レポート:ソース原理基礎講座番外編『A little red book about Source』著者ステファン・メルケルバッハ講演会
本記事は、現在、邦訳出版準備中であり、世界で初めてソース原理(Source Principle)に関して体系的にまとめた書籍『A little red book about source』の著者・ステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)の招聘イベントについてレポートしたものです。
2022年10月に出版され、国内で初めてソース原理(Source Principle)について紹介する書籍となった『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力(英治出版)』は、日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門にて入賞を果たし、その注目を高めつつあります。
講演会当日はステファンをメインガイド、『すべては1人から始まる』翻訳・監修を務められた青野英明さん、嘉村賢州さんをガイドとして迎え、通訳をCLUB SDGs主宰の福島由美さんに務めていただき、80名弱の参加者がソース原理(Source Principle)の知見を深めるべく耳を傾けておられました。
今回のステファンの来日は、昨年の夏に日本人実践者が青野さん主導のもとでスイスのステファン宅を訪れ、彼のプログラムを体験したことがきっかけとなっています。
そのため、今回の講演会にはスイスのプログラムとも縁のあるIdeal Leaders株式会社、RELATIONS株式会社が協力として名前を連ねています。
当日のオープニングでも、『すべては1人から始まる』翻訳・監修の山田裕嗣さん(株式会社令三社)に加え、永井恒雄さん(Ideal Leaders株式会社)、長谷川博章さん(RELATIONS株式会社)による、開会に際しての挨拶から始まりました。
さらに、当日はグラフィックファシリテーターのあるがゆうさん、山本彩代さん(特定非営利活動法人場とつながりラボhome's vi)によるグラフィック・レコーディングが行われていました。
4時間に及ぶ講演内容をビジュアル化しながらまとめられた模造紙のデータは本記事の最後にも掲載しております。
当日、参加された方は講演で受け取ったもの・学んだことの振り返りに、今回の記事をきっかけに講演会について知られた方は当日の空気感やエッセンスに触れることにご活用いただけると幸いです。
以下、当日の講演会の内容について、2024年1月現在の国内のソース原理(Source Principle)の広がりや文脈、トム・ニクソン氏の書籍『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』の内容にも触れつつまとめていきたいと思います。
ソース原理(Source Principle)とは?
『ソース原理(Source Principle)』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。
不動産業界で成功したビジネスマンとしてキャリアを進んでいたピーター・カーニック氏は、クライアントたちとの交渉の中で相手側が不合理な判断・意思決定を行う場面を目にしてきたといいます。
このことをさらに突き詰めていくと、「お金と人の関係」がビジネスにおける成功、人生の充実に大きく影響していることに気づき、ピーターによる「お金と人の関係」の調査が始まりました。
その後、お金に対する価値観・投影ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク('moneywork')が体系化され、その過程でソースワーク(Source Work)が副産物的に生まれてきたとのことです。
マネーワーク('moneywork')は自身の内面を扱うインナーワークに比重が置かれており、ソースワーク(Source Work)はアイデアを実現するためのアウターワークに比重が置かれていると言います。
(ピーターの「お金と人の関係」の研究及びマネーワーク('moneywork')については、以下のインタビュー記事もご覧ください。)
今回の講演会にピーターは参加していなかったものの、ソース原理(Source Principle)を扱った講演やイベントを行う上でピーターを紹介せずに行うことはできない、ということをガイドの皆さんはお話しされていました。
それは、人々がそれまで無意識に行っていた創造的に活動を展開すること、一人ひとりのあり方を尊重しながらコラボレーションすることについて、ソース原理(Source Principle)という言語を発見し、意識的に扱うことを可能にしたピーターへのリスペクトによる姿勢であり、ステファンも講演中、何度も言及していた他、書籍の中でも触れています。
この尊重と尊敬の姿勢は、ソースが実現しようとするアイデアそのものに対しても大切な姿勢です。
アイデアとは贈り物であり、自らがゼロから生み出したものではなく、受け取った直感やインスピレーションによって、自分の中で形を成したものであるというのが、ガイドの皆さんが紹介してくれた見方です。
ソース(Source)とは、アイデアの所有者(owner)というよりも保持者(repository)であるという姿勢は、ソース原理(Source Principle)の実践にとって非常に重要なものであると、ステファンをはじめとするガイドの皆さんがお話しされていたのも印象的でした。
ソース原理の国内における広がり
日本においてのソース(Source)の概念の広がりは、『ティール組織(原題:Reinventing Otganizations)』著者のフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって初めて組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となっています。
2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。
フレデリック・ラルー氏もまた、ピーター・カーニック氏との出会い、彼からの学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。
その注目度の高さは、本邦初のソース原理に関する書籍の出版前、2022年8月にトム・ニクソン氏の来日が実現する、といったことからも見てとれます。(オンラインでのウェビナーの他、北海道・美瑛町、東京、京都、三重、屋久島など全国各地でトムを招いての催しが開催されました)
2022年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏(Tom Nixon)による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。
2023年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。
日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファンによる『A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。
その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著『Work with Source』が出版され、本書が『すべては1人から始まる』として日本語訳され、英治出版から出版されました。
『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」の入賞も果たし、ビジネスの領域においての注目も高まっていることが見て取れます。
このような背景と経緯の中、ソース原理(Source Principle)の知見は少しずつ世の中に広まりつつあります。
ステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)
『A little red book about source』の著者であるステファン・メルケルバッハ氏は、スイスに拠点を置くオーディナータ社(Ordinata)を2001年に起業したソース原理(Source Principle)の実践者です。
オランダに生まれ、スイスのフリブールで育ったステファンはフリブール大学、ジュネーブ大学で哲学を研究しており、このことは現在の彼の肩書きである「哲学する経営者(philosopher-manager)」にも通じています。
現在、ステファンはコーチング、コンサルティングを行うオーディナータ社(Ordinata)において、ソシオクラシー(Sociocracy)をルーツに持つ組織運営体系『参加型ダイナミックス(participatory dynamics)』の提供を企業やチームに行うとともに、トム・ニクソン氏の立ち上げた情報ポータルサイトworkwithsource.comにも名前を連ねています。
また、上記の活動に並行して小学校の設立に携わり、校長としても活動していた教育者としての顔も持っています。
ステファンがソース原理、ピーター・カーニック氏に初めて出会ったのは、2013年のことでした。
"The Source Person" training dayと題されたその日のトレーニングでの出会いをきっかけに、自社の提供する企業を対象としたトレーニングやプログラムにおいてソースの概念は欠かせないものになったと、ステファンは書籍の中で述べています。
また、ソース原理においては、ソースが活動を始めるとサブソース(sub source)またはスペシフィック・ソース(specific source)という役割を担う人が現れます。
そして、ステファンもまた、ピーターが創始したソース原理の普及・実践に関するサブソースまたはスペシフィック・ソースの1人です。
サブソース、スペシフィック・ソースとは、あるソースのビジョンや価値観に共鳴し、あるソースの活動の特定の部分において、ソースへの深いリスペクトをしつつ、創造的に取り組むようになったパートナーと言える存在です。
この点について、講演会冒頭に嘉村賢州さんは以下のように仰っていました。
ソース(Source)とは?
トム・ニクソン『Work with Source(邦題:すべては1人から始まる)』を参照すると、ソース(Source)とは、1人の個人が、傷つくかもしれないリスクを負いながら最初の一歩を踏み出し、アイデアの実現へ身を投じたとき、自然に生まれる役割を意味しています。
ステファンの書籍においては、この役割を担うことになった人について、特に「ソース・パーソン(source person)」と呼んでいます。
トム、ステファンの両者が著している様に、ソース(Source)は特別な人だけがなれる役割ではなく、誰もがソース(Source)である、というものです。
アイデアを実現するために一歩踏み出すことは、社会を変えるような大きなプロジェクトの立ち上げに限りません。
友人関係や恋人関係、夫婦関係などにも、誘ったり、告白したり、プロポーズしたりと主体的に関係を結ぼうと一歩踏み出したソース(Source)が存在し、時に主導的な役割が入れ替わりながらも関係を続けていく様子は、動的なイニシアチブと見ることができます。
さらに、自身の研究課題を決めること、就職を思い立つこと、ランチを作ること、休暇の予定を立てること、パートナーシップを築いていくこと等、日常生活の様々な場で誰しもが何かのソース(Source)として生きていることをトム、ステファンの両者は強調しており、日常生活全般にソース原理(Source Principle)の知見を活かしていくことができます。
また、当日の講演会でステファンは、まったく新しいことを始めるだけでなく、既にある仕事や日々の取り組みの中でソースとなるべく直感が降りてきたり、誘われることもあるとお話しされていました。
ソースと他者の関わり方
ソースの生み出すフィールド(field)
ある人が直感を受け取り、傷つくかもしれないリスクを負いながら一歩踏み出すことで、その人はその活動、イニシアチブのソースとなり、ソースの周りにはフィールドが生まれます。
この現象に関して、昨年11月の来日時のピーター・カーニック氏や今回のステファンは単にフィールド、またはエネルギーのフィールド(Energetic Field)とも表現していましたが、トム・ニクソン氏は書籍の中でクリエイティブ・フィールド(Creative Field)と表現して紹介しています。
ソースの実現したいビジョン、イニシアチブに共鳴した人々はフィールドに引き寄せられ、ソースのフィールド内のある領域において独自の役割……サブソースまたはスペシフィックソースとして活動を始めます。
そして、ソースの活動が継続されていく中で、フィールドが扱う範囲や領域は拡大したり、縮小したりします。
その様子を表したのが、ステファンによる以下の図です。
サブ、スペシフィックからすると、当初の活動を始めたソースはグローバルソースという立ち位置に当たり、グローバルソースはフィールド内における実現したいビジョン、価値観(values)、フィールドの健全性などに対するtotal responsibility(全責任という役割・機能上のニュアンスと、直感に対する感応や反応という内面的なニュアンスを含む)を持ちます。
また、ここで注目したいのが、サブ、スペシフィックは図の青色のフィールドに関してはソースとしてのtotal responsibility(以下、レスポンシビリティ)を備えて活動を行うようになり、グローバルはサブ、スペシフィックに委ねた(deligate,sharing,transmitなどの語で表される)部分に関する直感やアイデアを受け取ることはなくなる、という点です。
さらに注意深く扱いたいのが、グローバルはサブ、スペシフィックのフィールドを含んだ図の緑色の円全体についてのレスポンシビリティを持つことと、サブ、スペシフィックが青色の円内に関してレスポンシビリティを持つことは両立し、同時に成立しうる、とステファンが話していた点です。
ある企画に関するドキュメント、それも何十枚もの資料をサブ、スペシフィックがグローバルの元へ持ってきた場合でも、グローバルは自身のイニシアチブにおけるビジョン、価値観と異なる部分や表現などがあればすぐに見抜くことができる、とステファンは話し、「責任のレイヤーが異なる」とも付け加えていました。
ソースの継承(Transmit/Succession)
上記のようなソースと他者との関わりで関連してくるテーマが、ソースの継承です。
ある1人のソースが別の誰かに、ソースを継承することがあります。それは、ソースが既存のイニシアチブから新たな取り組みに進みたいと感じた時や、エネルギーや情熱の減退により継続が難しくなってきた場合、あるいは単に「託したい」と感じる人が現れた場合かもしれません。
いずれにせよ、それは一対一の関係の中で起こります。
そのような場合の選択肢の一つである継承について示したステファンの図が、以下のものです。
ステファンはソースの継承に関して「Transimission(伝達、伝播)」という語を使用しています。
ソースの継承が未完了な場合、さまざまなパターンで混乱が生じます。
ある組織の場合、例えばそれは、ソースを受け渡したはずの前代表が現代表に「それは違う」と介入し続けてしまったり、受け取ったはずの現代表もソースとして直感を得ることができない、ということが起こり得ます。
上司と部下の関係であれば、部下に仕事や肩書きは任せたものの、部下が創造性を発揮するためのパワーを与えてはいない状態が考えられます。このような状態は、グローバルソースによる残酷性である、とステファンは話していました。
また、ソースの継承は受け渡す側(transmitter)、受け取る側(reciever)どちらにとっても初めて体験するものです。
それは、子どもが生まれる時に初めて親と子になるようなものであり、カリキュラムを経て認定を受けてなれたり、カレンダー通りに計画できるものでもありません。
そして、「やっぱり継承は辞めた。取り消します」とはできない、決定的で不可逆なプロセスでもあります。
この時に大切なものは、能力的な優秀さではなく、ソースの価値観を両者で共有できていること、そして確信、信頼であるとのことでした。
なお、事業承継の場合、一度ソースを受け渡した前代表に、現代表から「ソースを受け渡します」として再びソースが戻るということもあり得ると、スファンは話していました。
ソースの3つの役割
これまで見てきたように、ソースは直感(an intuition)やインスピレーション(an inspiration)に動かされる形でリスクを取り、アイデアを実現させるために一歩踏み出し、イニシアチブをスタートさせます。
そして、フィールドに集まった人々に対し、次のステップを明確にし、伝えていきます。活動の発展によってそのアイデアが膨らむにつれ、ソースは、プロジェクトの包括的なビジョンを描き、方向性を指し示す役割を担います。
この時、ソースのビジョンや価値観が尊重されているかどうかを確認し、フィールド内で取り組むべき活動や振る舞いかを判断し、境界を確保することもソースの役割です。
このようにソースには複数の役割がありますが、ステファンはこれをソースの3つの役割に整理しています。
すなわち、起業家(entrepreneur)としての役割、案内人(guide)としての役割、守護者(guardian)としての役割の3つです。
以下、3つの役割について見ていきます。
起業家(entrepreneur)としての役割
ソースにおける起業家(entrepreneur)の役割とは、受け取った直感(アイデア、ビジョン)を実現するために、行動を起こし、リスクを引き受けることです。
このリスクを取ることとは、一番初めに直感を受け取って一歩踏み出す瞬間だけではなく、活動が始まってからもその都度、引き受け続けるものであるとガイドの皆さんからお話がありました。
これは、一般的な経営の考え方にあるリスクの軽減とは異なるアプローチと言えますが、ソースがリスクを取ることは未知の領域へ迷い込むことを許容する姿勢の表れでもあります。
案内人(guide)としての役割
ソースは、自らのイニシアチブにおけるビジョンや価値観に対して、レスポンシビリティを持ちます。
ソースにおける案内人(guide)の役割とは、実現したいビジョンや方向性を感知し、常に次のステップを明確にし、それを仲間たちに伝えることです。
守護者(guardian)としての役割
ソースにおける守護者(guardian)の役割とは、プロジェクトのフレームワーク、つまり価値観やビジョンが尊重されている状態を確保することです。
守護者の役割に関して、先述のステファンの図を参照してみます。
図の中には、グローバルソースの活動によって現れたフィールドの中にサブソース、スペシフィックソースが描かれており、サブソース、スペシフィックソースは青い円のフィールドにレスポンシビリティを持っている状態です。
グローバルのビジョン、価値観とは異なる提案がサブ、スペシフィックからなされた場合、青色の円が緑の円からはみ出している、または外にある状態と考えられます。
この時、グローバルはサブ、スペシフィックにそのことをシェアし、なおもビジョン、価値観が異なる場合、その提案をしたサブ、スペシフィックは自らが独自のソースとして、当初のフィールドの外で活動することとなります。
青野さんは守護者としての役割について、バンドの例えで表現されていました。
ソースが次の一歩を明確にするために
次の一歩を明確にすることもソースの役割であると紹介されましたが、一方でソースはほとんどの状態で迷い(doubt)の状態にあり、次の一歩が明確であることは少ない、とのお話もありました。
では、そんな時にどうやれば次の一歩を明確にできるのか?について、特にステファンが強調していたのは、直感を得ること(Get a Intuition)、内省すること(Self Reflect)、対話すること(Dialogue)でした。
ステファンは以下のようにも表現しています。
直感を得るための方法はさまざまで、瞑想、散歩、シャワーを浴びる、ランニング、トイレの時間など、人によって合った方法が考えられます。
直感は受け取るものであり、予定を決めて予定通り得られるものではありませんが、直感を得ることはソースとしての重要な仕事です。
意識してその時間を確保することや、直感を得るための自身に合った環境を整えることは、ソースが推進するプロジェクトや関わる組織にとっても大きく影響します。
内省することとは、ソースが自分の考えを整理するために、1人で時間を取ることです。自分のプロジェクトを発展させるために次に取るべきステップについて理解を深めるために、自分のための時間を取るのです。
ステファンはこの時間をソースタイム(Source Time)と呼び、自身もあらかじめスケジュールすることで自身の洞察を振り返る時間を取っているとのことです。
もう1つ。対話をすることは、曖昧さや迷いの中にいるソースが、自身のビジョンや次の方向性をクリアするために人とのコミュニケーションの中で明確化していくプロセスであり、一種の壁打ちのような方法です。
この時に注意が必要なのは、あらゆる人の意見を取り入れた結果、ソース自身も、そのほかのメンバーの誰もエネルギーの高まらない状態になるのを避けることです。
イニシアチブをスタートさせ、ビジョン、価値観に繋がっているソースがエネルギーや求心力を失ってしまうと、メンバーのエネルギーも下がり、イニシアチブは衰退に向かってしまうためです。
次の一歩が明確になった時、エネルギーが湧いてきてウズウズし、とにかく行動せずにはいられなくなります。明確になった時、その瞬間は明らかです。また、明確になった際は案内人としての役割を発揮するべく、ソースは次のステップについて皆に分かち合っていくこととなります。
他方で、迷いの中にいる際には大きな決断をせず、その場に留まり続けることが重要です。もし迷いの中で無理に動こうとした場合、かえって状況が悪くなり、取り戻すことにエネルギーが必要になる場合があるためです。
ソースにまつわる病理
ソースが自身のビジョンの実現に向けてイニシアチブを推進していく際、ステファンはソースが陥りやすい病理があることを、disease、malady、pathologyといったさまざまな言い換え表現で書籍内でも紹介してくれています。
今回の講演会でステファンが語ってくれた病理は、ソース原理(Source Principle)そのものを知らない故に起こる無知(Ignorant)、そして、ソースの陥りやすい病理として、ソース否定病(The source denier)、暴君(The tyrant)、怠け者(The slacker)の4つです。
無知(Ignorant)であることは、知ることによって解消できる病理として簡単に触れるに留められ、ソース否定病(The source denier)、暴君(The tyrant)、怠け者(The slacker)の3つの病理についてステファンは詳細に紹介してくれました。
ソース否定病(The source denier)
ソースが陥る最も典型的な症例の1つ目として挙げられたのは、ソース否定病(The source denier)です。
ソース原理(Source Principle)については理解しているものの、自身のソースとしての役割や性質、影響の範囲を認識していないこと、無視すること、また、ソースとしての責任を負うことを避けようとすることです。
ソースにこのような状況が続くと、私たちのビジネス、組織、あらゆる種類の取り組みを荒廃させるだけではなく、ソース自身のプロジェクト、チーム、組織にブレーキをかけてしまいます。
このソース否定病に関して、ステファン自身の経験も質疑応答の際にシェアしてくれました。
かつてステファンが小学校の校長として学校運営に取り組んでいた際、2008年に燃え尽き、2009年に2人の後任者に学校を託し、ステファンは辞めてしまった、ということがありました。
ソースは1人から2人へ託すことはできません。常に1人から1人へ、です。
ソースの継承は未完了なままであり、学校を託した2人はステファンが辞めた5ヶ月後には学校のプロジェクトを辞めてしまい、その後、理事会からは色々と質問が来るようになってしまいました。
ステファンがソース原理(Source Principle)に出会ったのは2013年のことで、ピーターからも「未だにあなたがソースなんだよ」と伝えられたものの、ステファンは燃え尽きの経験からソースであることを拒絶、拒否していました。
ステファン自身、ピーターが正しいとわかっていたものの受け入れに2年かかり、2015年に再びグローバルソースとして学校へ戻ったとのことです。
暴君(The tyrant)
ソースが陥る最も典型的な症例の2つ目は、エゴとソースを取り違えてしまい、暴君(The tyrant)となってしまうことです。
この症状に陥ると、過剰にソースとしてプロジェクトに関与しようとしたり、より大きなビジョンや目的に奉仕するよりも、プロジェクトを自分のエゴを満たすために奉仕させようとしてしまいます。
暴君(The tyrant)は、後述する怠け者(The Slacker)とエゴの大きさ・強さ、イニシアチブへの関与という点で対極にある病理(エゴが強すぎる)としても紹介されており、サブソースやスペシフィックソースに色々押し付ける抑圧者のような態度や、無謀な取り組みを行うなどの振る舞いに現れます。
また、この暴君の症例にはサブソース、スペシフィックソースに発症するバリエーションがある、と青野さんから補足いただきました。
それは、サブソース、スペシフィックソースが、自らグローバルソースに(しばしば無意識に)成り代わろうとする「ソース乗っ取り病(the source-usurper's disease)」とでも呼ぶべき状態です。
怠け者(The slacker)
3つ目の典型的なソースの病理は、ソースの仕事に注意を払わない怠け者(The Slacker)と呼ぶべき病理です。
自分がソースであることは認識していても、直感に耳を傾け、リスクを取って行動し、次のステップを明確にし、価値観とビジョンの整合性を守る、というソースの主要な仕事を怠ってしまう、という症状です。
怠け者(The Slacker)は、先述した暴君(The tyrant)とエゴの大きさ・強さ、イニシアチブへの関与という点で対極にある病理(エゴが弱すぎる)としても紹介されており、サブソースやスペシフィックソースを尊重し、意見を取り入れようとするあまりに自己主張が消極的である、臆病になってしまう、などの振る舞いに現れます。
賢州さんは「自分のこれまでのプロジェクト運営や組織運営を振り返ると、King of the Slackerだった」と語り、怠け者(The Slacker)特有のプロジェクトメンバーへの関わり方、プロジェクト運営の行い方についての事例を紹介いただきました。
ソースが健全性を保つために
ここまで、ソースが陥りがちな病理について見てきました。
では、健全なソースとして活動していくためには何が必要になのでしょうか?
ステファンが語ったのは、いずれの病理も無意識、無自覚なままで発症している場合、そのソースのプロジェクトやイニシアチブにとってのガンになりうる、ということです。
暴君(The tyrant)と怠け者(The Slacker)についての紹介の後、ステファンは会場の参加者へこんなふうに問いかけました。
このように、自分の傾向を自覚していくことは病理の治癒へ向かう第一歩です。
また、自分とは対極の性質の人の態度・振る舞いから学ぶことや、葛藤を抱えつつも内省し、自身に向き合うこと、自分が普段発揮していない対極の性質を意図的に使うトレーニングを行うことも、ソースが健全であるためにできる工夫であると、ステファンは話してくれました。
ここで、再びステファン自身の経験について戻ってみましょう。
かつてステファンが小学校の校長として学校運営に取り組んでいた際、2008年に燃え尽き、2009年に2人の後任者に学校を託し、ステファンは辞めてしまったということがあったと、ソース否定病の事例としても本記事の中で紹介しました。
この時、ソースの継承は未完了なままであり、学校を託した2人はステファンが辞めた5ヶ月後には学校のプロジェクトを辞めてしまい、その後、理事会からは色々と質問が来るようになってしまいました。
2013年にソース原理(Source Principle)に出会い、ピーターからも「未だにあなたがソースなんだよ」と伝えられたものの、ステファンは燃え尽きの経験からソースであることを拒絶、拒否していました。
ステファン自身、ピーターの言っていることが正しいとわかっていたものの受け入れに2年かかり、2015年に再びグローバルソースとしての自分を引き受け、学校へ戻ることとなります。
では、ソース原理(Source Principle)という新しい言語を得たステファンはその後、どのように行動したのでしょうか?彼は講演の中で、自身が怠け者になりがちだ、ともお話しされていました。
学校へ戻った後の出来事について、ステファンはこんなふうにお話しされていました。
講演会当日のグラフィック一覧
以上、ステファン・メルケルバッハ氏によるソース原理(Source Principle)に関する講演の内容について、2024年1月現在の国内のソース原理(Source Principle)の広がりや文脈、トム・ニクソン氏の書籍『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』の内容にも触れつつまとめてきました。
当日の講演内容だけを切り取っても、4時間超の長時間の中で語られた叡智は膨大な量です。
そのような中、当日はグラフィックファシリテーターのあるがゆうさん、山本彩代さん(特定非営利活動法人場とつながりラボhome's vi)にイラストなども交えながら、講演内容をグラフィックとしてまとめていただきました。
以下、クリックすることで拡大して閲覧することが可能です。是非ご覧ください。
また、お二人が事例を寄稿しているグラフィック・レコーディングの関連書籍は、以下をご覧ください。
さらなる探求のための関連リンク
A little red book about source: Liberating management and living life with source principles
場とつながりの大冒険〜ソース原理探求編①キング・オブ・スラッカー(怠け者)の気づき(ソースの病理の解説付き)
ソースプリンシプルにまつわる著者ステファン・メルケルバッハのセミナーに行ってきました。
レポート:ナーディア来日記念!出版記念講演会&マネーワーク基礎講座@京都
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