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レンブラントの光の謎、杉本博司氏の江之浦測候所:常識を超えることで続く価値

岩波書店のPR誌「図書」の表紙には、杉本博司さんが撮影した蝋人形の写真が飾られています。3月号では、オランダの巨匠レンブラントが登場します。その写真は、まるで生きているかのようにリアルで見る者を引き込みます。本記事では、レンブラントと杉本さんの作品から、常識を超えることで生まれる価値について考えます。

杉本博司「レンブラントの光を意識した」

杉本さんは、「図書」の中で、レンブラントについて次のように語っています。

レンブラントは「光と影の魔術師」と呼ばれてきた。たしかに暗闇を背景にして、その対象となる人物像をありありと浮かび上がらせる技法は魔術に近いものがある。私はこの「図書」表紙で紹介してきた蝋人形撮影において、このレンブラントの光を常に意識しながら撮影に臨んできた。レンブラントの絵は不思議だ。薄暗い部屋に人物が佇むのだが、一体その光がどこから来るのか皆目検討がつかない。

杉本博司「レンブラント」図書 2023年3月

杉本さんが感じたレンブラントの不思議さを、尾崎彰宏著『ゴッホが挑んだ「魂の描き方」』から探ってみましょう。


レンブラントの芸術に迫る その独創性と表現手法

オランダ黄金期の最大の巨匠と言われるレンブラントは、1606年にオランダで生まれました。歴史画家ヤーコプ・ファン・スヴァーネンブルフやピーテル・ラストマンに師事し、絵画の基礎や明暗の技法を学びました。レンブラントは、イタリア・ルネサンスの影響を受けたルーベンスとは異なり、現代性と独創性を重視した画家でした。

レンブラントは写実的な表現にこだわらず、内面世界を描くことを目指しました。そのため、絵の中のごく一部のみを精緻に描き、その周囲をぼかす手法を用いました。これによって、見えない内面を描くことができ、鑑賞者に強い印象を与えました。

また、レンブラントは、明暗のコントラストを効果的に使い、ドラマティックな表現をすることでも知られています。この技法によって、絵画に深みや迫力が生まれ、鑑賞者の心を掴みます。レンブラントは、自画像や宗教画、神話画など多くの作品を残しましたが、その中でも代表作とされる「夜警」は、レンブラントの光と影の魔術を見ることができる傑作です。

レンブラント「夜警」


常識にとらわれず、新たな価値を創り出すアーティスト

レンブラントは、美術市場のコレクターのニーズに応えるためにではなく、自らの興味によって新しい価値を創り出すことを重視していました。自らの芸術のためであれば、いかなる犠牲もいとわない覚悟をもっていたといいます。その姿勢はまさに、アート思考を駆使したアーティストといえます。

1640年代以降、経済的にも政治的にも成熟してきたオランダでは、優美で洗練された芸術が人気になっていました。レンブラントは、周囲の常識にとらわれず、自分のスタイルである深い明暗対比を追求し続けました。ここで常識に流されなかったことで、400年近くたった今も、レンブラントの作品は、多くの人に愛されているのです。この姿勢が杉本さんの心をも捉えたに違いありません。


AIという常識を人類は超えることができるか

小田原に、海岸を望む1万1500坪の斜面にある「江之浦測候所」。ここには、夏至光遥拝100メートルギャラリー、石舞台、光学硝子舞台、茶室「雨聴天」、明月門、待合棟など、様々な時代の建築作品が設置され、古代から近代までの貴重な考古遺産が展示されています。

江之浦測候所

この場所を構想した杉本さんは、「5000年後、今の文明は滅んでいるかもしれないけれど、そのときに遺跡としていかに美しく残るか」というビジョンを持ち、未来の遺跡を創造しています。その発想は常識を超えており、人々を魅了しています。

今後、AIがますます普及し、何を行うにもAIを使うことが常識になる時代が訪れることでしょう。しかし、江之浦測候所のように、人類が手掛けた創造物こそが、5000年後にも価値を持ち続けるでしょう。AIが得意とする分野はAIに任せつつ、人間は常識を超えた新しいコンセプトを打ち出すことを忘れず、未来を切り拓く存在であり続けたいものです。



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