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受胎告知あるいは自我の訃報
ある日私は、私自身の訃報を聴いた。しかしそれは、同時に私自身の産声でもあった。
私は私を受精し私自身を妊娠する。私は私の胎児、私は私の母親、私は私を産み落とし生まれ直す。
天使のお告げはいらない。
アダムもいらない。
私は私の創造主、私は私の聖典、私による私の堕天、私は私を磔にして三日後に私の復活祭をする。
私は私を信仰し、懺悔し、私を密告する。
そして世界は、私ひとりぽっちになった。
七つの大罪自由律俳句「暴食」
箸を運ぶ指と吐かせる指はどうして同じ指なのか
肥大する胃と比例して膨らむ虚無感
高級品も希少部位も満足させることのない飢餓感
吐いたらゼロ吐いたらリセット言うだけで通り過ぎる呪文
栄養が欲しい熱量が欲しいそれでも心は満腹にならない
七つの大罪自由律俳句「憤怒」
世界中の薔薇を全部むしってもおさまらぬ怒り
傷つくし傷つけるからと飲み込む怒鳴り声
石を投げて当たった鏡の破片で顔を切った
やけ酒したこの身に火をつけたら巴里よりも燃えるだろう
右脳は罵声を叫び続け左脳がそれをなだめている
小説「街売りの少女」
寒い雪の晩のことだった。僕は仕事帰りに、慣れ親しんだ商店街を歩いていた。人気こそないが、街灯と雪明かりがあるのでけっこう明るい。そう、どうせなら明るい道を通って帰りたいものだ。足を滑らせないように用心しつつ歩みを進める。右。左。右。左。ポケットには自販機で買った“あったか〜い”缶コーヒー。もう少しだけ家に近づいたらこれを飲もう。
そんなことを考えながら歩いていると、雪道に女の子が立ってい