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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#海外小説

岸本佐知子編訳 『変愛小説集Ⅱ』

★★★☆☆

 2010年刊行のオムニバス第二弾。ミランダ・ジュライやジョージ・ソーンダーズなど、岸本佐知子訳でお馴染みの作家からあまり知らない作家まで11篇収録。ちなみに、ミランダ・ジュライの『妹』は『いちばんここに似合う人』にも収録されています。

『変愛小説集Ⅰ』で定まったコンセプトを踏襲しているので、テイストというか方向性は同じです。Ⅰが気に入ればⅡも好きでしょう。そうでなければご縁がなか

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岸本佐知子編訳 『変愛小説集Ⅰ』

★★★☆☆

 2008年刊行。2014年に文庫化されているオムニバス本。恋愛ではなく〝変〟愛という似て非なるところが岸本佐知子風味です。収録されている作家もニコルソン・ベイカー、ジュディ・バドニッツと岸本佐知子が翻訳している方がちらほら。

 シリアスなものから掌編的なもの、小話風といろいろなテイストが味わえます。とはいえ、ストレートな恋愛小説はありません。七色の球種を備えているけど、直球は投げ

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ジュディ・バドニッツ 『イースターエッグに降る雪』

★★☆☆☆

 ジュディ・バドニッツの長篇処女作。通算二冊目の作品。訳者は木村ふみえ。1999年刊行。翻訳版は2002年。

 祖母、母、娘、孫と四世代にわたるサーガというところが、トンミ・キンヌネンの『四人の交差点』を思い出しました。とはいえ、テイストはかなりちがいます(寒そうなところは似ていますけど)。

 前半部分の祖母イラーナが寒村から亡命してアメリカに行くまでと、子供が産まれ、孫が産まれ

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ジュディ・バドニッツ 『空中スキップ』

★★★★☆

 1998年発刊のジュディ・バドニッツの処女作。翻訳版は2007年。岸本佐知子訳。23の短篇が収録されています。
 一つひとつが短めですが、ショートショートやサドン・フィクションとも毛色が違う摩訶不思議な短篇集です。

 3作目の『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』と比べると、良くも悪くも瑞々しさと軽さを感じさせる本作。良い点としては、さらりと読めるところでしょう。悪いところは、いささ

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ジュディ・バドニッツ 『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』

★★★★★

 2005年発表の三作目となる短篇集。翻訳版は2015年刊行。訳者は岸本佐知子。
 なんとも奇妙な味わいのする小説で、岸本佐知子が好きそうです、実に。

 絵本を思わせる寓意性に富んだ話、夢のように奇妙な状況、その反面、現実に準拠した展開と、独自の世界観をもった作家です。
 不穏な空気が漂いつつも恐怖というわかりやすい形には決して着地しない、寓話的ではあるけれど、寓話ではない(教訓を

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チャック・パラニューク 『インヴィジブル・モンスター』

★☆☆☆☆

 1999年に発刊。翻訳版は2003年にハヤカワから出ています。訳者はお馴染み池田真紀子。
 順番としては『サバイバー』の後に出版されていますが、実際は『ファイト・クラブ』よりも前に書かれたそうです。お蔵入りになっていたデビュー作ということみたいです。
 どうしてお蔵入りになっていたのかというと、出版社に持ちこんだところ、〝理解不能〟とリジェクトされたからだそうです……。

〝意味不

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チャック・パラニューク 『サバイバー』

★★★☆☆

『ファイト・クラブ』のあと、1999年に出版された本作。翻訳版は2001年出版。訳者は同じく池田真紀子。
 チャック・パラニュークの小説は2005年の『ララバイ』以降は翻訳出版されていません。売れ行きが芳しくなかったのでしょうか?
 2015年に『ファイト・クラブ2』というコミック版がアメリカで出ているところをみると、行き詰まってるのかもしれません。出世作の続編に手を出すのは、最後の

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アーネスト・ヘミングウェイ 『日はまた昇る』

★★★★☆

 言わずとしれたヘミングウェイの長篇デビュー作。2012年にハヤカワepi文庫から出た新訳版で読みました。訳者は土屋政雄。いま話題のカズオ・イシグロの『日の名残り』や『わたしを離さないで』などの翻訳をしている方です。ううむ、タイムリー。

 とはいえ、同じノーベル文学賞受賞者の作品といえども、ヘミングウェイは1954年受賞なので、63年も前のことです。カズオ・イシグロと関連づけるのは

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トム・ジョーンズ 『コールド・スナップ』

★★★★☆

 1995年に刊行されたトム・ジョーンズの2作目の短篇集。1作目の『拳闘士の休息』は岸本佐知子訳でしたが、こちらは小説家の舞城王太郎訳です。

 表紙にどどーんと翻訳者の名前が載っています(トム・ジョーンズの名前よりも大きい)。正直いって、そういうのってどうかと思います。村上春樹訳でもここまで露骨ではありません。「舞城王太郎」の名前で売りたいという下心が透けて見えます。わからなくはな

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アーネスト・ヘミングウェイ 『こころ朗らなれ、誰もみな』

★★★★☆

 ヘミングウェイの短編を集めた選書です。19篇収録。柴田元幸翻訳叢書のシリーズです。

 全集を読んでしまったので、当然、読んだことのある作品しか収録されていませんでした。
 なんで読んだの? バカなの?という声が聞こえてきそうですが、訳者が変わるとどうなるのかな?という好奇心が湧いてきて手に取った次第です、はい。

 選んだ作品は概ねよいと思いますが、『キリマンジャロの雪』と『フラ

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アーネスト・ヘミングウェイ 『全短編Ⅱ』

★★★★☆

『全短編Ⅰ』を読んだときに、Ⅱを読むかどうかは決めかねてる、と書きましたが、気がついたら読んでいました。
 Ⅱは未発表作品を含んでいます。解説と年譜もあり、Ⅰとは別の意味でも読み応えがあります。Ⅰの方が有名な作品が多いのですが、クオリティは変わりません。ヘミングウェイをしっかりと堪能できます。

 ヘミングウェイというと、無駄を廃し、研ぎ澄まされた文体という印象があり、それは本作にも

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クレメンス・マイヤー 『夜と灯りと』

★★★★☆

 旧東ドイツ出身の作家による短篇集。12篇収録。2010年にクレストブックスから出ています。

 社会的に見棄てられた人々が次々と出てきます。市井の人々ではなく、失業者、囚人、過疎化した村の独居老人など、窮乏した生活をおくる下層に位置した人たちしか出てきません。
 そして、物語にも救いはありません。
 心がホッコリするようなよい話とは無縁です。陰鬱でみすぼらしく、希望など欠片もありま

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カート・ヴォネガット 『人みな眠りて』

★★★★★+♥

 ヴォネガットの未発表作品を集めた短篇集。1950年代に書かれたものなので、まだ作家としての地位を確立する前のものです。没後10年目にしておそらく最後の著作となるでしょう。蔵出しの1冊です。

 ヴォネガットは自分のお父さんに「おまえの本には悪人が出てこなかったなあ」と言われたそうですが、たしかにヴォネガットの小説には真の悪人というべき人は出てきていない気がします。すべての作品

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アリス・マンロー 『ジュリエット』

★★★★★

 2004年、アリス・マンローが73歳のときに刊行された短篇集。翻訳版は2016年。原題は『Runaway(家出)』ですが、映画化された連作短篇に倣って『ジュリエット』にしたそうです(映画のタイトルは『ジュリエッタ』)。

 アリス・マンローの小説がいまひとつ好きではないという友人が、その理由として、なんとなく話がぼんやりしているから、と言っていました。
 なるほど。そう言う気持ちも

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