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読書日記 歴史、社会、哲学、科学

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僕にとっての新しい知識や考え方を得ることができた本を紹介します。歴史・社会・経済・哲学・心理学・科学など、ジャンルはなんでもあり。
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記事一覧

「反オカルト論」 高橋昌一郎 著 光文社新書

「反オカルト論」 高橋昌一郎 著 光文社新書

コナン・ドイルも、原子タリウムを発見したウィリアム・クルックスも、ノーベル生物学・医学賞を受賞したシャルル・リジェも、インチキ霊媒師にころっと騙されました。一方、当時の奇術師ハリー・フーディーニは、すぐにトリックを見破りました。「理性的」と思われる人たちは、実は神秘的なものに騙されやすいのかもしれません。

これは、少しわかるような気がします。僕は、もともと理系ですが、「現在の」数式や論理で見落と

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「失敗の科学」 マシュー・サイド 著 ディスカバートゥエンティーワン

「失敗の科学」 マシュー・サイド 著 ディスカバートゥエンティーワン

車輪のトラブルに対応しているうちに燃料が無くなって墜落した飛行機のパイロットは、「信じられないほど早く燃料が減ってしまった」と証言しますが、フライトレコーダーの記録によれば、機長には、胴体着陸を選択するための十分な時間がありました。危機において、時間感覚は突然麻痺します。もしそうなら、航空機の事故は多発しそうです。

 

しかし、航空機の事故率は、非常に小さく、フライト100万回につき0.41回

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「日本史サイエンス」 播田安弘 著 ブルーバックス新書

「日本史サイエンス」 播田安弘 著 ブルーバックス新書

元寇は、神風が二度吹いたから日本は救われたと学校で習いましたが・・・。著者は、本当にそんなことが起こったのだろうかと疑問を持ち、工学の知識を活用して詳細検討します。その結果は、それまでの常識を覆すものでした。蒙古軍の突然の撤退は、そもそもの計画に無理があったということであり、日本の武士の戦い方もこれまで考えられていたような一騎打ちではなく、集団による攻撃だったのではないかと、著者は考えています。

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「墨子よみがえる」 半藤一利 著 平凡社新書

「墨子よみがえる」 半藤一利 著 平凡社新書

春秋時代が終わり、戦国時代に入った頃、紀元前5世紀後半に活躍した墨子は、徹底した非戦論、平和論を唱えた人です。生涯をとおして、官につかえることを欲しなかった自由人と見た方がいいと半藤一利さんは言います。

 

墨子の主要な主張の一つである兼愛とは、心情的個人的愛ではなく、自他の区別なく人を広く同等に愛しいつくしむというものです。その墨子の理念を、あのトルストイが「墨子は世の人びとに、権力に対して

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「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」 クーリエ・ジャポン編 講談社現代新書

「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」 クーリエ・ジャポン編 講談社現代新書

2021年1月に出版された本です。賢人たちの主張の検証は、これからなされることになるでしょう。

16人の「賢人」たちが語る、パンデミック以降の世界についてのインタビュー集です。横断的に、賢人たちが今パンデミックの中で、何を考えているのかがまとめられていて、とても興味深い本でした。

  

ほとんどの人は、行き過ぎたグローバリズムに対する懸念を語っています。それをどうするかについては、それぞれ独

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「避けられた戦争」 油井大三郎 著 ちくま新書

「避けられた戦争」 油井大三郎 著 ちくま新書

第一次世界大戦後の世界は、軍事力背景に他国を侵略し領土を拡大する「旧外交」から、力によらず民族の自決権を承認し、市場を拡大する「新外交」へ移行した時期でした。1920年代の日本は、国際連盟の常任理事国に選ばれ、中国の領土保全や門戸開放・機会均等等を約束し(1922年)、「国権の発動としての戦争放棄」を規定した不戦条約にも調印しました(1928年)。この頃外相として活躍した幣原喜重郎は、「新外交」を

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「私はガス室の「特殊任務」をしていた」シュロモ・ヴェネツィア著 河出文庫」

「私はガス室の「特殊任務」をしていた」シュロモ・ヴェネツィア著 河出文庫」

戦争という極限状態では、人は理性も共感的な感性も失ってしまうのかもしれません。それにしても、アウシュヴィッツで行われたことは、あまりに非人道的なことでした。

著者のシュロモ・ヴェネツィアは、アウシュヴィッツの特殊任務についていたユダヤ系ギリシャ人です。特殊任務とは、ガス室で殺された死体を墓穴まで運び燃やす仕事です。

彼は、アウシュヴィッツに連れてこられたユダヤ人たちが選別され、ガス室に送られ、

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「八月十五日に吹く風」 松岡圭祐著 講談社文庫

「八月十五日に吹く風」 松岡圭祐著 講談社文庫

アッツ島とキスカ島の占領は、太平洋戦争において失敗に終わったミドウェー海戦の陽動作戦として立案されました。しかし、ミッドウェーが敗北に終わってしまった後、アメリカ軍からの攻撃を先に受けたアッツ島では、日本兵2,638名が玉砕しています。

もう一つのキスカ島は、アッツ島玉砕の後完全に孤立してしまい、絶体絶命の状況に追い込まれます。しかし、キスカ島の5,200名の日本兵は、脱出に成功するのです。この

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「ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書」柴五郎著 石光真人編 中公新書

「ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書」柴五郎著 石光真人編 中公新書

義和団の乱における北京の各国公使館地区での籠城戦において実質的な指揮をとり、世界各国から賞賛された柴五郎の日記とその解説です。

柴五郎は、会津の生まれで、幕末に会津若松城が落城した時、10歳でした。

五郎は、会津若松城が黒煙に覆われ、わが家と思しきあたりが火の海になっているのを見ます。家の女性たち、祖母(81歳)、母(50歳)、兄太一郎の妻(20歳)、姉(19歳)、妹(7歳)は会津戦争の際に自

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「特攻の真実」 大島隆之著 幻冬舎文庫

「特攻の真実」 大島隆之著 幻冬舎文庫

1枚の写真が載っています。アメリカ軍によって撮影されたもので、空母フランクリンに一直線に突っ込んでいく一機の零戦が写されています。零戦は高射機銃を受けて火だるまになった櫻森文雄飛長(当時18歳)が操縦する特攻機です。火の玉になって、おそらく前も見えなかったと思われる状態で、そのままの角度でフランクリンの飛行甲板の後部にぶつかっていきます。その写真を見て、僕は言葉を失いました。

敗戦直後、多くの学

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「The Person You Mean to Be」 Dolly Chugh 著

「The Person You Mean to Be」 Dolly Chugh 著

人は、限定倫理的に物事を判断して、限定合理的に行動を決定します。そして「限定」の範囲は非常に狭く、99.999996%の情報が無意識に追いやられているのです。つまり、人は、0.000004%の情報だけを経験的に選択しているのにすぎません。たぶん、これが自我の大きさなのでしょうね。

そんな狭い範囲での判断で、自分が完璧に正しいと考えるのはおこがましいのです。われわれにできることは「(完全に)いい人

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「ソーシャル物理学」 アレックス・ペントランド著 草思社文庫

「ソーシャル物理学」 アレックス・ペントランド著 草思社文庫

アイデアの流れは速いが、似たアイデアに繰り返し晒されているエコーチェンバー状態にある人は、孤立状態にある人と同じくらい、現実から切り離されていきます。

アイデアの流れが速いということは、新しいアイデアが出ると素早くそれを参照すること。情報は素早く入ってくるのですが、偏りができてしまいます。心理療法にしても、一部の療法が極端に注目されることがよくあります。政治や外交の情報にしてもどうも偏りがある。

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「南京事件を調査せよ」 清水潔著 文春文庫

「南京事件を調査せよ」 清水潔著 文春文庫

目立たず地道だけど、とても大切な仕事をする人がいるものです。例えば、南京攻略戦に参加した兵士たちの日記を集めた小野賢二さんです。小野さんは、歴史の専門家でもない「化学労働者」です。小野さんは、会津若松で編成された「歩兵第65連隊」、「山砲兵第19連隊」の兵士たちの日記を集めました。その数31冊、うち26冊分はコピーで5冊は現物であり、立派な一次資料です。

これらの日記には、複数の人たちが、193

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「ソ連が満州に侵攻した夏」 半藤一利著 文春文庫

「ソ連が満州に侵攻した夏」 半藤一利著 文春文庫

戦争に勝ち目がないと悟った時、日本のトップの多くは、ソ連が仲介してくれるのではないかと言う淡い期待を持ちます。それは、あまりにナイーブな考え方です。戦争は、負けた方からいくら多くの利益を得るかという戦いなのです。善意で動く者などいません。交渉が可能なのは、言うことを聞かないと面倒なことになるぞと、相手に感じさせるほどの戦力がある間です。

ドイツと戦っている間は有効に機能した日ソ不可侵条約は、ドイ

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