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クレーム対応で病む人たち/クレーマーを量産する人たち

突然ですが、あるコールセンターの話をします。
これと似たような事例は、どこのコールセンターでも発生していると考えます。顧客と電話対応者とのやりとりを見て、何を感じるでしょうか。

顧客Aは、美容外科の診療予約をするために電話し、対応者Bに繋がりました。

顧客Aは「明日の夕方4時に診療希望」と伝えました。
対して、対応者Bは「明日の夕方16時ですね」と伝えました。

これが、顧客Aの気分を害しました。

顧客A「あの、あなたは夕方16時って言いましたけど、4時に行きたいんですよ。その言い方だったら、間違えて6時に予約したりしないですか?あと、無駄ですよ、その言い方。せめて16時って言ってくれませんかね?」

対応者B「申し訳ありません」

顧客A「まぁ、いいんですけど。客に誤解与えかねないってことも理解してくださいね。一応予約の確認メールが来るんですよね?」

対応者B「生憎、通知は差し上げておりません。お手数おかけしますが、会員様専用サイト…」

顧客A「あのー、言い方が回りくどいです!もうちょっと簡潔に言えませんかね?こっちが手間かけてサイトにログインして見ろってこと?」

対応者B「申し訳…」

顧客A「申し訳ない申し訳ないって、さっきからテンプレ的な言葉ばっかりで嫌になるな!ええと、あなたの言い方によって、私は希望通りの時間で予約が取れてるか不安になっています。で、不安に思うんだったら会員サイト見てください。そこにかかる労力は知りません。ってことで合ってるかな?」

対応者B「…いえ、お詫びしたいところで…」

顧客A「だから、回りくどいんだって!ねぇ、16時のくだりといい、ロクな教育受けてないですよね?あなた、何卒?」

対応者B「…はい」

顧客A「ええと、今何時?答えてください」

対応者B「夕方17時、申し訳ありません、5時です」

顧客A「間違えた!ねえ、本当に学習してますか?」

対応者B「…」

顧客A「ええと、無言になるし、時間無駄だよね?今から録音しますね。どんだけ変な対応を受けているか、記録とるから、ネット上げられても恨まないでくださいね?」

その後、顧客Aによる応対クレームは30分以上続きました。
顧客Aはリモートワークの合間に電話したこと、結果、時間を浪費したこと、対応者Bの応対で強い不快感を抱いたことを主張、補償を要望され、上席との対応を希望しました。

その後、顧客Aは上席Cと対話し、以下の結果となりました。

①上席Cは、誤解を与えかねない言い方について指導することを約束した。

②上席Cは、リモートワーク中だった顧客の時間を無駄にしたことに対するお詫びとして、心ばかりのお詫びとなることを断りつつ、¥1,000のQUOカードを差し上げることを約束した。

③上席Cは、忌憚のないご意見をいただいたことを重ねてお礼し、今後も変わらず指導をいただくよう、お願いした。

上席Cは顧客Aの主張に全く共感を抱くことができなかったものの、その後に送信される顧客アンケートで低評価をいただくことを避けたかった。その結果、上記①~③を伝えた。

上席Cの思惑も知らず、これらすべてを額面通りに受け取った顧客は、その後、月に1度のペースでコールセンターに電話をかけ続け、「指導」と題したクレームを入れ続けた。


…こんにちわ。初めまして。

私は10年以上、コールセンター業界に勤めています。
最初の4年は電話対応をして、それ以降は管理者として働いています。4年前からSVです。

SVになってからは、複数のクレーム対応専任チームで働いたり、自社でコールセンターを構える会社で働いた方が色々得じゃないか?と考えて、アウトソーシングの会社から転職したりしました。日々クレーム対応やら社員の育成やらを行っています。

SVになってからの4年で多くの人と接しました。
その中には、10~20年と、難なく電話対応を続けている人もいますし、クレームが一因となって心身に不調をきたした人もいます。


実際に働いている方であれば、共感してくれるかもしれませんが、コールセンターは人間臭い職場だと思っています。

クレームに耐えられず、電話対応中に泣く、顧客と口論になるなどして、電話対応者とフォロー者で面談することも日常茶飯事なんですね。…その結果、電話対応者とフォロー者で揉めるのも日常茶飯事なんですが。

フォロー者との面談で気持ちに整理がついて、持ち直せば良いのですが、そうならない場合もあります。

例えば、以下のような場合です。こういった記憶が面談後も拭えず、数日間、断続的にフラッシュバックしたときです。

・電話対応時に顧客から受けた暴言に、強い悲しみ/怒りを感じた
・顧客から理詰めされた/人間性を否定されたことに、強い劣等感を感じた

また、以下の場合は、持ち直すのがより難しくなります。

・そもそも、面談の場を与えられなかった
・フォロー者から頭ごなしに注意され、腹落ちできるものではなかった

結果、向いていないと感じたり、フォロー者や会社に嫌悪感を抱いたりされ、退職される方もいます。

…こういった場合はまだ良いと思います。

実際に今、この状況真っ只中にいる方がいれば、無神経な言い方に映るかもしれません。申し訳ありません。

まだ良いと伝えたのは、私の経験からです。
そのまま仕事を続けて更に心理的に疲弊し、こちらも充分にフォローできず、不眠症/鬱病/適応障害になった人、再発した人を担当したからです。
退職されたものの、1年を経過しても社会復帰していない方もいます。

どのみち、そんなメンタルでは社会でやっていけないでしょう、と言われればそれまでなのですけれども、耐えろ、受け流せ、と言われればそれまでなんでしょうけれども、そういうこと簡単に言うなよ、とも思うわけです。


暴言、恫喝、人格の否定、そこらのネット記事に書かれているような、NGな言動を繰り返す顧客に対しても、十分に注意できない人/会社は存在します。社として、顧客満足度や効率を重視したい、角を立てたくないという考えもありますし、むしろ、そういった顧客から高評価を得てこそ、一流の対応者であるという風潮も感じますし、私もそういった職場に身を置いてきました。

多くのコールセンターで、KPIと呼ばれる目標値が設定されています。多くの場合、顧客満足度(CS)も含まれます。通話が終わった後、実際に顧客へアンケートが送信され、対応者は数値で評価されます。その結果しだいで、対応者/上長も昇級したりします。アウトソーシングの会社であれば、クライアントからのマージンにも影響します。

もちろん我々SVは、この数値の向上に努めるべきだと思うのですが、ここ2年で、その裏の部分を強烈に意識し始めました。

・KPI(CS)達成を重視するあまり、ときに過剰な顧客第一主義が生まれる
∟ NG顧客を称賛し、懐柔しようとする。不当な要求を受け入れる。

・その結果、俗にクレーマーと呼ばれる人を増産する/肯定する
∟ 過剰な対応を受けた顧客は、その後、なんの躊躇いもなしにNG言動、不当な要求を繰り返すようになる。

例えば、上述したコールセンターでのやりとりですが、上席対応の結果を3つ記載しました。皆さんは何を感じますでしょうか。

個人的には①は伝えて良し、②と③は過剰反応と思うのですが、いかがでしょうか。

実践経験も豊富なベテラン勢ならまだしも、新人のうちにこういった顧客の相手をした場合、対応者には相当な負荷がかかります。未熟な分、顧客から発せられる言葉を真に受けやすいです。自身が応対クレームを受けたあと「大事になったらどうしよう」と不安になった方も多いのではないでしょうか。


色々グダグダ書きましたが、手放しで電話対応者を肯定して、クレーマーと呼ばれる方々を全否定しているわけではありません。クレーマーが生まれる背景には、過剰な顧客第一主義だけでなく、我々の不手際や欠陥があることも理解しているつもりです。悪意があろうとなかろうと、顧客の心理など知ろうともせず、不快な受け答えしかできない対応者もいます。顧客の期待を裏切ることなど、1つの会社にはいくらでもあります。

あらゆる背景があるのは理解しているつもりですが、職業柄、そのうちのひとつが気になり始めたということです。顧客第一主義が日増しに過剰になってはいないか、変な方向に行ってないか、と思い始めたということです。

かつて、それを助長してしまった者として、今でも無意識に助長してしまっているかもしれない者として、何かできることはないかと考えています。

その風潮を変えるなど不可能ですが、こういった駄文を読んでくれる方に対して、自身の身を守るための武器や盾なら渡せるかもしれません。

私の経験や、何か、他のものでも、特に決まってはないんですけれども、思いつくことを日々、書き起こしていきたいと考えています。

クレームに参っている人、疲れてしまった人に響けば幸いです。


※本記事に記載した事例は、フィクションです。

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