見出し画像

なんかゾッとした「かがみの孤城」

金曜ロードショーで「かがみの孤城」を見た。
原恵一監督作品なのでほのぼのした作風を想定してたが、思ってたより重い内容だったね。
不登校、およびイジメ問題を取り扱っている。
原作者は辻村深月という人気ミステリー作家で、一応本作もまたミステリーにカテゴライズされるのかな。
ファンタジー色は強いけど。

原作小説は本屋大賞他、様々な受賞をしてる名作らしい

この作品の登場人物は、ほとんどが不登校児である。
全員イジメ被害者というわけじゃないにせよ、少なくともヒロインの不登校の理由は明確にイジメだ。
それも物語がヒロインの視点でしか描かれず、加害者側の情報があまりにも少ないので、それが逆にめっちゃ怖いのよ。
こいつら、ちゃんと人の心をもった人間か?と思ってしまう。
ええ、困ったことに人間なんです。
ただ、作中の描写を見る限り、身体を痛めつけるなどの暴力行為はなかったようだ。
純粋な精神攻撃である。
これは想像するに性癖としてのサディスト、つまり人が苦悶する様子を見て快楽を得る人種なんだと思う。
ミもフタもない言い方になるが、このての性癖は道徳を説いてもどうしようもないかも。
性犯罪者が一回実刑食らっても、かなりの高確率で再犯に至ってしまうのと同じこと。
多分、性癖そのものは治せないよ。
じゃ、イジメは防げない?
うん、おそらく100%の根絶は無理だろうね。
ただ、そのての強い衝動を抱えたサディストが、学校には大量にいるなんてことは絶対にない。
つまり、サディストでもないのにイジメに加担してる人、あるいは黙認してる人が案外多いということ。

イジメの主犯格・真田さん
いい表情だな~ww

逆にこの真田さんって、何でイジメられないんだろうね。
こんな二面性ある性格歪んだキャラなのに、クラスの人気者で、先生からの評判もいいという。
みんな、そこまで人を見る目がないの?
おまけに、彼女に忠実な取り巻きがいる。
それは「友達」なんだろうが、この取り巻きはヒロインの自宅まで押しかけて、玄関外からの恫喝に加担するというリスクまで張ってるんでしょ?
声を張り上げたり戸を叩いたりまでしてたので、おそらく隣家の目撃証言はとれるだろう。
もはや「そんなこと私たちしてません」とシラを切れる一線を越えてるんだよ。
中学生ともなれば多分そのへんのリスクは分かってたはずで、それでも真田さんの動きに加担したのって、堅い友情ってやつ?
自分の内申点を下げてまでも、真田さんは追従する価値のある、かけがえのない親友だったの?
「真田さんを不愉快な気持ちにさせた、あの子には制裁を加えなければならない」という正義感から動いたのか?
その真相を映画は描写を一切しておらず、視聴者には彼女たちがただの悪者にしか見えない。
でも、そんなはずはないんだ。
一応彼女たちにも彼女たちなりの人間性があり、その本質は一般的な中学生のはず。
この子たちだって将来は子を産み、親になり、我が子が学校でイジメられれば「イジメを許してはいけません」というスタンスをとるはず。
ひょっとしたら、彼女たち自身はイジメの自覚がなかった可能性もあるかな?
だって暴力は振るってないし、教科書破ったり、何かを隠したり等の描写はなかったわけで。
ちょっとした意地悪ですよ、女子にはよくあることっすよ、と言われたら、もし私が教師ならどうリアクションしていいか正直分からん・・。

こういう性格悪い子は世の中にめっちゃ多いと思うし、特別変わった子でもないだろう

ただ、学校側はイジメがあったことを把握した様子だし、おそらく聞き込みもしてることだろう。
真田さんの二面性(先生には受けがいい)も仮面が剥がれ、教師にも生徒にも「イジメっ子」という共通認識ができたはず。
じゃ、仮に真田さんのイジメが明確になったとして、罰則ってあるの?
暴力行為というわけじゃないから、厳重注意だけで停学にすらならんだろ。
案外、イジメる側のリスクは大したことないんだ。
構造として、学校という場所はイジメる側の方に都合よくできてる。
ただ、ここでカギを握るのはモブ。
空気を読むことこそモブが唯一備えた能力ゆえ、おそらく「今後、真田さんには近づかない方がいい」と察するはずだ。
つまり、真田さん人気者時代は終焉したといっていい。
ヘタすりゃ、真田さんが今後クラスメイトからハブられる可能性すらある。
また、彼女の取り巻きも「私たち実はあんなことしたくなかった」と裏切る可能性もあるね。
だって彼女たちもまた、ネームドじゃないから。
私の持論は、モブ最強説である。
だってどんな強い奴だろうが、数の論理には勝てないから。
モブの強みとはその数であって、その数をもってすれば「空気」を作り、ネームドという個を封じることだってできるんだ。
じゃ、その最強のはずのモブがなぜイジメを封じることに役立たないのかといえば、それもまた空気を読んでのことだろう。
イジメられてる子をかばってはマズい、という場の空気を読んじゃうんだねぇ・・。

ネタバレすれば、かがみの孤城に集った中学生7名は、各々もといた時代がズレている。
スバル⇒1985年の中学生(1970年生まれ?)令和基準で54歳?
アキ⇒1992年の中学生(1977年生まれ?)令和基準で47歳?

こころ⇒2006年の中学生(1993年生まれ?)令和基準で31歳?
リオン⇒2006年の中学生(1993年生まれ?)令和基準で31歳?
マサムネ⇒2013年の中学生(1999年生まれ?)令和基準で25歳?
フウカ⇒2020年の中学生(2007年生まれ?)令和基準で17歳?
ウレシノ⇒2027年の中学生(2014年生まれ?)令和基準で10歳?

つまり、
スバル⇒家電話世代、ヤンキー世代
アキ⇒ポケベル世代、コギャル世代
こころ、リオン⇒mixi世代、ゆとり世代
マサムネ⇒LINE世代、Z世代
フウカ⇒TikTok世代、α世代
ウレシノ⇒?
ともいえるわけで、なんか隔世の感があるわ~。
しかし、どの世代でも不登校は不滅で、この問題は少なくとも2027年になっても全く改善されてないってことだよね・・。

ひとつポイントは、家電話世代のスバル、ポケベル世代のアキは不登校とはいえ、イジメが原因ではないということ。
そう、イジメってSNS普及から加速してるわけさ。
逆に、真田さんなんかはSNSをうまく使ってインフルエンサーになったんだろうね。
でなきゃ、さしてカワイイわけでもないし、彼女に人気者になる要素なんて皆無じゃん?
逆にヒロインこころは、SNSに長けてなさそうだな~。
というか、孤城の7人は誰ひとりアドレス交換してないって、そこが不自然ではあった。
ちなみに原作者の辻村先生は、世代でいえばアキに近いらしい。
ひょっとしたら、アキのモデルは先生ご自身かもね。
そして先生は大学時代教育学部だったらしく、ならば教育実習にも行ってるはず。
あるいは、その時の生徒がヒロインこころのモデルかも。
この小説の発刊は2017年で、その割に舞台設定は中途半端に2006年である。
妙だなと思ってたが、あるいは先生ご自身の経験に少し寄せたのかもね。
だって、なんかリアルな話だし。
フィクションならイジメ描写をもっと過激できただろうに、敢えてそうしてないところに生々しさがある。
真田さん程度の性悪女なんて世の中に腐るほどいるわけで、何もあれは特別な話でもないんだよね。
逆に、それがぞっとする。
ホント、いい映画だと思う。
さすがにこういうネタ、原監督も「クレヨンしんちゃん」では無理だもんな。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

アニメ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?