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連載小説 最後のウイルス

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連載していた小説をまとめました。最終回だけ100円です。
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記事一覧

最後のウイルス ⑩「連載小説」

最後のウイルス ⑩「連載小説」

感染10日目

一晩中優子を探しても見つからなかった。
気がついたら、幸太郎は堀川博士の研究所に向かっていた。ドローンで探せるかもしれないと思ったからだ。
もはや自転車では移動できないくらいの人がそこらじゅうに溢れている。
なんとか到着した時にはもう昼を過ぎていた。

研究所の入り口にはついたが指紋認証が必要なドアだったので、そこから大声で叫んだ。
するとロックは解除された。中に入ると博士が座って

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最後のウイルス⑨ 「連載小説」

最後のウイルス⑨ 「連載小説」

感染 9日目

朝、二人は一緒に目を覚ました。カーテン開けると綺麗な日差しが入ってきた。窓を開けると心地いい空気が部屋に入る。
「今日は綺麗に晴れてるね。」
「わかるの?」
「なんとなくわかるよ。空気の感じも違うし、晴れの日って匂いも違うの。」
優子らしいと思った。そういう彼女が好きだった。

昼頃まで一緒にいた後、幸太郎は一度実家に戻ることにした。
「夜、戻ってきたら晩御飯は俺が作るよ。」
「あ

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最後のウイルス ⑧ 「連載小説」

最後のウイルス ⑧ 「連載小説」

感染8日目 夜
幸太郎は帰り道、急いで帰るように努めた。駅前を通りすぎる途中走りながらぶつかる人間を見たからだ。(博士が言うには転ぶ瞬間に宙に浮かぶ感じがしてそれが快楽になっているらしい。)優子に悟られないようにするために一刻も早くその場を立ち去りたかった。
幸いにもぶつかった時の音は聞こえていなかったようだ。

優子の部屋には何事もなく到着した。二人で座ってお茶を飲んで一息ついた。
しばらく黙っ

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最後のウイルス ⑦ 「連載小説」

最後のウイルス ⑦ 「連載小説」

感染8日目

昨日研究所で聞いてきたことは両親には言わなかった。ただ研究用血液の提供を依頼されたとだけ話した。父と母はリビングで食事をしている。
レトルトのカレーを食べながら、二人とも味が薄く感じると言っている。味覚を失い始めていると幸太郎は思った。
本当に時間がないのを自覚するとどうしても残りの時間は優子と過ごしたいと思った。
幸太郎は両親に今日は優子の家に泊まることを告げて昼からで出かけた。

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最後のウイルス ⑥ 「連載小説」

感染7日目

幸太郎は研究所のある大学の中まで来ていた。研究所のエントランスに入るとそこには研究員と思われる男が座っていた。向こうも気配に気づいたらしく声をかけてきた。
「昨日の放送を見てこられた方ですか?」向こうは驚いた気配もない。その姿からは疲労感が見て取れる。
「はい」幸太郎は緊張していた。
すっと立ち上がり通路を奥に進んでいく、ついて来いということらしい。
通路は光で照らされてとても明るか

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最後のウイルス ⑤ 「連載小説」

最後のウイルス ⑤ 「連載小説」

感染6日目

昨日見たことは両親と優子には伝えた。話し合った結果外にはまだ出れないということになった。今後食料のことはどうするかを話し合った。いざとなれば幸太郎が繁華街まで行って調達してくるしかなかった。お金は置いてくるつもりだったが果たしてその行為が今どれだけ意味のあることなのかはわからない。水と電気は問題ない。人間の仕事なしに全て賄えるシステムになっている。
 今日はリビングに3人が揃っていた

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最後のウイルス ④ 「連載小説」

感染5日目

昨日は食事をした後、幸太郎は家に戻った。
優子のによると知り合いに電話をかける以外にとにかく外の情報が手に入らないということだったのでそれならば幸太郎が外に出て様子を見てくるという話になった。
優子の家に行く途中は誰もいなかったが、繁華街でもそうなのか見てこようと思ったので、
今日は朝早くに起きて準備をしていた。
「じゃ行ってくるよ」リビングにいる二人に声をかけた。昨日のうちに話をし

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最後のウイルス ③ 「連載小説」

感染4日目
翌朝、目が覚めたら正午前だった。すぐに優子の家に行こうとしたが、両親のことが気になりリビングのある一階に降りた。母はキッチンにいて手探りでコーヒーを淹れようとしていた。たどたどしい母の姿を見ていられなかったので、幸太郎は変わることにした。
「母さん。俺がやるよ」
話しかけた途端手元のマグカップを床に落とした。
「急に声かけないでよ。驚くじゃないの!」
目が見えない状態から急に誰かに話し

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最後のウイルス ② 「連載小説」

最後のウイルス ② 「連載小説」

「病院に行った方がいいんじゃない?」
「それが幸太郎が降りてくる前に音声認識で病院にも救急にも電話をかけてみたんだけどどこもつながらないの。それどころか親戚に電話かけてみたらどの人も母さんたちと同じ症状なのよ。」
この時になると母も苛立ちながら話すようになってきた。この二日間で起こった話を母から聞いているとかなり多くの人がこの症状になっているのかもしれないと思った。だが実際は幸太郎の想像をはるかに

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最後のウイルス ① 「連載小説」

感染1日目
2199年 12月1日 この日、全人類が未知のウイルス 「Zウイルス」に感染した。この段階では誰も感染には気づいていなかった。記録によるとこの日ほぼすべての人間に花粉症のような症状が出たそうだ。人類が涙を流した最後の日だった。

感染2日目
花粉症のような症状はひどくなるばかりだった。涙は一日中、止まらず目の不快感は増す。症状の酷い者の中には目を開けることができないというものも出てきた

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