。左。右。左。ポケットには自販機で買った“あったか〜い”缶コーヒー。もう少しだけ家に近づいたらこれを飲もう。

 そんなことを考えながら歩いていると、雪道に女の子が立ってい

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