マガジンのカバー画像

エッセイ

12
これまでに書いたエッセイをまとめます。
運営しているクリエイター

記事一覧

川内倫子さんと滋賀

川内倫子さんと滋賀

 エッセイ集『そんなふう』で、川内倫子さんにすっかり魅了された私。

 滋賀県立美術館でharuka nakamuraさんと“写真とピアノによるセッションライブ”をされることを知り、
「好きなふたりが共演するらしい、すごい!」
と恋人に話すと、彼は連日Webページをチェックし、セッションライブのチケットを予約して、滋賀旅行を約束してくれた。

 ひとりでは行くことを決められなかったと思うので、彼の

もっとみる
川内倫子さん『そんなふう』

川内倫子さん『そんなふう』

 2022年12月26日、恋人と一緒に、クリスマスプレゼントを探しに行った時のこと。
 渋谷の本屋さんで、写真家の川内倫子さんのエッセイ集『そんなふう』を見つけ、裏表紙の言葉に釘付けになった。

 いつか私は母親になるのだろうか。子育てをうまくできるのだろうか。子どもをしんどくさせるのではないか。母親になる可能性を持った身体で生きていることがこわい。
 そんなふうに考えていることを共有しているから

もっとみる
女性として生きること

女性として生きること

生まれ持った性を、自然に受け入れて生きている人は、
自分の性に対して、向き合う時間を持っている人は、
どれだけいるだろう。

 私は最近まで、女性として生きていることを、嬉しく思えずにいた。

 理由は様々ある。
 妊娠できる身体であること。
 搾取される側になりやすいこと、経済的に弱い立場になりやすいこと。
 
 15歳の頃から5年ほど「私は母の失敗作だ」と思っていたこと、幼少期から人の目を過度

もっとみる
物語は続く|金銭的自立と金銭的孤立

物語は続く|金銭的自立と金銭的孤立

このエッセイは2022年3月4日開催『月の正夢』で発売されたエッセイ集に掲載されています。

 西村亮哉くんから「月の正夢に向けて、大切な人との気づきをテーマにエッセイを書いてほしい」と頼まれた。
 彼とは、四年前に『物語は続く』と名付けられた企画で共演して以来、お互いが必要だと感じるその時々で関わり続けている。
 彼は、私にとって大切な人で、彼にとっても、私は大切な人だと思う。
 今回は、彼との

もっとみる
自分を磨くこと、鏡になること

自分を磨くこと、鏡になること

このエッセイは2022年3月4日開催『月の正夢』で発売されたエッセイ集に掲載されています。

 年の初め、君が代のような人と、初詣に行った。神社と富士山が見える海辺の町で、それぞれが用意した話題を思い思いに話した帰り道、話し足りずに入ったカフェで、用意した話題の先にある対話をした。
 その中で、作家として生き続ける人になりたいと思った。

 先日、自分と対話をしながら絵を描く女性と、四時間ほどかけ

もっとみる
失恋は痛かった。全ての成長に痛みは伴うのか。

失恋は痛かった。全ての成長に痛みは伴うのか。

 19歳の頃、いくつかの理由が重なり合って、何人かの“大切な人”への信じる心を失った。

 理由というのは、私自身の失恋と、信頼する人の不倫と、信頼する人の恋愛観によって崩れた人間関係。
 全てが別々のところで、ほぼ同時期に起こった。
 
『世界は自分の写し鏡』という考え方を、不完全な状態で持っていた私は、起こった全ては自分の責任、自分の未熟さ故だと思い、自分を責めた。

 今思えば、他者との線引

もっとみる
相手と自分を認めた上でする、本当の対話

相手と自分を認めた上でする、本当の対話

「準備した言葉を話し終えてからが、本当の対話なんだけどね〜」
 そんなことを言いながら、彼は“凪ちゃんに話したいことリスト”があることを教えてくれた。

 批評家であり作家である東浩紀さんが、8時間のトークイベントをする理由として『用意した話題の先に本当の対話がある』とお話しされていたらしい。

 チラッとしか見えなかったそのリストは、スマートフォンの画面いっぱいに連なっていて、私は「そんなの作っ

もっとみる
結婚を考える相手がいるなら、相手の育ちを見なさい

結婚を考える相手がいるなら、相手の育ちを見なさい

 2022年9月9日、数ヶ月ぶりに会った祖父から、「結婚を考える相手がいるなら、相手の育ちを見なさい」と言われた。

 育ちは選べるものじゃないし、その人の過去よりも今を見た方がいいんじゃないかな。
 出会ってから共有した時間と、その先で共有する時間の方が大切で、育ちは関係ないんじゃないかな。

 そんなことを思いながら、話の続きを聞いていると、祖父は私の目をまっすぐに見て、私たち孫の教育にどんな

もっとみる
はやく30歳になりたい

はやく30歳になりたい

 はやく30歳になりたい。

 こう言うと、大抵の人は驚き、「女性なら、音楽をするなら、若い方が良くない?」「年齢を重ねるの怖くない?」と、聞く。

 何者にもなれないのなら、ずっと子どものままでいたいと思うこともある。

 でも、はやく30歳になりたい。

 信頼する人に「今も可愛いけど、30歳になったらもっと可愛くなってると思う」と言われたことの、答え合わせをしたい。

 忘れないよう、ゾロ目

もっとみる
密やかに、寂しさを糧にする

密やかに、寂しさを糧にする

 小さな男の子が、大きいリュックを背負って歩いている姿を見ると、泣きそうになってしまう。
 多分、弟と重ねてしまうから。

 小学2年生からサッカーを習い始めた弟。
 上半身よりも大きいリュックを背負って練習へ向かう姿を、私含め家族で見守っていた。

 そんな弟は、高校に入ってサッカーをやめることを決めた。
 事情はさておき、やめることを監督へ伝えた日、「本当にやめるってなるとやっぱり、涙が出た」

もっとみる
人には人の役回り

人には人の役回り

 半袖のTシャツ、ショートパンツ、白い靴下、本革の靴、頭には3本のダッカールピン、というおかしな格好で、23時過ぎに海へ向かったのは、高校生の弟から「海に携帯落とした」と連絡があったからだ。

「海に携帯落とした。11時を過ぎたら高校生は補導されるから迎えに来てほしい」
「海の中に落としたの?」
「いや、砂浜。目印はあるから、探せる」
「近くに大人の人いないの?」
「大人っぽい人はいるけど、いない

もっとみる
育てられる私から、育てる私になるまで

育てられる私から、育てる私になるまで

 幼い私は、母に厳しく育てられた。
 食事の仕方、友人との遊び方、目上の人との関わり方、様々なことで怒られた。

 決してやんちゃな女の子だったわけではない。
 読書が大好きで、一日に食べるお菓子の数やテレビを見る時間を決めて守るような、背の順で一番前になることへ責任感を覚えるような、サンタさんの存在を少しも疑うことのないような、そんな女の子だった。
(母に「サンタさんって親なんだよ」と言われる小

もっとみる