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【なまらのんびり07】零れ落ちた命。【夫婦エッセイ】

 部屋の中でかいわれ大根を育て始めた僕ら夫婦。




 使い捨てのプラスチックコップに水を浸したキッチンペーパーを敷き種を蒔いた後、2、3日は霧吹きなどで優しく水をやります。
 芽が出て育ってきたら、今度は水を捨て、新しく水を入れます。水を新鮮に保つために交換していくのです。
 キッチンペーパーに根を伸ばしたりお互いに絡み合ったりして一応根付いていくのですが、土に根を張っている植物とは違いあまりしっかりと固定はされません。なので、水を交換する時は慎重に丁寧に行う必要があります。お米を研いで水を捨てる時にお米まで流してしまわないようにそーっとそーっと傾けるような、そんなイメージ。



 ある日、育てているかいわれ大根の水を妻が交換し始めました。

 光が当たらないように被せている覆い(我が家では黒いバケツ)を取ります。覆いを取る際にもかいわれ大根が入っているコップを倒してしまわないようにそーっとそーっと取っていきます。

「おはよう、かいわれちゃん」
「どんどん育っていくから嬉しいね」
 顔を出したかいわれ大根にまずはご挨拶。

 そして、水を捨てます。妻はキッチンの流し台に向かい、かいわれ大根まで流してしまわないようにそーっとそーっと水を流します。

 次に、水を注ぎます。この時も、勢いよく水を注ぐとかいわれ大根が動いてしまったり浮き上がってきてしまったりするので、丁寧に行います。蛇口をちょっと捻り、そこから更に絞り、コップの壁をつたわせて、そーっとそーっと水を入れていきます。

「OK!」
「段々慣れてきたねぇ」
 根付いてきたかいわれ大根を乱すことなく、無事に水の交換を終えることができました。



「さて、と」
 再びバケツの中へと戻すために、妻がかいわれ大根の入ったコップを持ち上げた、その時。





 彼女は、かっぱがしたのです。

 彼女は、まかしたのです。







 「かっぱがす」とは「ひっくり返す」という意味の北海道弁。

 「まかす」とは「こぼす」という意味の北海道弁。

 彼女はコップをひっくり返してこぼしてしまったのです。







「……!」
 僕は絶句しました。
 コップはプラスチックなので割れたりすることはなく無事です。しかし、コップなんてどうでもいいのです。
 先程慎重に丁寧に、そーっとそーっと扱って、乱れることがないようにしていたかいわれ大根が、あっさりと床にぶちまけられたのです。
 少しずつキッチンペーパーに根付いてきており、多少のことでは動かなかったかいわれ大根ですが、そのキッチンペーパーごと飛び出してしまいました。

 過保護に過保護に育ててきた我が子に突然の事故が起きたようなもので、僕は驚き過ぎて体が動きませんでした。
「どうしよう……」
 そう思っていると……。

 妻は何事もなかったかのように、ぱ、ぱ、と手際よく床に散らばったかいわれ大根を拾い、コップの中へと再び戻していきました。
「……」
 唖然として、それで大丈夫なのかい、と思いつつも、そうする他ないことに気付き僕は見守りました。



 その後、かいわれ大根はどうにかこうにか育っていきました。
 かいわれ大根のたくましさにも感動しましたが、妻のたくましさにも感動したのでした。







 収穫したかいわれ大根はサラダに入れてもいいし、みそ汁にまぶしてもいいし、納豆に混ぜ込んでご飯と食べても美味しいです。「かいわれ大根の定番料理って何だっけ?」と考えるとあまり出てきませんが、何にでも合う万能な野菜です。収穫に合わせて献立を考える必要がなく、収穫したその日の献立に合ってくれるので便利です。


 二人で育てたかいわれ大根、二人で美味しくいただきました。
 やはり自分達で育てた野菜を食べると幸せな気分になれますね。






 一度にたくさん食べると結構辛いのでご注意を。







これにてかいわれ大根3部作終了!


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