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高橋留美子渾身の伝奇ロマン「犬夜叉」

日本が世界一の漫画大国だとして、世界第2位の国はどこだと思う?
正解は、フランスである。
妙だと思わない?
フランスといえば欧州でも文化水準の高い国で、セザンヌやルノアールやシャガールなど、特に芸術分野が凄いところじゃないか。
こういう正統なカルチャーの強い国で、漫画というサブカルチャーが人気というのはとても意外である。

2022年、世界コスプレサミットで優勝したフランス代表(セーラームーン)
2021年のフランス代表はキャッツアイ

とにかく、日本の漫画やアニメが向こうでは大人気みたい。
2023年は、高橋留美子先生が仏シュバリエ勲章を授与された。
高橋先生は、2019年に仏アングレーム国際漫画賞でもグランプリを受賞しており、日本人でこのグランプリは大友克洋先生以来2人目だそうだ。

ところで、2019年にNHKが企画した「発表!全るーみっくアニメ大投票 高橋留美子だっちゃ」を皆さんはご存じだろうか。
21万人の投票で高橋先生原作アニメの人気NO1を決めようって企画なんだが、その結果は以下の通り。

【1位】犬夜叉
【2位】らんま1/2
【3位】めぞん一刻
【4位】うる星やつら
【5位】劇場版うる星やつら2ビューティフルドリーマー
【6位】境界のRINNE

この企画で興味深かったのは、公開された獲得投票の男女比データである。

<犬夜叉>
男性9.2%女性90.8%
<らんま1/2>
男性19.6%女性80.4%
<めぞん一刻>
男性73%女性27%
<うる星やつら>
男性37.5%女性62.5%
<ビューティフルドリーマー>
男性64%女性36%
<境界のRINNE>
男性15.7%女性84.3%

見ての通り、「めぞん一刻」と「ビューティフルドリーマー」は男性支持が多く、その他は女性支持が多い。
固定ファンもいるだろう人気作家の原作アニメで、ここまで男女比がブレるのは非常に珍しいケースだと思う。
「犬夜叉」に至っては、9割以上が女性票だぞ?
少年サンデー連載の漫画原作なのに。
こういう重くて哀しいダークファンタジーって、女性は苦手なんじゃないかと思ってたけど。

女性人気の高い犬夜叉と殺生丸
「犬夜叉」終了後、殺生丸の娘を主人公とした「半妖の夜叉姫」というアニオリ企画が始まった

「犬夜叉」のラスボス・奈落のキャラは、今でも強く印象に残っている。
物語の序盤こそ殺生丸も敵キャラだったが、殺生丸と奈落とでは全く性格が異なるよね。
殺生丸の場合はひたすら武力のみで向かってくるタイプで、矜持として卑怯な手は決して使わない。
それに対し、奈落は逆に卑怯な手しか使わないタイプだ。
使う妖術は主に洗脳など、精神操作系のものが多い。
胸クソなのは珊瑚の弟の琥珀を洗脳して傀儡にし、犬夜叉一行を襲わせたりする手口。
襲われた珊瑚は思い悩み、一行は精神的に追い詰められていく。
そう、奈落の手口は常に精神攻撃なんだ。
人の心の弱いところを見つけることに長け、ピンポイントにそこを突いてくる。
これってキリスト教でいうところの「サタン」、そのまんまの手口だよね。
聖書で描かれているサタンは、人を惑わし、騙し、堕とすのが常である。
奈落のキャラはまさにそれであり、やけに「犬夜叉」がフランスにて評価が高いというのも、キリスト教の強いこの国では多くの人たちが信仰心で物語を理解してるんじゃないだろうか。

「犬夜叉」最強の敵・奈落
情報収集と智謀に長け、的確に犬夜叉一行の弱点を突いた作戦を仕掛けてくる

ほとんど奈落には隙がなくて弱点らしい弱点はないんだが、ただひとつ弱みをいうと、組織を率いる長として彼は部下を使い捨てることしかせず、部下からの真の忠誠を得ていないことである。
結果的に複数の部下に裏切られるものの、彼はその裏切りすら織り込み済みの計画を組んでるわけで・・。
ホントこいつ、かわいくない。
「境界のRINNE」でも悪の組織の頭領・六道鯖人が出てくるけど、こっちは卑劣ながらも妙にかわいくて案外憎めないんだけど。

「境界のRINNNE」六道鯖人は、息子のりんねにどつかれるパターンがお約束
悪魔の魔狭人も出てくるが、こいつもりんねにどつかれるパターンがお約束
ほっこりする・・

奈落を見た後なら、他作品のどんな悪役でも結構許せちゃうよね。

「犬夜叉」の主人公は犬夜叉だが、裏の主人公は殺生丸?
いや、琥珀だと思う。
そしてヒロインはかごめだが、裏のヒロインは桔梗?
いや、珊瑚だと思う。
珊瑚と琥珀、この姉弟の物語が私には最も深く心に刺さった。
奈落の傀儡になって人を殺し続ける弟・琥珀の姿に苦悩する珊瑚。
ある時から自分が家族や仲間を殺したという記憶が戻って、苦悩し、奈落への復讐を誓いつつ、機会を伺って傀儡のままを演じ続ける琥珀。
このへんの重厚な人間ドラマ、私好きなんだよね~。

とても仲のいい姉弟だった珊瑚と琥珀
傀儡になって人を殺し続ける琥珀を前に、どうすべきか苦悩する珊瑚

とにかく話が長すぎるのが玉に傷なんだが、全193話、制作のサンライズも大変だったんだろうね。
たまに演出が石原立也さん、作画監督が池田晶子さんになってて、これって京アニが下請けやってたってことでしょ。
池田さんは例の放火事件で若くして亡くなったけど、彼女は京アニの美麗な作画の礎を築いた偉大なアニメーターだった。
確か、取締役にまでなった人だ。
そういう人たちに支えられてたからこそ、「犬夜叉」は「うる星やつら」や「らんま1/2」より遥かに作画がいいんだよね。
音楽はエイベックスとタイアップしてて、今思うとめちゃくちゃ予算が潤沢な作品だったんだろう。
そして声優は、かごめ役の雪野五月さんが強く印象に残っている。
なんか00年代って、雪野さん演じる強いヒロインが時代の顔だったんだよね。

「犬夜叉」日暮かごめ
「フルメタルパニック」千鳥かなめ
「ひぐらしのなく頃に」園崎魅音
「銀魂」志村妙

雪野さんがやる役柄は、大体が男勝りの勝気な性格で、活発なキャラだね。
逆にそのイメージしかないけど、めっちゃ安定感あるわ~。

あと、「犬夜叉」といえば私がお気に入りのキャラがふたりいて、それが刀々斎と冥加なんだ。

刀鍛冶の妖怪・刀々斎
ノミの妖怪・冥加

どっちもかなり長く生きてる長老で、犬夜叉の知恵袋的存在である。
冒険ファンタジーでいうと大賢者的ポジションの凄い立ち位置なのに、なぜか高橋先生はこのふたりをギャグ要員っぽく描いてるんだよね。
いや、逆にそのセンスが凄いなと思って。
こういうキャラの緩急のつけ方、高橋先生はホントうまい。
思えば、「うる星やつら」の頃から錯乱坊がそういう大賢者的ギャグ要員だっけ。
こういう緩急の老獪な使い分け、まさに達人の域といえよう。
そりゃ、フランスで勲章貰うのも納得だわ。
他にも七宝のような可愛いマスコットキャラ、弥勒のようなスケベキャラ、全て高橋留美子マニュアルに忠実なキャラクター構成である。
この「犬夜叉」もエンターテイメントの教本として、今後ずっとテキスト化されていくんだろう。

犬夜叉コスプレ
殺生丸コスプレ
かごめコスプレ
珊瑚コスプレ

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