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体験記 〜摂食障害の果てに〜

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(24)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(24)

摂食障害が崩れた日

 
 でも、いつまでも食べずにはいられません。逃げていては、摂食障害から立ち直れません。また、あの苦しみに逆戻りです。強くならねばいけません。そこで、ある日、思い切って鮭を一口、食べさせてもらいました。
 その『一口』で三十年近く続いた私の摂食障害が崩れ去りました。
(なんだ、こんな簡単なことか。)
 何故今まで食べれなかったのかわからないほどでした。『牛や豚が可哀想だから』

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(23)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(23)

 ある朝、喉の奥近くにできていた大きな傷がふさがり始め、舌の先の裂け目が閉じかけていました。
(治る!)
 躍り上がるような喜びが、期待と共にわきあがってきました。とうとう私にも、治る時がきたのです。やっと水を飲める日がくるのです。その日から、口の中の傷は急速に治っていきました。
 水を飲めるようになったら、今度は食事をしてみたくなりました。いつまでも点滴だけでは、家に帰れません。当たり前に食事で

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(22)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(22)

 あまりのショックで、頭も心も、ガンガン鳴り響いています。布団の中で、喉と口が荒れた原因を推測しました。
(やっぱり胃液が逆流して、胃酸で口の中が傷ついたからに違いない。ならば、水で、喉と口の中の胃液をすすぎ落とすしかない!)
 それは勇気がいることでした。でも、やらなくては治りません。二~三日躊躇していましたが、実行に移しました。
 看護師さんにベッドを起こしてもらって、水をコップに汲んでもらう

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(21)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(21)

 絶食しているのに、胃薬を飲む必要があるのか、いつも疑問に感じていたので、先生に尋ねてみました。それと、膵臓からくる痛みを、胃液の逆流と考えていたので、胃薬で治るのか、も聞いてみました。
 先生は、
「胃薬は、できるだけ飲んで下さい。胃薬で(痛みが)治るか、わかりません。」
 と、部屋を出て行きました。私には、納得がいかなかったのですが、飲むことにしました。
  膵臓は、消化液を作り出し、食べ物を

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(20)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(20)

 痰も、ひっきりなしに出てきて、度々喉に詰まりそうになりました。自力で出せない時には、看護師さんに器械で吸い取ってもらいました。痰を吸い取る器械は、細いチューブで、水を溜めた容器がくっついていました。その容器に吸い取った痰が落ちるのです。ベテランの看護師さんは、喉に擦れることなく、痰を素早く取ってくれるので、安心してお願いできます。でも、一年目の看護師さんだと、鼻からチューブを差し込んで喉まで通す

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(19)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(19)

 高栄養の点滴のおかげか、食事を摂らなくてもお腹は空きませんでした。ただ、食事の時間がきて、廊下が賑やかになると、なんとなく寂しいような気になりました。最初の頃は、何も食べたくはありませんでしたが、次第に(ゼリーを食べてみたいなぁ。)と思うようになりました。冷たくて、ツルーン、としたおいしいもの。……熱があったせいかもしてません。私の弟がゼリー好きで、よくブドウのゼリーを、風邪を引いた時に(元気な

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(18)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(18)

 絶食になった為、差し入れで持って来てくれていたプリンやどら焼き等、全て家族に持って帰ってもらうことになりました。せっかく頼んで買ってきてもらったポテトチップスも、「見ると食べたくなるから」と、袋に詰められかけたので、
「治ったら食べたいから、それまで置いていてほしい。」
 と、頼みました。
「いいよ。治ったら、ブドウジュースと一緒に食べようか。その時のお楽しみに残しておこうね。」
 と、看護師さ

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(17)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(17)

膵臓の悪化

 毎日、一生懸命食べていましたが、次第に食べるのが苦しくなってきました。全く消化していないような感じで、気分が悪くなってきたのです。それでも(元気にならなくちゃ。)と、頑張って食べていたら、とうとう吐き気がして、一口も入らなくなってしまいました。気持ちと体の板挟みになって、涙が出てきました。看護師さんが心配してくれて、
「どうして泣くんですか? 少し休んで食べたらいいですよ。」
 と

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(16)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(16)

 最初、家族との面談は禁止されていましたが、一般病棟に移って数日後、突然、面会が許されました。
 私は、自分の体の中がどんな状態か、全くわかっていなかったので、
(もっと良くなってからにしてくれたらいいのに。)
 と、思いました。言葉すら話せなくなってしまって、息をするのが精一杯なのに、会えば、さらに苦しくなるからです。誰にも会わず、そっとしておいてほしかったのです。
 その時は、一度だけの特別面

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(15)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(15)

 『食』のありがたさ

 家族の気持ちはありがたかったけれど、甘いものは、全く食べたくなかったので、賞味期限が過ぎて、持ち帰ってもらうばかりでした。だから、せめて食事だけは、一生懸命食べよう、と決めていました。でも、スプーンに五~六杯が限界です。それ以上はお腹に入りません。看護師さんは、私のペースに合わせ、休憩を挟みながら、食べさせてくれました。
 あまりにわずかな量なので、寝る時間にお腹が空きま

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体験記 〜摂食障害の果てに〜(14)

体験記 〜摂食障害の果てに〜(14)

面会

 家族とは会えないまま、日にちが経っていきました。入院したばかりの頃は家族に会いたかったのに、毎日があまりに苦しいので、会う勇気が失われていきました。声すら出せなくなっていたので、誰とも会わず、そっとしておいてほしかったのです。なのに、母から『電話で話したい』と、伝言が入ったのです。看護師さんから伝えられて、拒否しました。ところが、母は何度も『電話で話したい』と、伝えてきます。困ったなあ、

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体験記 〜摂食障害の果てに〜⑬

体験記 〜摂食障害の果てに〜⑬

 六人部屋の入り口近くが私の場所になりました。ベッドごとにカーテンで仕切られ、今までの個室に比べると、酷く狭く感じました。窓も遠いので外の風景も見えないし、風も届きません。でも、窓の方から明るいお日様の光が溢れ漏れてきて、パトカーや救急車の音も入って来て、人間世界の生きた音がいっぱい聞こえました。看護師さんや患者さんたちの声がそこいらじゅうに満ちて、のんびりした空気が漂っていました。
 私の一番新

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体験記 〜摂食障害の果てに〜 (12)

体験記 〜摂食障害の果てに〜 (12)

コロナが治った

 息が苦しくて、(ひょっとしたら、息を止めた方が楽かもしれない。)と、考え、息を止めてみました。でも、しばらくしたら、やっぱり苦しいような気がして、また息を再開する、という事を繰り返しました。息をしていても、次第に息が止まってしまって、無呼吸になることも度々ありました。意識して呼吸するのですが、あまりに苦しくなって、看護師さんに、
「今、呼吸数が0になりました。」
 と、伝えると

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体験記 〜摂食障害の果てに〜⑪

体験記 〜摂食障害の果てに〜⑪

体が焼かれる

 私は眠っていないつもりでしたが、奇妙な映像ばかり見ていました。体育館の二階にベッドがあって、自分はそこにいる気でいたり、集会所のようなところで、多くの人達と布団を並べて眠っていたり。妖精が来るという草原で、建物の中からその様子を見守っていたり。あるいは二階から飛び降りて骨を折ったところで、母に助けてもらったり。でも、自分では、全て本当だと信じきっていたのです。病院にいるのに。
 

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