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本の話

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本の感想のような何かを書いています。
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だから読者は感想しか書けない。

だから読者は感想しか書けない。

 ついに岡崎隼人の新刊が出た。こんなにうれしいことはない。生きててよかった。

 以下、岡崎隼人『だから殺し屋は小説を書けない(講談社)』の感想文のようななにか。

小説小説 18年ぶりの新刊である。岡崎隼人のデビュー作を僕が読んだのは15年ほど前なのであまり内容は憶えていないが、他の作品も読んでみたいと思う作家だっただけに2作目が刊行されて嬉しい。これを機に1作目も文庫化してほしい。
 物語は、

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悪魔の手毬唄考

悪魔の手毬唄考

 以下、横溝正史『悪魔の手毬唄』の感想文のような何かである。
 ※多少のネタバレ注意。作品の内容の感想ではあまりないですが。

登場人物が多すぎる 勘弁してくれ。
 登場人物が20人を超える作品はぜひとも、巻頭に家系図や主要登場人物一覧をつけてほしい。僕は混乱する。
 ひとは登場人物が多すぎる作品を読むと、登場人物が多すぎる! となる。興奮する。

 例えば、島崎藤村の『家』

 例えば、トルスト

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『数覚とは何か?』とは何か?

『数覚とは何か?』とは何か?

問 問1.数列Aおよび数列Bは、1~2000の数からランダムに10個抽出したものである。どちらの数列がより偏りなく分布しているか。

 AよりBの方がバラけている気がする。直感ではそう思う。
 でも実際にはAの方は約200置きぐらいに均等に分布している。Bは指数関数的に分布している。
 Bの方がバラけているように思うのは、それは心の物差しによるものである。

 問2.各枠の中に点がいくつあるか瞬時

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恥辱

恥辱

まえがき 今年もこの季節がやってきた。

 今年も発症してしまった。

 ハヤカワepi文庫の季節。

2024 今年はジョン・マクスウェル・クッツェー『恥辱』である。

 Disgrace / J.M.Coetzee (1999)
 鴻巣友季子 訳

 もちろん僕はクッツェーがどんな作家かは全然知らなかった。
 書店に行くと『ポーランドの人』という彼の最新作が売っているのが目につく。白水社のツイ

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テン・ナイン・ストーリーズ(ズ)

テン・ナイン・ストーリーズ(ズ)

 サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』が好きだ。
 新潮文庫で読んだ。だいたいみんなそうだ。
 2016年、僕は神保町で講談社文庫の『九つの物語』を発見した。
 2019年、僕は百万遍知恩寺の古本まつりで文建書房の『J.D.サリンジャー作品集』を発見した。
 そして10冊の『ナイン・ストーリーズ』をいつの間にやら手に入れていた。
 10冊と言っても、装丁が違うだけや版型が違うバージョン(基本的に

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『話の終わり』の終わり

『話の終わり』の終わり

話の終わり THE END OF THE STORY
リディア・デイヴィス/岸本佐知子 訳 (白水Uブックス)

 終わらない話の終わりの話。リディア・デイヴィス神も岸本佐知子さんも、歳下の恋人がいる(いた)んだろうなと思った。そうだったら素敵だ。

 リディア・デイヴィスという生ける神は、超短編で有名(?)なので本作が唯一の長編である。『暗夜行路』が唯一の長編であとはほぼ短編ばかり書いていた志賀

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一年の始まりはハヤカワepi文庫を読まないといけない病に罹っている

一年の始まりはハヤカワepi文庫を読まないといけない病に罹っている

 宿痾である。

 書くのを忘れたけど、去年はラッタウット・ラープチャルーンサップの『観光』をよんだ。
 今年は『悪童日記』である。

悪童日記 Le grand cahier
 アゴタ・クリストフ/堀 茂樹 訳 (ハヤカワepi文庫)

 この作品は、ハヤカワepi文庫のおすすめ本を調べているといつも名前が上がる名作だった。なのでいつか読もうと想いつつもどこか敬遠していた。戦争の話で、重たいもの

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偶然の音楽、読了の感覚。

偶然の音楽、読了の感覚。

 The Music of Chance / Paul Auster 1990
『偶然の音楽』(ポール・オースター/柴田元幸訳 新潮文庫)

 うまくいかないのが人生。そして実質太宰。

 ポール・オースターの小説を読むのは『ムーン・パレス』以来だった。

 今回は贖罪の物語だと思った。

 ジム・ナッシュは父親の遺産が手に入ってアメリカじゅうを旅する。そして偶然出会った行き倒れの賭博師ジャック・

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読書する身体

読書する身体

――あるいは『数学する身体』の感想文的ななにか。

はじめに 世界のすべてを知るには人の一生は短すぎるし、知ることができても僕の脳ではそれを処理することはできない。そんなことを思って、人間の矮小さを感じる。世の中にはよくわからないことが無限にあって、すべて知ることが不可能にしても知りたいから本を読むのだ。少しだけでもわかった気になりたい。
 本をひとつ読んで自分の認識している世界が広がったとき、そ

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『アンナ・カレーニナ』を読んだ、華麗にな。

『アンナ・カレーニナ』を読んだ、華麗にな。

 まず初めに言いたいのは、登場人物が多すぎる!
 そして長すぎる!
 でも面白すぎる!

 完

 ――と言いたいところだがそんな単純な小説ではない。
 ドストエフスキーなんかもそうだけど、帝国ロシアではロシアのデカさを象徴するがごとくに長い小説を書かないといけない使命みたいなのを感じてしまうのだろうか。あるいは寒いから引きこもってやたら長い小説をひたすら書く以外にすることがないのか。しかも面白い

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夜を駆ける

夜を駆ける

朝顔の観察日記(140) 小学生のとき、たしかにそんな事をした覚えがある。誰しもそうだろう。日本人なら。それはそれで恐ろしい話だ。毎年日本中で小学生たちが何輪の朝顔の花を観察しているのだろう。観察されているのは小学生の方ではないか。それはそれとして、子供の頃のそんなかすかな記憶が僕たちにはある。にもかかわらず、朝顔について何を知っているというのだろう。何を覚えている? どんなふうに芽をだして、どん

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燃えよ剣を読んだ件

燃えよ剣を読んだ件

 これは土方歳三という男の生きざまを描いた小説。

 今回も土方は勝てなかったよ……。と思ったけど、もはや勝ち負けではない。戦の中に生きて死ぬ。剣に生き剣に死ぬ。戦のための戦。そんな境地だと作中に述べられていたので、その意味では土方の勝利なのだ。勝利という概念はもはやないんだけど。

 ていうか今回はってなんだよ。

*****

 たまには、幕府サイドも奮起して、徳川慶喜も「大政奉還? 知らん。

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素粒子

素粒子

 ミシェル・ウエルベック『素粒子』を読んだ。

 以下ネタバレを含む感想です。

まさかエピローグになって本編が始まるとは思わなかった。 少なくとも読者にとってはそうだった。小説的には確かにエピローグなんだけど……。それまでのプロローグ、第一部、第二部、第三部は長大な序章で、エピローグが本編だと感じた。

 僕は最初SF小説だと思って読み始めた。第一部は若い頃の話で青春小説じみていた。第二部では歳

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『家』を読んだ。

『家』を読んだ。

 島崎藤村『家』を読んだ。
 そもそものきっかけは先日の旅を参照してくれ。

旅の続き 木曽福島で、僕は島崎藤村のゆかりの地を訪れた。偶然だ。そんな目的があって行ったわけじゃない。そこは、『家』という小説のモデルになった家だった。その家の子孫が資料館として家の一部を資料とともに公開していた。そしてガイドの女性が丁寧に面白く説明をしてくれた。島崎藤村のこと、そして『家』という作品のこと、この家の歴史

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