日比野 心労

人間の尊厳を切り売りして生計を立てています。 こちらは読書関連について主に記述して行こ…

日比野 心労

人間の尊厳を切り売りして生計を立てています。 こちらは読書関連について主に記述して行こうと思っています。たまに創作します。

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  • 海外観光客向け都道府県観光ガイド

    外国人観光客のみなさん、ニッポン観光の前にこちらのシリーズをお読みのうえ、ニッポンを楽しんで行ってください。

  • 意識やばい読書会大賞

最近の記事

海外観光客向け〈オルタナティヴ・ニッポン〉都道府県観光ガイド(第二十一回)

世界の皆さんこんにちは。私はニッポン在住の旅行ライター、日比野 心労です。 みなさん温泉はお好きでしょうか。私は大の温泉好きで、仕事の合間あいまによく温泉地へ出かけるのが趣味なのです。 温かい湯に浸かり、全てを無にして心と体の疲れを癒すひととき。ニッポンを代表する癒しの空間、温泉は全国各地に存在し、ニッポン国民、そして訪れる外国人の憩いの場として活況を呈しています。 そんなニッポンの温泉地の中でもひときわ異彩を放つ温泉地があります。球州地方の北東側沿岸部、本京都から飛行機

    • 必殺

       あるところの将軍が、当代一の弓の名手であるという傭兵の評判を聞き、西の戦で重用しようとその弓手を練兵場に呼び寄せた。噂によれば、北の戦場では百人を射殺し、東の退き場では追手の将を亡き者にし、南の城攻めでは遠く離れた物見台に立つ城主を射落としたという。将軍は、此度の西の戦で武勲を示し、己の出世栄達を狙うべく弓手を幕屋に招き入れた。  しかし軍旗の下で跪き首を垂れる男は、枯木の如き細腕に胡麻塩色の頭をした皺の目立つ貧相な男。世辞にも兵とは呼べぬその姿に、苛立ちと失望を覚えた将

      • 対話

        (#古賀コン4提出作品) 日比野心労 私:あなたは誰だったかな。ここに何の用事で来てるんですか? 息子:お父さん、こんにちは。僕はあなたの息子、タカシだよ。今日は病院に行く日だから、一緒に行こうと思って来たんだ。健康診断があるんだよ。 私:そうですか。タカシは一人で病院にも行けないのかい。心配だからお父さんについてきてほしいのかな。 息子:そうだよ、お父さん。心配だから一緒に行ってほしいんだ。病院では医者がお父さんの健康状態をチェックしてくれるから、安心してほしいん

        • せん

          (第一回『幻想と怪奇』ショート・ショートコンテスト二次選考通過作品を改稿)  盆真っ只中、砂利だらけの浜辺の早朝はそれでも暑い。山側から顔を出してきた朝日に照らされて伸びた自分の影を眺めてひと息つくと、宮田は腰を屈め、延々と広がる砂利浜から再び石を拾い始めた。  波打ち際には妻の頼子と息子の悠人。昨日、妻の実家がある糸魚川市に里帰りして1時間で田舎の退屈さに飽きた息子が、持ってくるのを忘れたゲーム機の代わりに目をつけたのが石拾いだった。「おとうさん、これやりたい」荷をほどき

        海外観光客向け〈オルタナティヴ・ニッポン〉都道府県観光ガイド(第二十一回)

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        • 海外観光客向け都道府県観光ガイド
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          ブンゲイドンジャラ2アンソロジー作品まとめ(兼反省会)

           みなさまこんにちは。冬になると文芸企画欲がむくむくと湧き上がる人間、日比野心労です。  さて、120作品が集結し盛況のうちに終幕を迎えたブンゲイドンジャラ2でしたが、みなさんお楽しみ頂けましたでしょうか。お気に入りの作品・お気に入りのアンソロジーは見つかりましたでしょうか。もしこの記事を読んで「いっけねぇ!ブンゲイドンジャラ2、まだ読んでねえや!」っていう方がおられましたら、下記のリンクから今すぐGO!して作品を漁ってみてくださいな。 ブンゲイドンジャラ2作品まとめ ん

          ブンゲイドンジャラ2アンソロジー作品まとめ(兼反省会)

          ブンゲイドンジャラ2 作品まとめ

          #ブンゲイドンジャラ2 という企画を始めました。詳細は下記リンクを参照ください。 https://note.com/sinlow/n/n6ac3a4169079 以下は、この企画にご投稿いただきました皆様の作品です。(順不同・敬称略) 当記事に記載されている皆様の作品の著作権は作者様に帰属します。許可無しの改変、転載、流用はおやめください。 1 うっかり #俳句 #楽 2 古賀裕人 #短歌 #哀 3 古賀裕人 #短歌 #怒  4 柚木ハッカ #マイクロノベル #楽

          ブンゲイドンジャラ2 作品まとめ

          ブンゲイドンジャラ2 開催

          〜ブンゲイドンジャラ2とは〜 【コンセプト】 麻雀・ドンジャラのように、好きな掌編・短文を集めてアンソロジーを作り、どのアンソロジーがいちばん面白いのかを競う、ゆるい私設文学賞企画です。以下、開催概要を記します。 ・ブンゲイドンジャラ2は、短文(マイクロノベル)・俳句・短歌・短詩の公募企画です。そして、募った作品群をもとに短文アンソロジーを作成し、どのアンソロジーがいちばん面白いかを決める私設文芸アンソロジーコンテストでもあります。 ・この企画は「書き手」という文芸作品投

          ブンゲイドンジャラ2 開催

          お前たちが大嫌いな月曜日は永遠に来ない

           ミキとのデートを終えて幸せな気分で家に帰る。彼女は俺には勿体無いくらいとびきり可愛くて優しい女の子だ。また明日、学校でね、といういつもの日曜日の別れ際の挨拶を交わして、ミキとはイオンモール前のバス停でバイバイした。何を買うでもない日曜日のイオンモールは、ぬるい時間だけを垂れ流して過ごせるから大好きだ。はしゃぐ幼稚園くらいの男の子を連れた家族なんかを見てると、ああいうのって、いいよね。ってミキは呟いたりなんかして。将来の俺たちふたりもああなるのかな。なんて言葉を漏らすのをどう

          お前たちが大嫌いな月曜日は永遠に来ない

          あおがかきたい

           (第一回NIIKEI文学賞エッセイ部門応募作)   あおがかきたい               日比野心労  僕は新潟県の西の端、糸魚川市の、かつては青海町という名の町だった所で暮らしている。父は町の陶芸家で、僕が小学生くらいのときは青磁の作品を作ることにこだわりを持っていた覚えがあり、作品作りに行き詰まると、僕と2歳下の弟を連れ立って、釣れもしない浜釣りによく連れて行ってくれた。日曜日の夕暮れ少し前、砂利浜の向こうは微かに雲がたなびく日本海で、「晩ごはんの心配はするな

          あおがかきたい

          オタ恋カップルの馴れ初めを勝手に捏造してみた

          外資系IT企業からのFIREを成功させたたかしは資産運用以外の生活に意味を見出せずにいた。金目当てで己に群がる男女の追従に飽いた彼は、自分の本当の姿を隠しオタクとしてマッチングアプリに登録する…という設定を作ってアプリ上でそれらしく振舞うニートの三十男、たかし。そしてそこで出会った女性、めぐみ。彼女は病気で失った恋人の面影を探し、マッチングアプリを徘徊する富豪の娘…という設定のアニメを模倣する虚言癖の家事手伝いを生業とする女性だった。出会ってはいけない二人が出会う。互いの嘘と

          オタ恋カップルの馴れ初めを勝手に捏造してみた

          星が降る夜なのに

           帰ってきてしまった。星が降る夜なのに。    夜の海は僕の腑から畏怖を引きずり出す。絶対に敵わない黒色の海は、思考や、想像力や、叡智なんかを軽々と圧倒する。視界の全てをそういった黒で覆ったあとで耐えきれずに空(とおぼしき方向)に目を向けると、今夜は、いや「今夜」という時間の認識が不適切なほどの夜空には視界に収まりきらないほどの星が。 「天の光はすべて星」という小説のタイトルがこれほどまでに実感できたときは無い。盲た目がはじめて見る世界のように、生まれた子が網膜に焼き付ける

          星が降る夜なのに

          ホンヤクプロパガンゴヤク2

          「ホンヤクプロパガンゴヤク2」というタイトルです。とても嫌な感じの作品を作りました。読んで気分を害したり憤慨したりしていただければ本望です。 以下本文  私は現在世界で進行している全ての戦争に反対する。戦争は愚かな行為であり、戦争は何も生み出さない。戦争は解決にならず、戦争は正義ではない。  兵士よ銃を置け。君たちが手に取るのはいま君たちが殺そうとしている人間の手だ。  戦争をやめろ。  訳1  I oppose all wars going on in the wo

          ホンヤクプロパガンゴヤク2

          中学年期の終わり

           中学年期の終わり  日比野心労  四月一日。ワシントンD.C.ポトマック河畔の桜並木の側に設営された特別会場に、俺たちは集められた。この四月からハイスクール……じゃなかった「高校」に入学するアメリカ初めての学生ということで、これからここで「入学式」ってものが始まるらしい。俺たちは学校から支給された、長ったるい布だらけの制服に身を包み、一糸乱れぬ整列隊形で式の開始をじっと待っている。 「なあ、この『モンツキハカマ』って服、どうしてこう動きづらいんだろうな」  俺は列の目の前

          中学年期の終わり

          赤い明星

           ざっ、ざっざ、ざざっと、規則的だったはずの地面を踏み締める音が次第に乱れていくのが分かる。人間の娘には無理もない。三日三晩、月が明るくとも荒野を歩くのは、うら若き乙女の細い足では限界だろう。俺は乾き切った唇をざらりと舐めると、娘の青白く照らされた顔に振り向いた。「疲れたか。お前さえ良ければもうここで終いにすることも出来るのだぞ」  娘は弱々しく微笑んで首を横に振ると、放逐されたときのままの衣服をぱたぱたと叩いて、まとわりついた砂埃を払った。もう良いと言うのに。俺だけが、陽の

          桶屋が儲かるファイナル

          〜承前〜  「で、これが新作ってわけなのね、心労くん」  編集の佐々木さんは今日も綺麗だ。ぼくの提出した原稿をトントンとまとめる細くて白い指。眼鏡の奥の切れ長の目に長いまつ毛、艶やかな髪はサラサラとしていて、思わずコンディショナーなに使ってるんですかと聞きたくなってしまう。ああ、佐々木さん。ぼくの女神、ぼくの憧れ、ぼくにとっての鬼軍曹…… 「ちょっと聞いてるの心労くん。これで担当するのも最後なんだからって、『ぼくの全てを注ぎ込んだ新作、読んでください!』って呼び出したのは貴

          桶屋が儲かるファイナル

          風が吹けば桶屋が儲かる小説

           風が吹く。  風が吹くと桶屋が儲かると思ってるんですか。あんな話、ありゃしませんからね。台風35号の近づく街の店先でインタビューに答える桶屋は、軒先に山と積まれた桶を店の中に仕舞い込む作業に追われていた。今年は台風の異常発生する年だ。7月初頭から連日来やがる暴風と豪雨で、1日と空けずにまともな商売ができた日はありませんよ。桶屋はせっせと桶を運ぶ。テレビ局の中継班は、もう少し見映えのいい商売を取材するべきだったかな、と少し残念そうな表情を浮かべる。  風が吹く。  あっ、いっ

          風が吹けば桶屋が儲かる小説