縷々(るる)

新しい出発です。エッセイや物語の世界に日頃の想いを託して、縷々綴っていきたいと思います…

縷々(るる)

新しい出発です。エッセイや物語の世界に日頃の想いを託して、縷々綴っていきたいと思います。 改めて、どうぞ宜しくお願いします。

最近の記事

愛と涙と星のきらめき 3

 指導室での梨花の武勇は二人だけの秘密にしたままだったが,彼女はその正義感と牽引力で早くも女性徒の中心的存在になっていた。  新しい友人関係を築くべく探り合いの中、私は誰よりもいち早く、最高の友を得たと言えるかもしれない。  一方で気になることもあった。  梨花は私的な会話を投げかけてくる男生徒に対して、悪い陰謀を企んでいる者を見る様な目つきでニコリともせず、言葉も返さず、じっと硬い表情を向ける事があった。  褐色の瞳の中でメラメラと炎が燃え上がる様な気配に、軟派の男生徒

    • 「大地」と著者パールバックを語る 其の1

       パールバックは1938年ノーベル文学賞を受賞したアメリカ初の女性作家です。  その受賞作「大地」の舞台となった時代の中国は、古い時代から近代へと移行する過渡期にありました。  改革と銘打った「大小の革命軍」による抗争が続く一方、生活の立ち行かない貧しい農民を取り込んだ無法集団「匪賊」がはびこり、各地で殺戮と略奪が繰り返されるという長い恐怖の時期が続きました。  戦乱の続く不安定な状況下にあった農民は、一方で時を選ばず発生する干ばつや水害に心を痛め、引き続き起こる過酷な飢饉

      • 愛と涙と星のきらめき 2

         お互いの名前も顔も覚束ない入学早々の時期だった。  梨花と私はそろって生活指導室に呼び出された。  私はパーマのような縮毛で…梨花は脱色した様な褐色の毛色で。  パーマを当てているのではないか、脱色しているのではないか——指導教諭は胸元に腕を組み、高圧的な物言いで椅子にふんぞり返った。 「先生私のこの眼、よ〜く見てください」  梨花は教諭の眼前に顔を突き出した。 「虹彩の色、薄いアーバン色でしょう?——メラニン色素のなせる技、この髪も同じです。メラニンの濃淡で髪毛の色

        • 春色に 行きつ戻りつ 薄氷(うすらい)の華

           すっかりご無沙汰してしまいました。  一月初めの頃より体調を崩しずっと微熱と酷い倦怠感が続いていましたが、ここに来て漸く体調が戻って来たようです。  インフルエンザか、未だに猛威を振るっているコロナか不明ですが,ワクチンを打っていない私一人が長引いたことを思えば後者のだったかも知れません。いずれ抗体検査を受けようかと思っています。  味覚障害がひどく、体調が戻っても多分料理が叶いません。  もし、プロの料理人の方が味覚障害を起こしたら如何されるのかと、心配するほど旨みが抜

        愛と涙と星のきらめき 3

          物語り 愛と涙と星のきらめき 1

           両手で抱えたひざ頭に顔を埋めて,少女は上り框にうずくまっていた。  明かりとりのガラスを漉して午後の眩い日差しが玄関のたたきに降り注いでいる。にも関わらずむき出しの細い手足は,近づく冬をただじっと待っているような冷たい硬さを感じさせた。 「ただいま、加奈ちゃん」  梨花は膝頭に頭をもたげたままの少女に声をかける。徐ろに面を上げた額の上に,白い光が流れると少女は眩しそうに瞬きながら瞳を上げた。 「美波,妹の加奈よ。さあ,ともかく…どうぞ上がって」  私は首を横にかしげて加

          物語り 愛と涙と星のきらめき 1

            初投稿記念日

          o 1月3日,ノート編集部より入会3周年記念の通知を頂きました。  3周年と言いましても,諸事情によって休眠状態数知れず,それでもお付き合いいただいているクリエイターの皆様には感謝しかありません。今に至っては記事の向こうの人柄が窺い知れる程になりました。  そして今日,1月12日は初投稿記念日です。自己実現の場を支えて下さっているノートスタッフの皆様に,心よりお礼申し上げます。  今,交流いただいているすべての皆様,今後ともどうぞ宜しくお願いします。 初春の海辺にて

            初投稿記念日

          小話 ピンクレディと ブルーマルゲリータ

           書きかけの原稿をカバンに詰め込んで、慌ただしく故郷に向かう年の瀬——毎年のことながら今日はこのメガロポリス脱出の特別な日だ。仕事じまいの挨拶を終えると社屋を後に足早に雑踏を抜け、並木通りに面した重厚なドアの前に佇む。  カウンターバー「クライスラー」  この店の心地よい酩酊に誘われて、週末は必ず定時で仕事を切り上げ一人立ち寄るのが習慣になっていた。  ところが帰省直前の今、何故か急に思い立って、クライスラーの分厚いドアの取手を引いた。 「お好きなお席にどうぞ」  それは

          小話 ピンクレディと ブルーマルゲリータ

            白い花のエレジー

             かぼそい雨に濡れそぼち  ながい微睡みの牙城から    初子同然 君は出てきた     柔らかく白い肌をはにかみながら……        その純白の花房が なよ風に打ち震える時    緑葉の微細な気孔ひとつひとつから 迸りでる無垢の息づかい    雨季の庭に 楚々として君臨する白い花の精 ——アナベル    雨上がりの午後 せめてその美しさにあやかりたいと    花房に顔を埋めて微かな芳香に酔いしれる………       あれから季節は移ろいゆき 永遠は

            白い花のエレジー

           私の流儀 : レンダリング処理

           レンダリングとは——あるデータを処理、又は演算によって画像や映像、テキストなどを表示させる今では当たり前すぎるIT技術。身近なところではUチューブの動画やWevサイトの制作などをはじめとして様々なレンダリングがあるそうで、この領域に入るとアナログ人間の私などはもうお手上げ状態。ボロが出る前に話題から早々に引き上げようと思うのだが、このレンダリングという語句、IT用語と思いきや実はアメリカの食肉加工業の技術を語源とする事はあまり知られていないのでは?  食肉加工のレンダリン

           私の流儀 : レンダリング処理

          嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (米原 万里著)

           1960年、著者は共産党幹部として任地プラハに赴いた父親に伴って、在プラハソビエト学校で少女時代を過ごした。作品は後年それぞれの故国へ戻った学友の消息を訪ねた時のエッセイだと言うが、その枠に収まらない壮大無比なスケールのエッセイである。  三部作からなる作品のうち表題の「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は、ルーマニアから来た級友のアーニャとその家族に焦点を当てて、統率下の体制に与する特権階級とその構造を支える貧しい庶民の生活を浮き彫りにしている。  アーニャとの再会を果た

          嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (米原 万里著)

          パグはウィリアム三世の愛犬だった

           16世紀後半のイギリス——権力を欲しいままにしていた国王ジェームス二世が議会によって追放され、新国王としてオランダから招聘されたウィリアム三世と共に彼の地に渡った愛犬がいました。それがパグだったと言います。  当時の犬名は「ダッチドック」——まさに「オランダの犬」でした。  オランダ時代のパグはマズル(顔の長さ)が長く、足長のすっきりしたスタイルで耳は短く断耳されていたそうで、その後マスティフやブルドックと交配されて今の姿形になったと言う事です。  その後のヨーロッパでビ

          パグはウィリアム三世の愛犬だった

          『ああ砕け散る 運命の星たちよ』

           ——信州安房峠(あぼとうげ)、標高1800mから見上げた夜空。プラネタリウムの様にひしめく満点の星空に、ひと際明るい光彩を放つ青い宝石の様な数個のかたまりを見つけた。それは六連星(むつらぼし)・昴だった。                      —エッセイ 粋人と水ボタルより—  初めて肉眼で見た「昴」はどの星よりも艶やかに瑠璃色に輝き、古より文人を魅了して来た理由がその時解りました。昴とは和名で、六連星はその別称。正式にはプレアデス星団と呼ばれ、お互いの重力によって星

          『ああ砕け散る 運命の星たちよ』

          いわさきちひろの世界・戦火のなかのこどもたち

           煩雑になった納戸を整理していると、[ ちひろBOX ]と白い文字で印字された空色の表紙の本が出て来ました。  幅広の白い帯には「赤い毛糸帽の女の子」の絵——2004年に発行された、いわさきちひろ没後30年のメモリアルブックです。  娘が安曇野へ旅行の折立ち寄った「ちひろ美術館」で、私への土産に買った一冊でした。 [ちひろBOX]は一般からのリクエストによって決定した展示作品280余点に、寄せられたメッセージを添えて収録された言わば別格の一冊なのです。  手にとって

          いわさきちひろの世界・戦火のなかのこどもたち

          星野リゾート異端の経営戦略 「監獄ホテル」

           剣道の錬成大会の時だったろうか。まだ小学生だった息子に付き添って奈良にある鴻池武道場(今はロートに名称変更されている)を訪れた。  敷地内に娑羅の木があるらしいと友人に誘われ、周辺の植栽を眺めながら道場の裏手へと歩いて行った時、その建物は不意に目の前に現れた。  中央に尖塔が聳える屋根を連ねた赤煉瓦の瀟洒な西洋館が、分厚い幅で密生する植え込みと丈高いアイアンの柵の向こうにしんと静まり返って建っている。  奈良の市街地からわずかな距離にこんな建物があったなんて……と感激して

          星野リゾート異端の経営戦略 「監獄ホテル」

          スウェーデン映画「短くも美しく燃え」とモーツァルト・ピアノコンチェルトNo.21 第2楽章

           スウェーデン映画「短くも美しく燃え」は1889年スウェーデンで起きた実話をもとに映画化(1967年)され,日本公開は1968年ですからかなり古い映画です。  物語りは妻子ある陸軍中尉スパンレーと、サーカスの綱渡りの娘エルビィラの道ならぬ恋の逃避行で始まり、心中という悲しい結末を迎えますが,実話とは言え二人が残した痕跡を辿って物語の細部をイメージで描いた内容と言えるでしょう。  逃亡直後の幸せな時は過ぎ、手持ちの資金が底をつく中で脱走兵のスパンレーには働くチャンスも無く、エ

          スウェーデン映画「短くも美しく燃え」とモーツァルト・ピアノコンチェルトNo.21 第2楽章

          夢想空間

           ステンドグラスの煌めきは  いやまさりて 輝石のごとく伽藍の窓を彩り  漉される筈の入光は しばし色彩に溜まってのち  淡く優しい光となって伽藍に降り注いでいる  昨年末、ある方の記事にノートルダム大聖堂のステンドグラスの写真がアップされた。  輝くものなら身辺のもの問わず、自然の事象に至るまで大好きな私は、実際この目で見れたらどんなかと叶わぬ夢を「夢想」していた。 10数年前、身内の病気見舞いの帰途ふと思い立って立ち寄った丘の上の教会。  行事さえなければ、教会

          夢想空間