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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#書評

ハーラン・エリスン 『愛なんてセックスの書き間違い』



★★★★★

 今年の5月に刊行されたハーラン・エリスンの初期短篇集です。訳者は若島正と渡辺佐智江。
 国書刊行会SFが「未来の文学」と銘打ち、60〜80年代の幻のSF作品を集めてリリースしており、そのシリーズの1冊です。

 とはいえ、内容は非SF作品に限定されています。解説によると、エリスンはSF作家として地位を確立する前、様々な媒体に多様な作品を発表していたそうです。そうした作品が集めら

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橘玲 『人生は攻略できる』



★★★☆☆

 今年の3月に出た橘玲の新刊です。
 橘玲がこれまでの著作で書かれた内容を若者向けにまとめた一冊です。僕は連休の半日でさっと読んでしまいました。さっと。

 正直なところ、あまり目新しい情報はなかったです。僕が橘玲の著作をたくさん読んでいるからでしょうね。ページをめくっては、「あ、その話ね」という感じで、まるで復習をしているようでした。
(これ、進研ゼミでやったやつだ!みたいに)

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安西徹雄 『英文翻訳術』



★★★★☆

 1995年にちくま学芸文庫から出た本書は2016年時点で第25刷発行とロングセラーです。前回の『英文の読み方』以上に長く読み継がれていますね(なんと20年以上!)。

 章ごとに英文を日本語に直す(つまり翻訳する)上で引っかかるところを挙げて、その対処法を指南するという構成になっている本書。一文からまとまった分量の文章まで、様々な長さの英文で演習ができます。その点では実にテクニ

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行方昭夫 『英文の読み方』



★★★★☆

 2007年に岩波新書から出版された本書は2017年8月の時点で10刷となっているので、10年以上読み継がれているということになります。これだけでも本書が名著であることがわかると思います。
 著者の行方氏は東大名誉教授で、サムセット・モームなどを訳されています。モームだけを教材に用いた翻訳本も何冊か出されているようです。

 本書では、英文和訳から翻訳へと至る筋道を、5つのステッ

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Ernest Hemingway “For Whom the Bell Tolls” / ヘミングウェイ 『誰がために鐘は鳴る』

★★★☆☆

 言わずと知れたノーベル賞作家ヘミングウェイの古典作品です。訳者は大久保康雄氏。

 新潮文庫から高見浩訳の新訳版も出ているようですが、僕は旧訳版で読みました。どうしてなのか? 自分でもわかりません(購入したときは出てなかったのかも?)。
 1973年の訳なので、ところどころちょっと古いかな、と感じるところがありました。高見浩訳ヘミングウェイが好きなので、新訳版で読めばよかった……か

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岩波書店編集部編 『翻訳家の仕事』



★★★★☆

 2006年に岩波新書から出た本書は、雑誌『図書』に掲載されていた「だから翻訳はおもしろい」という連載をまとめたものです。名だたる翻訳家総勢37名が翻訳について語っています。

 主な翻訳者は亀山郁夫、柴田元幸、高見浩、野崎歓などなど。今年、全米図書賞翻訳部門を受賞した多和田葉子や、村上春樹を英訳しているアルフレッド・バーンバウムもいます。

 翻訳というのはどういう行為なのか?

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J.D.サリンジャー 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』



★★★☆☆

 今年の6月に出たサリンジャーの短篇8篇、中篇1篇を収めた一冊。訳者は金原瑞人。

 もともと雑誌に発表されたものの単行本未収録だった作品を集めているので、執筆年にばらつきがありますが、『ハプワース-』を除くと、1940年代に発表されたものです。初期の作品ですね。
 最初の二篇は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の元になっており、作品内にも出てくるエピソードが描かれています。

 

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Jodi Picoult 『small great things』



 先週の金曜日は祝日だったため、うっかり更新を忘れてしまいました。できるだけ毎週一回はアップするようにしているのですが、忙しいとつい怠ってしまいます。反省反省。

★★★★☆

 2016年に出版されたジョディ・ピコーの小説。未訳なので、ペーパーバックで読みました。今年出た『A Spark of Light』が最新作なので、その一つ前の作品になります。
 ちなみに、ジョディ・ピコーの作品はハヤ

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橘玲 『言ってはいけない中国の真実』



★★★★☆

 2015年に『橘玲の中国私論』として出版されたものを改題して文庫化したもの。文庫化の際に一章分が加筆されています。
 3年前に出たとはいえ、内容は古びていないと思います。本書に限らず、数年で古びてしまう内容のものを書く著者ではないので、いま読んでも何の問題もないでしょう。

 日本にとって近くて遠い国——中国——を様々な角度から紐解いている本書。正直なところ、僕は中国に対して漠

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エドワード・ゴーリー 『音叉』

★★★★☆

 6月から始まったエドワード・ゴーリーの新作3点連続刊行のラストを飾る本作。原題は『The Tuning Fork』。訳者はもちろん柴田元幸。

 いつものことながら、あらゆる点で安定したクオリティが保たれています。これまでのゴーリー作品が好きなら、楽しめるでしょう。
 ただ、解説でも触れられているとおり、話の筋はいたってストレートです。条理に添わないのがゴーリー節ですが、わりかしふ

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中田考 『みんなちがって、みんなダメ』

★★★★☆

 イスラーム教徒でもあるイスラーム学者、中田考による語り下ろし形式(一部インタビュー形式)による人生指南書的な一冊。
 表紙がライトノベルみたいなのが気になりますが、内容とは一切関係ありません(どうしてこの装丁にしたのでしょう???)

 ふだん意識することはあまりありませんが、僕も含めて大半の日本人が浸っている資本主義や領域国民国家やリベラルな価値観、ものの見方を快刀乱麻にぶった切

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橘玲 『朝日ぎらい』

★★★☆☆

 書名とは裏腹に、朝日新書から今年出版された橘玲の新書です(もっとも、そこにこそ本書の意義があると書いてありますが)。
 日本の「リベラル」と世界基準のリベラリズムを比較することで、日本の思想的な問題点や特徴を洗い出しています。

 橘玲の著書はどれも基本にあるのが「エビデンス・ベースド」です。主観と客観(事実と意見)をごっちゃにしない、統計的・科学的な根拠を示す、といったシンプルな

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ジュリー・オリンジャー 『溺れる人魚たち』

★★★☆☆

 短篇小説を一冊読めば、その作家のことが大まかにわかる。

 無駄を省いた上でまとめあげる技術、物語を書くためのアイデアや舞台設定、文体、ヴォイス、モチーフ、テーマ……短篇小説を一冊書くには、そういった要素を作品ごとにまとめ上げなければならない。そうしてできあがった作品群を読むと、その作家の力量、方向性、世界観の概略をつかむことができる(もちろん、長篇小説を一冊読んでもその作家のこと

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エドワード・ゴーリー 『失敬な招喚』

★★★★☆

 せっかくなので、先々週に引き続き、先日出たばかりのエドワード・ゴーリーの新刊をご紹介します。訳者はもちろん柴田元幸。

 原題は『THE Disrespectful Summons』。直訳すると「失礼な呼び出し」といった意味です。悪魔がやって来る話なので、上記のようなタイトルになったのでしょう。的確です。

 ちなみに、裁判などで証人を呼ぶのは『召喚』、悪魔を呼び出すのは『招喚』の

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