マガジンのカバー画像

劇評

15
運営しているクリエイター

記事一覧

劇評・鬼滅の刃 無限列車編

劇評・鬼滅の刃 無限列車編

ラテン語で霊魂を意味するAnimaを語根とする言葉で、代表的なものが二つある。物を意味するalをつけ「命が吹き込まれた物」を意味するAnimal。そして動詞にあたるateと、物事を表すionをつけたAnimationだ。直訳すれば「命を吹き込む事」といえる。
 ただの筆記具の痕跡に過ぎない絵が、その時間軸を連ね、音と声を与えた瞬間、目の前に実在するような存在感を獲得する。そこに心を掴まれる物語が加

もっとみる
劇評・映画大好きポンポさん

劇評・映画大好きポンポさん

 本作を見ていてふと気付いた。Directorとは面白い言葉だな、と。
 Directとは管理する、運営する、指揮する、監督するといった動詞のほかに、まっすぐ、直接、直行などの形容詞にもなる。
 強引な解釈だが、その思想や行動が作品や組織そのものと直結する存在と受け取れば、なるほどその責任の重さも意味できる気がする。
 重責、期待、経費、名誉。天秤の反対側に何を乗せても釣り合いそうもないものを目一

もっとみる
劇評・チェルノブイリ

劇評・チェルノブイリ

※本稿はネタバレ要素を含みます。未見の方はご留意ください。

 中国秦王朝の二代皇帝、胡亥の宦官である趙高は、一匹の鹿を胡亥の前に差し出し「珍しい馬を手に入れました」と言った。
 胡亥が「鹿ではないのか」と問い返すと、趙高は左右に居並ぶ廷臣たちに「これは馬であろう?」と問い返す。
 廷臣たちは「馬です」「鹿です」と各々答えたが、鹿と答えた廷臣は、後に趙高の手により謀殺された。
 これは謀反を画策し

もっとみる
劇評・シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

劇評・シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

 いきなりネタバラシから書いてしまおう。

 本作はシティーハンターことリョウと相棒カオリが、背水に立たされた依頼人からもたらされたトラブルを、追ったり追われたりドンパチ撃ち合ったり美女にもっこりしたりカオリにどつかれたりしながら解決し、最後はGetWildのフェードインで幕を閉じるお話である。
 そう、純度100%の紛れもない『シティーハンター』なのだ。

 当たり前のように思われるかもしれない

もっとみる
劇評・ 劇場版シティーハンター:新宿プライベート・アイズ

劇評・ 劇場版シティーハンター:新宿プライベート・アイズ

 元禄年間、甲州街道の新たな宿場町として誕生し、江戸の行楽地としても発展。行き過ぎた風紀の乱れを理由に、一度廃駅の憂き目に会うもその後復活。明治維新後は鉄道整備などで人の流れが加速度的に増え、関東大震災に際し被害の少なかった武蔵野台地の東端部一帯に人が流入。戦後も闇市などを経て成長を続け、名実共に東洋一の歓楽街を形成。駅西口の浄水場跡地にオフィス街が生まれると、静岡県の人口に匹敵する人が1日で行き

もっとみる
劇評・NAVY SEALS

劇評・NAVY SEALS

※本稿は旧ブログからの再掲になります

 マリオテニスの生みの親、高橋氏が語った言葉が印象に残っている。
 テニスのゲームを作ろうとして、本物と同じサイズのコートや人間を用意すると、つまらなくなってしまうことがある。だから僕らは、テニスの面白さをデフォルメしたゲームを作ったんです、と。
 なるほど、左右の移動一つとっても、現実はそのスピードを調整できるが、ゲームは動くか否かの二択しかないことが多い

もっとみる
劇評・カメラを止めるな!

劇評・カメラを止めるな!

※本稿はネタバレ要素を含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

 映画は魔法である。人が空を飛び、宇宙人が地球を侵略し、大怪獣がビルをなぎ倒せば、死人だって蘇る。
 だが、誠に不本意ながら、魔法は存在しない。映画という魔法は、スタッフからシステムに至る、無数の現実が作り上げたフィクションなのだ。
 しかしそのフィクションを操る人々は、ただの一瞬も不真面目に映画と向き合ってはいない。最高の魔法を作り

もっとみる
劇評・虐殺器官

劇評・虐殺器官

『2001年宇宙の旅』などで知られるSF作家、アーサー・C・クラークは、SF作品の3法則を示している。

・高名で年配の科学者が可能であるといった場合。その主張はほぼ間違いない。また不可能であるといった場合、その主張はほぼ間違っている。
・可能性の限界を計る唯一の方法は、不可能とされることまでやってみることである。
・十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。

 最初の項目はSFあるある

もっとみる
劇評・機動警察パトレイバーREBOOT

劇評・機動警察パトレイバーREBOOT

最近よくTVで昭和中、後期のTVアニメの再放送を見かける。当時本放送であれ再放送であれ、リアルタイムで観ていた自分には甚く懐かしいのだが、たまに違和感を覚えることがある。
 いわゆる『思い出補正』と呼ばれる、細部の記憶の齟齬はもとより、演出のテンポや声優の演技に、なんとも言えないこそばゆさを感じるのだ。
 時世の流行、自身の経験、その他複合的な要素がもたらす感性の変化。そういった違和感を含めてまた

もっとみる
劇評 シン・ゴジラ

劇評 シン・ゴジラ

※本稿には、いわゆるネタバレ要素が含まれます。未見の方はご留意ください。

 1954年、日本映画史上初の特撮怪獣映画『ゴジラ』が封切られた。
 海から突如姿を表す異形の獣。その一歩が見慣れた街を瓦礫に変え、その一閃が建物を火柱に変え、あらゆる兵器や施策を嘲笑うように歩き続ける一個の生命。
 終戦から9年。焼け野原の記憶が未だ強く残る人々にとって、再生の道を歩き出した首都を蹂躙するその姿は、どのよ

もっとみる
劇評・重版出来!

劇評・重版出来!

 まず白状する。私は本作の原作漫画を未読……否、一巻しか読んでいない。それもドラマ化の噂を聞いてから読んだ。
 なぜ続きを読まなかったか。ドラマを全部見てから読みたいと思ったからだ。

 女子柔道のホープと期待されていた黒沢心は、膝の怪我でその道を断念。失意の中活路を見出したのは、柔道を始めたきっかけでもあり、海外遠征先でコミュニケーションの架け橋となった、漫画を作る仕事だった。
 面接で社長を投

もっとみる
劇評・THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット

劇評・THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット

 思った以上に満足して、この原稿に向かっている。

 ディレクターズカット版という言葉に、どこか蛇足的な意味合いを勝手に感じ取っていたためだろうか。ある意味思った通りの出来栄えに、ようやくこの映画を見たと言えるような気さえしている。
 80年代アニメの終焉と90年代アニメの開闢を、一手に引き受けたアニメがある。ロボットアニメでありながら現代劇、警察モノでありながら庶民的という、今や定番とも言える二

もっとみる
劇評・BAKUMAN。

劇評・BAKUMAN。

 漫画の神様こと手塚治虫が漫画にもたらした革命的手法は、文字通り枚挙に遑がないだろう。その中のひとつに、クローズアップというものがある。
 それまでの漫画の多くは、一コマ一コマが画一的な形で、いわゆるアングルが固定されていた。これは芝居を見る観客の視点から来ていると言われている。
 手塚はそんな時代、キャラクターの顔をアップしたり、舞台全体を1ページに入れたりという、今では当たり前となった手法を編

もっとみる
劇評・PIXELS

劇評・PIXELS

 ゲーム業界で都市伝説のように囁かれて久しい、FPSの熟練プレイヤーを軍がスカウトしているという類の噂。
 モータースポーツの世界では「グランツーリスモ」を使ったレーサー育成プログラムが何年も前から稼働しているが、実際砂埃舞う灼熱の戦場に赴き、何時間も戦うのとはわけが違うと、あるいは一笑に付される話かも知れない。
 だとすれば、30年も前にTVゲームで活躍しただけのおっさんが世界を救おうなど、荒唐

もっとみる