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シン・映画日記『金の国 水の国』

ユナイテッドシネマ浦和にて岩本ナオ原作のアニメ映画『金の国 水の国』を見てきた。

アニメ制作はマッドハウス。かつては今敏監督作品や初期の細田守監督作品を手掛けてきて、近年の劇場作品なら昨年公開した『グッバイ、ドン・グリーズ!』があるが、その『グッバイ、ドン・グリーズ!』の前が2018年に公開した『若おかみは小学生!』になる。
まあ、あのスタジオジブリだって劇場での長編アニメはだいたい2年に1本ぐらいのペースだし、
細田守や新海誠、京アニとかも長編アニメとなると似たようなスパンだから、2年連続で劇場アニメを公開するというのは意外とハイペースなのかも。

それで、個人的には久しぶりに見たマッドハウス制作作品だが、
80年代のジブリのような、昨年公開したProduction I.G制作の『鹿の王 ユナと約束の旅』の世界観にも通じるアラビアの国と中世ヨーロッパ、あと隋だか唐だかの頃の中国をミックスした独特な世界観での政略結婚からの恋愛を展開したファンタジーアニメ。

金はあるけど水資源が少ないアルハミドの国の超おっとりした平和主義の王女サーラと
金はないけど水資源が豊富なバイカリの国の頭が切れるお調子者の青年ナランバヤルが一度は行き違いをしながら出会い、お互いに惹かれ合うが、仲が悪い両国の王や族長、大臣らは良からぬ策略を張り巡らす中でナランバヤルはある秘策に出る。

それぞれ真逆の物を持ち合わせるアルハミド、バイカリ。
アルハミドはパッと見た目はアラビアンナイトに出てきそうなアラブの金持ち国、現実にある国ならドバイやカタールみたいな砂漠のオアシスの水が少ない版といった感じ。
バイカリは基本的には貧乏だが、マシな建物は皇帝や王がいた時代の中国や韓国みたいな雰囲気。
それでそれぞれの国家の中枢にいる王や王女たち、大臣、族長などの性格や思惑が巡る中で、
サーラとナランバヤルが政略結婚に巻き込まれながらもサーラのほんわか力とナランバヤルの知恵で上の人たちの悪巧みを逃れて、善き方向に行こうとする物語。

アラビアンナイトや中国の故事成語のようなものをベースで感じさせ、
『ミッション:インポッシブル』シリーズのようなスリルある展開も要所で散りばめ、アクションも少しある。

が、元が少女漫画というだけあって
平和主義の王女サーラの目線が多めで、
ナランバヤルも戦闘よりも知力とお喋り、お調子者な性格をいかした動きで、非戦闘のヤサ男なので、
アクションやスリルがあるシーンがあっても全体的にかなりマイルドな作り。

その“マイルドさ”の正体、
一つは主要キャラクターのルッキズム描写。
主人公である王女サーラのルックスが下膨れ顔にぽっちゃり体型というのも、この作品の重要要素。
美女ではないが心はめちゃくちゃ清らかというサーラをヒロインにしながら、
サーラの姉は痩せ型のやや美人だけどちょっと意地悪な感じだったり、
その姉が支持する左大臣が人気俳優でもあるスーパーアイドル級のイケメンで、
その他腹黒く胡散臭い右大臣がかなり肥満気味なブ男だったり、アルハミドの王やバイカリの族長も神経質そうなジジイだったり、
『シュレック』や『エレファント・マン』のようなドギツいやつではないが、あからさまなルッキズムに溢れたビジュアルにしたことで、逆に「見た目で判断するな!」と言いたげな反ルッキズムを訴えているようにもとらえられる。

それともう一つは、
具体的には書かないが、ナランバヤルがやろうとしているアルハミドとバイカリに関する秘策はSDGsの働きかけ(中身はネタバレになるので書かないが)。

この作品の全体的なマイルドさは
単に少女漫画原作というだけでなく、
この二つの現代的なリテラシーを取り入れ、
より多くの人にとって優しい作品に仕上がっている。

感覚的には『風の谷のナウシカ』や『鹿の王 ユナと約束の旅』に近いが、
『ナウシカ』よりもマイルドで、
ストーリーがきっちり終わっているまとまり方の上手さから『鹿の王』と比べると非常にまとまりが良く感じられた。

故に、ポストジブリをも感じられ、
興行成績次第では「マッドハウス」としてはこの路線でもありな気はするが、
もし駄目なら『若おかみは小学生!』や『グッバイ、ドン・グリーズ!』のような路線に再びシフトするのか?
今回の『金の国 水の国』はクオリティーは佳作、いや少し盛れば秀作と言えなくはないので、もう1,2作はこのポストジブリ路線の作品を見てみたいし、
こと邦画においては本作のようにアラビア風、ヨーロッパ風の作品はやはり実写よりもアニメの方がいいかな、と思わせてくれる。

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