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●小さな物語(短編小説)を創りたい。 ●一番好きな物語は『フランダースの犬』(ウィーダ…

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●小さな物語(短編小説)を創りたい。 ●一番好きな物語は『フランダースの犬』(ウィーダ)、映画は『自転車泥棒』(ヴィットリオ・デ・シーカ)、歌は『栄冠は君に輝く』(古関裕而)

最近の記事

短編小説『実録ウサギとカメの競争』

1森の喫茶店で、二人の若いウサギが暇そうにコーヒーを飲みながら話をしている。髪に剃り込みを入れて革ジャンを着ているところを見ると、この辺りの不良らしい。 「カメオの奴すごいじゃねえか!のろまで、冴えない奴なのにあのウサジロウに勝つとは大したもんだ」 「そうだな、ウサジロウの野郎は格好つけやがって、途中で寝てたって話だぜ、余裕こきやがってあの野郎」 「何だよ、お前ウサジロウに恨みでもあんのか?」 「そうじゃねえけどよ、あの野郎いつも人を馬鹿にして、お高くとまっているから

    • 短編小説『驚くべきSDGsなレストラン』

      1「はい、本日私は、日本で唯一と言われる、世界的にも最先端と評判のレストランにやって来ました」 シックな茶色い壁面の建物の玄関をバックに、ワイドショーの女性レポーターがスタジオの司会者の男性に呼びかける。 「最先端って、何が最先端なんですか?何が日本で唯一なんですか?」 司会者は台本通りの質問をする。 「はい、それはこれからのお楽しみです」 「えー?教えてー」 スタジオにいる若い女性タレントが残念そうな声を発する。その声にスタジオで笑いが起こる。 その盛り上がり

      • 短編小説『黒い赤ん坊』

        1この辺りの通りから見える遥かな空が、真っ赤に焼けているのは夕刻のためでしょうか。魂を抜かれたような顔をした人々ばかりが通り過ぎていくのは、今の世の習わしなのでしょうか。 ふと、道の端の方から赤ん坊の泣き声が聞こえてまいります。よく見ると、二人の泣きわめく乳飲み子が、道の端に捨てられています。どちらも仰向けになって、母親を求めて泣き続けています。 通り過ぎる人々は、捨てられた赤ん坊など見慣れているのでしょうか、赤ん坊がいくら泣いても、ありふれた日常の風景のように気にかけ

        • 短編小説『誓(ちかい)の血』

          1敗戦を告げる玉音放送があった昭和二十年八月十五日の夜、陸軍少尉藤田省吾は切腹した。 床の間を背にして座ったまま、前のめりに倒れた省吾の下腹から血が流れ落ちて畳に広がっていく。水平一文字に切られた腹から生暖かい血が溢れ出ている。 省吾は荒い息をしながら、横に正座して見守る妻の百合子を見上げた。 「百合子、先に行って待ってる・・・幸せだったぞ・・・」 省吾は最後の力を振り絞ると、刺さったままの小刀を更に上に切り裂いたた。 「うおー」 省吾は暫く言葉にならない声を叫ん

        短編小説『実録ウサギとカメの競争』

          短編小説『虹色の神様』

          1中村聖一は、幼いころから離れの土蔵に押し込められて暮らした。 聖一の家は昔からの富農で、土地の名士である父親は県議会の議長を何期も勤めていた。母親は病弱で床に伏せていることが多く、細かいことまで全てを取り仕切る夫に逆らえなかった。 誠一には三才違いの二郎という弟がいた。父親は聖一の分の愛情の一切を二郎に向けた。母親は、二郎が健やかに育つのを喜びながらも、聖一の不憫に涙を流した。 聖一が土蔵に隠されたのは、まだ六歳の誕生日を迎える前のことだった。 二才になっても聖一は

          短編小説『虹色の神様』

          短編小説『死体リサイクル計画』

          2054年、自給率0%西暦2054年、日本は滅亡の危機に瀕(ひん)していた。 2020年代から、自国優先政策をとり始めた世界は、他国との安全保障よりも国内問題に追われていた。自由主義陣営のアメリカも欧州連合(ユーロ)も、台頭してきた右翼勢力に政権を奪われようとしていた。共産主義陣営のロシアと中国も、国内の反政府勢力との内戦に苦しんでいた。経済力の衰えた日本は世界から見放され、食料の自給率は0%に陥り、救いの手を差し伸べる国はなかった。 2020年代末期の日本は、世襲でしか

          短編小説『死体リサイクル計画』

          短編小説『開かないカプセル』

          転校生Aの告白もう直ぐ、誠一は結婚する。 その日が近づくにつれ、誠一の中である不安が大きくなった。ある疑心が消えなかった。 誠一の結婚相手は、小学校の時の同級生。誠一が初めて女の子を愛しいと思った人だ。その女性の名前は幸子。 目鼻立ちの整った幸子は、入学したばかりの時に、上級生が教室まで見に来るほどの美少女だった。 誠一にとって幸子は、初めて見た時から意識する存在だった。誠一だけでなく、他の男子の注目を集めていた。幸子の方は、特定の男子に興味を持つ様子はなかった。誠一

          短編小説『開かないカプセル』

          短編小説『会話のない家族』

          無口な家族僕の家族は変わっていると、友達からよく言われる。 「君の家に遊びに行った時に思ったんだけど、君の家族ってみんな無口だよね。家族の間では話をするんだろ?」 「いや、話さないよ」 僕は当然のことだから、そう答えた。 「全然話さないの?家族なのに?」 友達は不思議そうに、興奮している。こんなことに。 「話さないよ」 僕は友達が不思議がる方が不思議だった。 「全く口を効かないの?家族全員が?」 友達は益々興奮している。人の家のことに、そんなに興味があるのか

          短編小説『会話のない家族』

          短編小説『沈まない死体』

          山奥の沼死体が中々沈んでくれない。 もう、何日になるだろう?いつになったら沈んでくれるのか? 私は今、山の中の小さな沼のほとりにいる。あの死体が沈むのを待っている。 投げ込んだ死体は、直ぐに沈んでくれると思っていた。だから、こんな山奥の沼まで運んで来たのに。全く思い通りにならない。 死体を捨てたのは夜中だったから、投げ入れて直ぐに逃げ帰った。不安だったが、一週間ばかり様子をみた。ニュースになるか心配だった。幸いニュースにはならなかった。 それからまた暫く様子をみた。

          短編小説『沈まない死体』

          短編小説『売れない石』

          石を売る茶屋これはまだ、武士の世の時代のことでございます。 「奥羽」、「みちのく」と呼ばれていた、今の東北地方であったお話です。 国境(くにざかい)の峠の茶屋を営みながら、石を売る家族がおりました。五十がらみの夫婦に、二十半ばの息子の三人家族でございます。 茶屋はともかく、石など売り物になるのかと思われるかもしれませんが、これがどうしたことか当時の都では、集めた石をあれこれ批評し合う遊びが、貴族の間で流行っておりました。 裕福な収集家の間では、都のありふれた石では満足

          短編小説『売れない石』

          短編小説『地獄ラジオ』

          捨てられていたラジオ現在無職の私の楽しみは、深夜に近所を徘徊すること。唯一の楽しみになっている。 いい年をした男が、一日中アパートの部屋にくすぶっているのは世間体が悪い。だから昼間は物音を立てないようにしているが、息がつまる。 ある春の初めの夜、私はぶらりとアパートを出た。いつものように、猫一匹見かけない住宅街を散策する。たまたま通りかかったゴミ置き場で、私は捨てられていたラジオに足が止まった。 ずいぶん古い型の卓上ラジオだった。まだこんなものを持っていた人がいるのかと

          短編小説『地獄ラジオ』

          短編小説『究極の無駄』

          ある哲学者の誕生報われなかった過去を恨む、一人の男がいた。 母子家庭で育った彼は、一人息子のために働き詰め、最後は病気で死んでいった母親の恨みを果たすことに囚われていた。 大学だけでなく、哲学科の講師になるまで育てることができて、あの世で母親はきっと満足しているに違いないと、普通は思うものだがこの男は違った。 この男は、母親が何の楽しみもなく、苦労だけして死んでいったと思っている。本当のところ、母親の恨みと思い込んでいるのは、自分自身の他人への嫉妬であった。 「もし母

          短編小説『究極の無駄』

          短編小説『人形との約束』

          ままごと遊び東向きの病室の窓から見える朝の空は、今日も青く晴れ渡っています。もうすぐ木蓮の枝の蕾が膨らみ始める頃でしょう。 私はベッドの上で死を待ちながら、一日空を見上げています。六人部屋の患者の咳や、看護師の歩く靴の音。私の周りの音が、まだ生きていることを教えてくれるようで、心地良く感じます。 もう十分老いた私の身体は、ロウソクが消えるのを待つように、最後の命の燃え尽きるのを待っています。 痩せて小さくなってしまった身体には、点滴や吸入器がつながっています。延命のため

          短編小説『人形との約束』

          短編小説『教団X潜入捜査報告』

          公安第七課長殿 以下、教団Xに対する潜入捜査記録をご報告申し上げます。 教団Xへの潜入四月十日 本年三月末より、Q大学法学部新入生として潜入していたところ、本日法学部キャンパスにおいて、教団Xの学生勧誘担当者と思しき学生風の男A(推定二十代前半)より、『ふれあいの集い』と称するイベントへの誘いを受ける。 Aの説明によれば、地方から都会に出てきたばかりで知り合いの居ない新入生が、早く大学の生活になれるように、先輩学生が準備した楽しいイベントを通じて、新入生、在校生の男女

          短編小説『教団X潜入捜査報告』

          短編小説『年寄りが消える村』

          年寄りが消えるこれは、私が小さい頃にお祖父さんから聞いた話です。お祖父さんがまだ所帯を持つ前の若い頃、九州の田舎を一人で旅していた時に出会った村の話です。 その村は山奥にある三十軒ほどの集落でした。他所者(よそもの)のお祖父さんにも、お茶を出してくれたり、とても親切にしてくれました。お祖父さんは、気さくで明るい村の人たちや、美味しい水や空気だけでなく、時間がゆったり流れる村の雰囲気が気に入りました。お祖父さんはその村の農家の納屋の二階を借りて、しばらく滞在することにしました

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          短編小説『反抗養成学校』

          『反抗養成学校』創設一般には知られていないが、政権幹部の子弟だけを対象にした『反抗養成学校』がある。 この学校は、公的にも秘密にされている。その理由はいくつかある。一番大きな理由は、存在自体が政権にとっての恥だからである。 我が国の政府は、もう長い間に独裁化し、未来永劫に渡って政権を奪われる心配はなくなった。世代交代が政権内部でのみ行われ、政権幹部の世襲という形で繰り返されてきた。 しかし、世襲に支えられた独裁は、あまりに長く続いたために、権力を維持しようとする闘争心の

          短編小説『反抗養成学校』