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『荷台』(超短編小説/750字)


   初夏の陽射しは眩しかった。

   とめどなく額に垂れる汗をタオルで拭き取る。担任の先生も髪がびしょびしょになって頭皮に張り付いていた。

   中学の校外学習で大農場に来ている。早朝の薄暗い時間から、生徒10人で農作業を手伝っている。農業はこんなに腰にくるものなのかと思った。一刻も早く終わってほしかった。

「そろそろお昼にしましょう!」

   農家のおじさんが生徒たちに声をかけた。みんな作業の手を止めて嬉しそうに目を輝かせた。

「ほら、丘の上に大きなかしわの木があるのが見えますか。あの木の日陰でお昼を食べましょう。あそこから見晴らしをぜひ見てください。みなさんのお弁当を用意してあります。長い坂をのぼるので、皆さん、車の荷台に乗ってください!」

   2台の軽トラックの荷台に生徒たちが乗りこむ。たまたま、僕が思いを寄せている川本さんが隣りに座った。

   軽トラックはゆっくりと農場の坂をのぼりはじめた。平坦ではない道を走っているため、荷台の上は絶叫マシンみたいに激しく揺れる。思わぬ荷台体験のスリルに、みんな楽しそうだった。

「キャー」
「うおっ、やべー」

   揺れるたびに僕の肩と川本さんの肩が触れる。僕は胸が高鳴っていた。このぼこぼこの坂道が永遠に続けばいいのにと思った。

   軽トラックのタイヤが道の大きな窪みを通った瞬間、荷台は縦に大きく揺れた。そのはずみでバランスを崩した川本さんは僕の方に倒れ込んできて肩ごしに抱きついた。

「!」

   とてもいい匂いがした。僕は何とか平常心を保ったまま、「大丈夫?」と言った。川本さんは「てへっ」として舌をペロッと出した。史上最キュンのテヘペロを見た僕は、農業体験最高!と心の中で叫んだ。

   ふと振り返ると、背後にはパッチワークのような農場の風景が広がっていた。

(了)



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