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『私たちは絶対、不幸なんかじゃ無かった』

もう二度と会えるはずはない
そう思っている
いま、あなたがどこで何をして
何を見て生きているか
そもそも、まだこの世界に居てくれているの

この季節が来る度、
必ず一度は、あなたを思い出す
私たちの関係が、築いてきた形が
決定的に壊れた、あの日

あなたもきっと、よく憶えているでしょう
私はずっと、覚えている

あなたは確かに泣いていた

身のうちに荒れ狂う嵐
引き返せない悲しみ

予感していた
もう二度と戻る事はない
もう一度のチャンスは潰えた
その掌で、その拳で
粉々に砕いてしまったの

響き渡る咆哮は青空に溶けて
されど、今でも私の耳のうちに響く
蝉の声が悲しくて
戸惑う私の手を引く彼女
すぐにまた連れ戻されて
昏い部屋の隅
彼女の額を打ち付ける音が
廊下に谺す

それでも、あなたを悪く思った事は多分
一度も無いの
もう二度と戻る事はない
あの真昼の部屋で
あなたは確かに泣いていた
私はあなたが居なくなること
予感して泣いた

今は誰もいない
あの部屋
私は何度も立ち帰る
あの日のあなたの姿を
誰も居ないそこに映す
きっと違う、もう顔も朧
私は何が出来た?
あなたは今、何を想う

幸せならいいね
いつかまた会えたなら
間接的でも構わない
ただ一言

感受性の一部を
やさしさの一部を
繊細さと神経質な性格の一部を
あなたが居たという記憶を
遺してくれて、ありがとう

小林秀雄と南こうせつ
追いかけていた作家の夢
それを共に見ていた彼女を
まだ憶えていますか
消えたあなたが帰ってきた時
あなたの胸の中に飛び込んで泣いた
小さな女の子を
まだ憶えていますか

私はあなたが確かに好きでした
もう覚えてないけど
今でも知らない涙が双眸に溢れる理由は
多分、そういうことだと思うの
お父さん

また夏が来たね
私の大好きな季節、私の季節
あなたは、どんな世界を見て
どんな今を生きていますか

私たちはいつだって
絶対、不幸なんかじゃ無い
今だって、どんな時だって

揺れる向日葵
求めるその幸せは
あなたの掌の中に

いつだって、どんな時だって
そうなのよ

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