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イズミ・殺伐篇

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光の戦士ソフィアのリテイナー、青葉イズミ。呪われし彼女は孤独な戦いの中にあった。
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イズミ・アオバ戦果記録帳

プロフィールアオバのイズミ(青葉 泉) 二つ名:燐光のイズミ 21歳 157cm 侍 アウラ・レン ひんがしの国 玖ノ国アキハラ村出身(捏造地名) 「私の探し物?悪いけど、貴女であっても教えられないんだ。」 「おあいにくさま。私にとって刀はただの道具なの。」 「…私がケリをつけなきゃ、ダメなんだよ」 「しつこい!今そういう気分じゃないの。……じゃあ一杯だけね。」 —— とあるレリックを求めエオルゼアへやってきた古物蒐集家。英雄「白妙のソフィア

七夕の冒険

「タナバタ?」 「そう、ひんがしの国のお祭り」 私は市場の植木屋で買った大きな鉢を床に置いた。立派な竹に青々と笹が茂っている。今回の「掘り出し物」だ。 「処暑から数えて…あぁこっちは暦が違うね。えぇと」 私は懐から暦の対応表をパラパラとめくった。 「星4月14日、それが今年の七夕の日」 「少し先ですね。どういうお祭りなんです?」 「織姫と彦星…えぇと、アルタイルとヴェガか。夏の夜空に、ミルキーウェイを挟んで光る星があるでしょう?」 ふむふむと頷くソフィアを尻目

恋と英雄

昼間の灼熱がまだそこにあるような生ぬるい風が安宿の部屋に流れ込む。窓際のテーブルセットから立ち登る紫煙。タバコを咥えて座っているのは紫髪のアウラ・レンの女だ。下着姿の彼女…イズミは吹き込むゆるやかな風に吹かれながら、アウラ族特有の側頭部のツノに、丹念にクリームを塗り込んでいる。ツノの手入れだ。 手入れをしながら、イズミは室内に目をやる。立て掛けられた愛刀。乱暴に脱ぎ散らかされた2人分の衣類。ベッドでこちらに背を向けて高いびきで眠る大柄なアウラ族の男。イズミは視線を窓の外の星

融雪の雨に(Savage)

「な、なにをする! 貴様、約束が違うぞ!! 」 ヤツルギのユキは己を縛り上げる灰犬一家船員に抵抗する。 「宝を渡せば、人質は解放すると…!!うあッ!」 「お姫様ってのは、世間知らずなもんよねぇ! 」 抵抗虚しく縛り上げられたユキを大柄な影が見下ろす。ハルブレイカー・アイルの陽射しを遮るように、灰犬一家頭領ロザリンデがユキを侮蔑的に見下ろしていた。 「いい? 女ってのは嘘が武器なの…覚えておきなさい。」 地に伏したユキの白いツノを撫でながら、ロザリンデは勝ち誇る。こ

英雄の帰省

「それじゃ、お父様、お母様、行ってきます」 「おう、気を付けてな」 黒衣森に程近い東ザナラーンの片田舎、更にその奥まった森の中に、英雄ソフィアの生家がある。朝日が差し込む戸外で、両親はソフィアとその友人を見送っていた。 カルテノー平原の戦いの後、シャーレアンへの旅立ちを前に、ソフィアは親友リリアを伴って久方ぶりの帰省をしていた。その安らぎの時間も終わりが近づいている。 「無理はだめよ、ソフィア」 「だいじょーぶ。今度は私も一緒ですから」 胸を張って応えるリリア。そ

新生祭の夜に

「大丈夫だ。何も心配ない」 お父様が頭を撫でてくれたその時、閃光があたりを包み、続いて遠雷のような爆発音が轟いた。わたしの部屋の窓がガタガタと震えた。 落ちゆくダラガブがあるべき空が燃えていた。落着予想地点のカルテノー平原から遥か彼方のこの山村からでも、何か尋常ではない事が起こっているのだとわかった。恐怖に竦むわたしをぐいと抱え上げたお父様は、そのまま部屋を飛び出し、地下室へ駆けた。 お母様はすでに地下室の戸口に居た。大丈夫、私たちがついている。お父様とお母様がそう声を

秋分の研鑽

ザナラーンの夏と故郷ひんがしの夏、どちらが過酷かはなんともいえない。こちらは湿度に苦しめられる事はそれほど無いが、代わりに灼熱波などと渾名される殺人的な陽射しが肌を焼く。それでも星5月ともなれば、暑さも和らぎ秋の気配が漂っていた。ツノが感じる風の雰囲気も涼しげだ。このままの気候であってくれという淡い願いを抱きつつ、私はいつもの如く雇い主の家に向かう。 リテイナーベンチャーの目録はいつも通り。皮素材に獣肉、植物系魔物の蔓、そして「イズミさんにおまかせ」の欄。「おまかせ」は私が

白亜城の死闘

力の失せた持ち主の手から滑り落ちた刀は石畳にぶつかって乾いた音を立てた。刀の持ち主である紫髪のアウラ族…イズミは呻き声すら上げる間も無くその場に崩れ落ちる。緑髪のララフェル族…スズケンは彼女の名を呼び、助け起こそうと駆け寄る。 だがそれを阻むように、恐るべき速度の拳足が殺到してくる。スズケンは己の身長よりも長い槍を器用に操り、猛攻をかろうじて捌いたのち、襲撃者の蹴りを足の裏で受けながら後方へ跳躍。ようやく相対する相手をしっかりと見据えることができた。 襲撃者はヒューラン族

燐光の悪夢

振り下ろされる鉈の先から目を逸らす。逸らしたところで肉と骨を断つ音は耳に届く。切り刻まれているであろう信者は叫び声すらあげない。どこまでキメてんだこいつらは。イカれてる。そして俺たちもこれから人身御供として捧げられるのだ。隣で震え続ける仲間どもを見る。名前はなんだったか。冒険者ギルドの斡旋で組んだやつの名前などろくに覚えていない。覚えたところでこれから死ぬ。無意味だ。 恐る恐る祭壇に目をやる。大理石の生贄台の上に散らばる肉片は無視した。黒衣森の深い深い闇の果て。篝火が何十人

光の射す方へ

アキハラはいわゆる宿場町で、人の往来は結構あるの。田舎だけど、街道沿いは旅籠屋…宿屋だね、それが軒を連ねてて、結構にぎやかなんだ。あそこに見える立派な宿は本陣っていって、大名…地方の豪族だけが泊まれる宿。大名は毎年ブキョウの都に行かなきゃいけない決まりだから、大勢引き連れて旅に出るの。そんな人達を下々の者と同じ屋根の下に居させるわけに行かないから、宿場町にはああいうやたら立派な宿が必ずあるわけ。なんだかんだで町の中心なんだ。中に入った事、実はあるんだ。すごい立派だったよ。落ち

ただ君を待つ

◆◆◆ 仲間と冒険に出掛けようとするその瞬間、ソフィアは目覚めた。鳥猿の時計、積まれた本、壁のポスター。フリーカンパニーハウスの自室で朝を迎えていた。鮮明な夢だった。あれはどこの街だろう。どこかで見たような、どこでも無いような街。アルバートとその仲間たちに似た冒険者たち。銀泪湖上空戦。飛び立つ蛮神。荒唐無稽な夢だと切り捨てるには示唆するものが多すぎる。 ベッドから降り、伸びをしながらカーテンを開ける。これが超える力の見せた幻視なら対象は誰?見えたものはいつの時代?考えたと

終末に抗いし者たち

ガォォォォォォン!血の如く染まった空を終末の獣が覆い尽くすサベネア島。鉄のモーターサイクル<SDSフェンリル>が爆音を上げて大地を疾走する。そしてその後ろを終末の獣たちがフェンリルを超える速度で迫ってきていた。 悍ましい容姿の獣がフェンリルにその爪を振るうが、その車体はぎりぎりで攻撃を回避する。ハンドルを握る浅黒い肌の青年は驚きの声を上げた。然り。オートパイロット機能だ。そして攻撃を逸した獣は離脱を許されず鋭い斬撃を受け、霧散した。 後部座席に見事なバランス感覚で直立する

綺羅星に手を伸ばせ

「そうだ、テオドアさんの事なんですけど」 思いもよらない言葉が角に響き、私は焼菓子に伸ばした指を止めた。視線を対面に座る少女に向け直す。私の雇い主である少女—ソフィアはティーカップ片手に柔和に微笑んでいた。 「…急ですね」 「約束したじゃないですかイズミさん。ちゃんと答えるって」 「そうでしたね」 私は改めて焼菓子をつまみ、ひと口かじる。ふわりとした食感と上品な甘さが広がる。美味しい。 テオドア。常に明るく前向きな海の男。たまに帰ってきたと思えばソフィアに言い寄り

TO BRESS A HAPPY CHILD

突如着弾した火炎魔法が妖異の身体を爆炎で包み込んだ。名状し難い苦悶の声が闇夜の黒衣森に響き渡る。相対していた妖異狩りの女―――イズミは防御を解き状況判断する。焼け焦げ崩れ落ちた妖異の背後、魔法の残滓が煌めく木々の間に、長い髪の女が立っているのが見えた。 「そこの貴方!危なかったわねぇ。うふふ…もう大丈夫よ」 木の根を避けながら、まるでステップを踏むように女はイズミに近付いてくる。月の輝きが女を照らす。その切り揃えられた前髪と酷薄な笑みにイズミは覚えがあった。あの日もこんな