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体重100kgで5分しか走れなかったアラフォーのおっさんがNikeのテクノロジーと村上春樹の力で月間100km走ったら割と人生観が変わった話

ただいま38歳、アラフォー真っ最中で、都内で外資系IT企業でマーケティングの仕事をしていて、学生時代も社会人時代もいわゆる「体育会系」のノリや実際のスポーツと無縁で生きてきましたが、最近「文化系から見た時のスポーツやフィジカルの価値」という角度で捉え直すようになりました。

仕事柄、日々、「テクノロジーの力で少しでも社会をよくする」「そのことをいろんな人に知ってもらう」ということを目指して働いているわけですが、これって意外に難しいことだったりします。自分自身を振り返っても、あまりにも便利なものに囲まれているとそれが普通・自然になってしまいその効用を感じないケースも多いですし、「テクノロジーって本当に世の中の役に立ってるのかな」と感じるケースも色々あり、最近の各国政府の動きを見てもテクノロジーが社会や個人に与える影響が以前にも増して問われていることは間違いないと思います。そんなわけで仕事面では試行錯誤な日々なわけですが、最近、改めて自分の生活や人生観を変えたアプリ・サービスがあって感動したので、紹介したいです。

なにかっていうと、Nike Run Club、通称 #NRC です。「え、全然新しくないじゃん」。まぁもうちょっと待ってください。

10年前に受けた衝撃、その革新性

確かにアプリ自体に関して言うとかなり前からあるサービスで、この前身である(と思われる)Nike+というサービスが登場したのは、wikipediaによると2006年。実はiPhoneが出るより前ですね。その後スマートフォンが一般化していくにつれGPSをベースとしたアクティビティトラッカーやフィットネスアプリがたくさん出てきますが、当時はipodで音楽を聴きながら、靴の中にセンサーを仕込んで走った距離が測れ、しかもそのアクティビティがトラッキングできるという機能、Nikeとappleという異業種のコラボレーション、スポーツと音楽を結びつけるという発想など、本当に画期的でした。

自分が子供の時から一貫してデブ体型だったこともあり、ランニングにら「こんな単調な苦行がなんで楽しいんだろう」くらいのネガティブイメージしか持ってなかったのですが、「好きな音楽を聴きながら運動できるならひょっとして楽しいのでは」ということでNike+をきっかけに始めるようになり、ついにフルマラソンまで完走するに至りました。これが10年前の出来事です。

当時買ったNikeのウェアを今でも持っているのですが、久々に見たら袖にipodを入れたままスリーブと、イヤフォンコードを通す穴があいていました。時代を感じます。

10年後に劇的に進化していた機能に再び衝撃を受ける

時は流れて2018年10月、あまりに仕事が忙しく追い詰められていたため、ストレスで激太りしてしまい、身長173cmにして体重が102kgを越えてしまいました。血圧が異常値になり医者から「薬飲み続けないと死にますよ」と真顔で言われ、何をするにもダルく、なぜかよくわからないけど身体のあちこちが微妙に痛い。これは本格的にヤバいと思ってRIZAPに通い始めると同時に、再度走ろうと決意して久々にアプリを入れてみると、あれ、そもそも名前が変わってる。そして以前はapple製品exclusiveな印象が強かったですが、きっと色々な事情があり(詳細は知りません)、他の携帯でも機能にほぼ差がなく使えるようになっていました。

Nikeが持っている資産がフルに活用された "GUIDED RUN" の素晴らしさ

アプリのコアファンクションである、GPSでトラッキングしてアクティビティを管理するというのは変わらないのですが、2017年9月にローンチされていた「AUDIO GUIDED RUN」という素晴らしいコンテンツが追加されていました。以下ローンチアナウンスから引用しますが、要するにNikeのコーチが走ってる間に声で色々なアドバイスなどをくれて、さらに豪華なゲストランナーもそれに参加してくれる、というものです。長さも種類も様々で、わずか5分のRUNから、長いものだと90分のRUN、さらに時間だけでなく距離やスピード、インターバルやリカバリーなど強度やトレーニングメニューも色々なバリエーションで用意してくれています。

Introducing Audio Guided Runs. Get guidance, motivation and inspiration directly through in-ear audio from Nike's coaches as well as elite athletes like Mo Farah and entertainers such as Kevin Hart. The workouts are designed to help runners improve strength, speed and endurance and have fun doing it. Additionally, intervals are automatically marked along the way so all you need to do is press start and go. 

「走る」ことに対する固定観念を覆される

最初にこのずらっと並んだGUIDEを見た時に、「走り込んでる人向けの技術指導的なやつで自分には関係ないだろう」と思っていたのですが、実際には全然違いました。技術、つまりフォーム・呼吸・ストライド・ペース配分などの話は、ほとんど出てこず、むしろ、そういった技術面「以外」の要素が大半を占めます。

例えば、ガイド内で繰り返しコーチに言われる内容として、「ランニングにおいて最も難易度が高いことは何か」というものがあります。

こう聞かれると自分も含めておそらくほとんどの人は「長い距離を走り続けること」「速く走ること」「正しいフォームで走り切ること」など、「走り始めた後のこと」が思い浮かぶと思いますが、このガイドでは一貫して、「最も難しいことは走り始めることであり、アプリのスタートボタンを押すことである」と言います。
なので、だいたいのガイドではランニング開始後30秒くらいで「このランニングを始めた時点で、あなたにとってすでに最も難しいパートは終わっているのだから、まずはそれを祝おう」と言ってくれます。なんていう優しいコーチ!(笑)。
それに加えて、「最初は身体がランニングに順応してないから誰でも辛いけど、ペースを落としてゆっくり走れば身体は必ず順応する。最初からペースを上げてはならない。ペースを落とす勇気を持とう」という実践的なアドバイスを教えてくれます。

最初は騙されたつもりで、「5分走るだけでも良いんだったら、とにかく四の五の言わずに、とりあえずスタートして、ゆっくり走って、辛くなったらやめよう」と思いながら、5分→10分→15分→20分→30分と徐々に距離と時間が伸びていきました。

走り始めた時は5分でも走ると息が上がって苦しくなって止まっていたのですが、2ヶ月後には90分・15km続けて走れるようになり、2018年11月〜2019年1月の3ヶ月での総走行距離は350kmを越えました。人間って現金なもので、走れるようになると、走るということが楽しくなってきます。あれほど嫌だったのに、大晦日も元旦も走りました。

この「スタートすることが最も難しい」ということに加えて、ガイドでは「ゴール」と「アチーブメント」についても教えてくれます。

「ランニングにおいて何かを達成したと感じるのはどういう瞬間ですか?」と聞かれると、自分を含めてほとんどの人は「定められた距離、時間、ペースなどの目標をクリアした時、走り終えたとき」と答えると思いますが、このガイドでは少し違います。

・目標はなるべく遠く、なるべく大胆不敵な、達成できそうもないように感じるものを設定する。
・ただしゴールや達成はその目標に到達した時だけでなく、一つ一つのランニング、一歩一歩のストライドが全てゴールであり、アチーブメントである。今日ランニングできたこと、今走れている自分が最も重要なこと。なぜなら、その積み重ねでしか絶対に遠くの目標にたどり着けないから。
・だからこそ、もしランニングが辛いと感じる時も、ランニングから逃げるのではなく、辛い・苦しいということをそのまま受け容れ、ランニングそのものにフォーカスする。
・ランニングを終えた時に大切なのはタイム・距離・ペースといった数字だけではなく、自分がどう感じたか、次も走りたいと思えたか、という主観である。この感覚が「長期的な目標へのコミットメントを毎日し直すこと」を可能にする。

そして、上記に加えて最も重要な点として繰り返されるのが、「全てのラン、全ての一歩から学べることがある」ということです。うまくいったランも、そうじゃないランも、短いランも、長いランも、速いランも、遅いランも、気分が良かったランも、そうじゃないランも、とにかく、全てのランの全ての一歩から学べることがあるという発想。

この一連の
・始めることが最も大変で、最も尊いことである
・とにかく始めてさえしまえば、あとは自分の体や心が適応しようとするからそれに任せる
・遠くのゴールを見据えて、小さな一歩を繰り返すことが大切
・辛い時にもあるがままを受け容れて進む
・目の前のことにフォーカスする
・客観的な数字以外に大切にすべきものがある
・全ての小さなことから学べることがある

という教訓は、ランニングやスポーツだけでなく、仕事・プライベート・それらを全部ひっくるめて通底している根本的な学びだと感じるようになりました。そう感じるようになったのは、ある書籍を読んだこともきっかけでした。

村上春樹が走ることについて語ったこと

小説家の村上春樹が、ランニングについて語った「走ることについて語るときに僕の語ること」という、ランナーにとってある種のバイブル的になっている書籍の中で、以下のように語っています。

"僕はこの冬に世界のどこかでまたフル・マラソン・レースをひとつ走ることになるだろう。そして来年の夏にはまたどこかでトライアスロン・レースに挑んでいることになるだろう。そのようにして季節が巡り、年が移っていく。僕はひとつ年を取り、おそらくは小説をひとつ書き上げていく。とにかく目の前にある課題を手に取り、力を尽くしてそれらをひとつひとつこなしていく。一歩一歩のストライドに意識を集中する。しかしそうしながら同時に、なるべく長いレンジでものを考え、なるべく遠くの風景を見るように心がける。・・・中略・・・個々のタイムも順位も、見かけも、人がどのように評価するかも、すべてあくまで副次的なことでしかない。僕のようなランナーにとってまず重要なことは、ひとつひとつのゴールを自分の脚で確実に走り抜けていくことだ。尽くすべき力は尽くした、耐えるべきは耐えたと、自分なりに納得することである。そこにある失敗や喜びから、具体的な ― どんな些細なことでもいいから、なるたけ具体的な ― 教訓を学び取っていくことである。"

小説家がランニングについてどういう風に捉えているのか興味があって読んでみたのですが、あまりにNikeのガイドで語られていることと内容が似通っていてびっくりしました。そして、この文章が書かれたのは、奇しくも2006年、Nike+が生まれた年。

もちろんそれはただの偶然ですが、たまたま内容が似ているのではなく、むしろ「これらはランニングにおける本質的な事柄であり、であるがゆえに内容が似通っている」ということではないかと思います。

「最近走り始めたばかりの自分がいきなり本質がわかるわけないだろ」と自分でも思いながらも、一方で一部のエリートランナー、速い人、長く走れる人だけがたどり着けることだけがランニングの本質だとは必ずしも限らないのでは、とも思います。

「身体で考える」という新しい世界

これまで書いてきたようなことは、文章にしてしまえば他にもあるように感じますが、それを「走りながら身体に覚え込ませていく」というのは、今までと全く違う行為でした。身体の動き、トレーニングのリズムやベースとリンクした形で、頭だけでなく身体で理解していくことを可能にします。さらにそれらの主観的な変化や進歩を、具体的なペースや距離や時間といった客観的な数値に置き換えてトラッキングして積み上げていくということ、さらにそれをグローバルで何万人というランナーに一気に届けることは、まさにテクノロジーがあってこそ可能になります。どれだけ優秀なコーチであっても、本人だけでコーチングできる範囲は限られています。

ナイキランクラブは、ナイキの思想である「体があれば、誰でもアスリートだ」というものが結晶化したサービスだと感じました。

そして、頭でばかり考えていた観念的な事柄を、「身体で考える」ということができるようになり、大げさに言ってわずか3ヶ月で人生観が少し変わりました。

テクノロジーがもたらす個人へのポジティブな影響があまりに素晴らしかったので思わずnoteに書きましたが、まだ変化は始まったばかりなので、今後どういう変化が起こるか楽しみです。

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