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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#翻訳小説

ジョン・ケネディ・トゥール 『愚か者同盟』

ジョン・ケネディ・トゥール 『愚か者同盟』

★★★★★

 気がついたら読書感想を投稿するのは2年ぶりです。そのあいだもいろいろ読んではいたのですが、なかなか感想を書いてアップする余裕がありませんでした。
 べつに誰が読むわけでもないのだからいいじゃないか、と思っていたのですが、ときどき思い出したかのように「スキしました」の知らせが届き、読んでくれる人がいるのだなあ、と励まされました。今後はできればこまめに投稿していきたいです。
 そして、

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ジョン・チーヴァー 『巨大なラジオ/泳ぐ人』



 黄色い表紙の短篇小説には外れがないという根拠のない信憑があるのですが(とはいえ、他に思いつくのはミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』くらい)、この本もその例に漏れず、当たりでした。

 チーヴァーは40年代から70年代に雑誌ニューヨーカーを中心に活躍した作家で、僕はレイモンド・カーヴァー絡みで名前を知りました。解説にも書いてありましたが、二人ともアルコール中毒になった経験があり、ひと

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Ernest Hemingway “For Whom the Bell Tolls” / ヘミングウェイ 『誰がために鐘は鳴る』

★★★☆☆

 言わずと知れたノーベル賞作家ヘミングウェイの古典作品です。訳者は大久保康雄氏。

 新潮文庫から高見浩訳の新訳版も出ているようですが、僕は旧訳版で読みました。どうしてなのか? 自分でもわかりません(購入したときは出てなかったのかも?)。
 1973年の訳なので、ところどころちょっと古いかな、と感じるところがありました。高見浩訳ヘミングウェイが好きなので、新訳版で読めばよかった……か

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J.D.サリンジャー 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』



★★★☆☆

 今年の6月に出たサリンジャーの短篇8篇、中篇1篇を収めた一冊。訳者は金原瑞人。

 もともと雑誌に発表されたものの単行本未収録だった作品を集めているので、執筆年にばらつきがありますが、『ハプワース-』を除くと、1940年代に発表されたものです。初期の作品ですね。
 最初の二篇は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の元になっており、作品内にも出てくるエピソードが描かれています。

 

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ジュリー・オリンジャー 『溺れる人魚たち』

★★★☆☆

 短篇小説を一冊読めば、その作家のことが大まかにわかる。

 無駄を省いた上でまとめあげる技術、物語を書くためのアイデアや舞台設定、文体、ヴォイス、モチーフ、テーマ……短篇小説を一冊書くには、そういった要素を作品ごとにまとめ上げなければならない。そうしてできあがった作品群を読むと、その作家の力量、方向性、世界観の概略をつかむことができる(もちろん、長篇小説を一冊読んでもその作家のこと

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エルモア・レナード 『オンブレ』

★★★☆☆

 今年の2月に新訳として復刊されたレナードの初期西部劇作品。『三時十分発ユマ行き』も同時収録。訳者は村上春樹。
 いわゆる積ん読状態だったのですが、ようやく読みました。

 語り手の『私』は特にどうということもない人物で、中心となっているのは『オンブレ』の異名を持つジョン・ラッセルです(オンブレとはスペイン語で「男」という意味)。このクールで、独自の哲学を持つ男を中心にして話は進みま

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Yiyon Li 『A Flawless Silence』

★★★★☆

『千年の祈り』(クレストブックス)を筆頭に何冊も翻訳されているイーユン・リーの短篇です。僕も2、3冊ほど読みましたが、完成度の高い作品が多かった印象が残っています。本作はニューヨーカー2018年4月23日号掲載。

 主人公のミンは40代の女性。夫のリッチと双子の娘といっしょにサンフランシスコで暮らしています(すでに独り立ちしている息子もいます)。
 彼女のもとには毎年誕生月に、二度

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ERNEST HEMINGWAY 『A FAREWELL TO ARMS』

★★★★☆

 Random Houseから出ているVintage Classicsシリーズで読みました。新潮文庫『武器よさらば』(高見浩訳)も同時に読んだので、読み終えるのにけっこう時間がかかりました。
 具体的には片手に一冊ずつ持ち、英文を何行か読んだあとで日本語訳を確認するという読み方です。最初は立ったまま電車で読むのが大変でしたけど、慣れるとなんとかなるものです。

 高見浩訳のヘミングウ

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J.D.サリンジャー 『ナイン・ストーリーズ』

★★★★☆

 2009年にヴィレッジブックスから出た新訳版(といっても、もう9年も前ですが)。訳者は柴田元幸。
 いまでは文庫化されています。僕は当時買ったハードカバーを引っぱりだしてきて再読しました。

 シンプルな装丁とやわらかいクリーム色が素敵です。サリンジャーは自著の装丁には滅法うるさかったようで、それは翻訳本でも変わりません。写真や絵を載せるのもだめだし、解説をつけるのもNGだそうです

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岸本佐知子編訳 『変愛小説集Ⅰ』

★★★☆☆

 2008年刊行。2014年に文庫化されているオムニバス本。恋愛ではなく〝変〟愛という似て非なるところが岸本佐知子風味です。収録されている作家もニコルソン・ベイカー、ジュディ・バドニッツと岸本佐知子が翻訳している方がちらほら。

 シリアスなものから掌編的なもの、小話風といろいろなテイストが味わえます。とはいえ、ストレートな恋愛小説はありません。七色の球種を備えているけど、直球は投げ

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ジュディ・バドニッツ 『イースターエッグに降る雪』

★★☆☆☆

 ジュディ・バドニッツの長篇処女作。通算二冊目の作品。訳者は木村ふみえ。1999年刊行。翻訳版は2002年。

 祖母、母、娘、孫と四世代にわたるサーガというところが、トンミ・キンヌネンの『四人の交差点』を思い出しました。とはいえ、テイストはかなりちがいます(寒そうなところは似ていますけど)。

 前半部分の祖母イラーナが寒村から亡命してアメリカに行くまでと、子供が産まれ、孫が産まれ

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ジュディ・バドニッツ 『空中スキップ』

★★★★☆

 1998年発刊のジュディ・バドニッツの処女作。翻訳版は2007年。岸本佐知子訳。23の短篇が収録されています。
 一つひとつが短めですが、ショートショートやサドン・フィクションとも毛色が違う摩訶不思議な短篇集です。

 3作目の『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』と比べると、良くも悪くも瑞々しさと軽さを感じさせる本作。良い点としては、さらりと読めるところでしょう。悪いところは、いささ

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ジュディ・バドニッツ 『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』

★★★★★

 2005年発表の三作目となる短篇集。翻訳版は2015年刊行。訳者は岸本佐知子。
 なんとも奇妙な味わいのする小説で、岸本佐知子が好きそうです、実に。

 絵本を思わせる寓意性に富んだ話、夢のように奇妙な状況、その反面、現実に準拠した展開と、独自の世界観をもった作家です。
 不穏な空気が漂いつつも恐怖というわかりやすい形には決して着地しない、寓話的ではあるけれど、寓話ではない(教訓を

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チャック・パラニューク 『インヴィジブル・モンスター』

★☆☆☆☆

 1999年に発刊。翻訳版は2003年にハヤカワから出ています。訳者はお馴染み池田真紀子。
 順番としては『サバイバー』の後に出版されていますが、実際は『ファイト・クラブ』よりも前に書かれたそうです。お蔵入りになっていたデビュー作ということみたいです。
 どうしてお蔵入りになっていたのかというと、出版社に持ちこんだところ、〝理解不能〟とリジェクトされたからだそうです……。

〝意味不

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