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私についての詩(ソング・オブ・マイセルフ)

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「空想的なものは、書物とランプの間に棲まう。幻想的なものは、もはや心の中に宿るのではなく、自然の突飛な出来事の中にあるのではない。それは知識の正確さから汲み上げられてくるのであり… もっと読む
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グッド・ペリカン・バッド・スワン

グッド・ペリカン・バッド・スワン

善きペリカンと悪しきスワン、
二人は横丁のディズニーランドで再会した。
スワンはローラーコースターのように歩き、
ペリカンはコカ・コーラの泡のように笑う。
二人の前から神はとうに姿を消していて、
カルロス・ゴーンみたいな連中ばかり。
ウォルト・ホイットマンを読むのが唯一の、
善きペリカンと悪しきスワンの共通点。

二人はスターバックスでコーヒーを飲む、
ペリカンはミルクを、スワンはブラックで。

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モダン・タイムズ

モダン・タイムズ

私も、生まれたての人も、もう死んだ人も、
暮らすのは、悲哀に満ちた喜劇の中。
あなたも、コメディアンの一人として、
コントで今、医者を演じているのかも。
悲しみをパントマイムで伝えながら、
私はモダン・タイムズを生きている。

海には原子力空母、空には人工衛星。
私の隣にはシャイな女性。
出歩くのにうってつけな午後であっても、
間違って歩き出す死人はいない。
正義をかざし、罪を犯し、
私はモダン・

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キング・オブ・ストリート

キング・オブ・ストリート

足音が夢を消すのは、毎朝午前5時。
目はショボショボ、喉はカラカラ、
砂漠のベッドで水のペットボトルを探す。
よろけながら、我が玉座に腰を下ろし、
ニュースを読みながら、糞を出すと、
東急ハンズで拾った王冠を頭に載せる。
外は死体が隠せるくらい真っ暗だ。
おはよう、私の完璧な世界よーー
今日も私の民は内気で、とても不思議で、
時間が経っても、何一つ変わらず、
そして私はこの地元の王でいる。

昨日

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空き缶2本分の荷

空き缶2本分の荷

犯人の名を明かした推理小説を、
その事後を語る裁判の回想を、
私は捨てる。
本棚で埃に埋もれる恋愛を、
妖精に頼み込む厄介事を、
雪に閉ざされた山荘の暖炉のイメージで、
私は燃やす、あらゆる物を、
手錠を、首輪を、ダイヤの指輪を。
たったひとつ手の中に残る物、
それは空き缶2本分の荷。

要らない物を見つけるのはとても簡単。
銃に怯えたり、血を流すこともなく、
それは見つけられる。
馬で「トゥーム

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ラブシック(「生」と「死」を巡るポエム)

ラブシック(「生」と「死」を巡るポエム)

リルとアルバートは思い思いに、
カフェの端と端にいて、
たわいもない会話を媒介し、
日常の中で混じり合った。
ことばは色であり、
音楽でもある。
2人はほぼ同時に、
恋の病いにかかった。

それは、教科書に何の記述がなくても、
めくるページすべてにくっついてくる。
画家のキャンバスに忍び込み、
彼の傑作を仕上げるか、もしくは燃やす。
乗り手を待ちわびながら、
美しいバイクのように暖機を続ける。

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オーディオルーム・アドベンチャー

オーディオルーム・アドベンチャー

ひとつの詩的体験が不調に終わったとき、
空想は「書物とランプの間」から消え、
私の兄の遺したアンプを通って隠れた、
オーディオルームにーーそこでは、吸血鬼が
焚き火をインディアンたちと囲み、
悲しいバラッドで彼らの涙を川にし、
ハーモニカで辺りを秋の風に変え、
ゴムの靴底でシタールを奏で、
嫉妬に狂った魂でブルースを歌い上げていた。

しかし、私にあるのは真っ白な紙とペンだけ。
そこで、ジェイクと

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サーカ・Aの日曜日

サーカ・Aの日曜日

彼らは推測する、
私らしい死に方だったと、
側溝にはまって冷たくなるのが。
私が崖のふちで、
強い酒を飲んだのは、
君がパンにバターを塗るのと同じ原理。
バイトの女の子たちが、
何の気なしに、
私のカウンターに酒を次々と運ぶ。
私は紳士的にお願いする、
「ここが天国だったら、
踊っておくれ、かわいい姉妹たちよ」と。

「地元」って所には、
気のいい奴もいれば、
借金を踏み倒す奴もいる。
勇ましい夜

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『note』に

『note』に

コートを羽織って外へ。
書き置きを残した、
君が読んでくれるのを期待して。
町は、ちょうど
朝と夜とに引き裂かれて、
月が流す血をたどりながら、私は歩き出す。
君は今、目を覚ましたかな。
もしくはコーヒーカップを持ち上げた頃か。
それとも投票する政治家を選んでいるのか。
私は、「お喋りなどせず、
ただ歩いている」、
君が私の『note』を読むとき。

耳に音楽を持って。
カフェは近い、着く頃には、

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ゴーストタウンの「夜」

ゴーストタウンの「夜」

1
夜の灯は絶え、
不気味な影が通りを漂う。
つたない懐中電灯だけが、
今、私の足元を照らしている。

書店の廃墟から、
作家たちの魂は締め出され、
公民館の扉にも鍵が掛かり、 
夏のボーイスカウトも帰って来ない。

 白いマスクをした遊女の霊が、
 街の顔を半分に覆っている。
 彼女たちに尋ねてはいけない、
 空白の中に存在してゆく理由を。

かつての奴隷も、君主も、
精気のない世界では似た姿。

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行きつけの壁、ことばのカフェ

行きつけの壁、ことばのカフェ

仕事が終わり、本を片手に
カフェに入る、私は何でもない男。
そして心は今、石のように硬い。
自分の行きたい場所はここ、
知りたいのはこれだけ、と
私はひとりカフェでいじけて本を読む。

報われない作業や、叶わない夢、
鳥はさえずらず、若者だけが実況する世間と
私とを、イヤホンのジミヘンが遮断する。
どうせ俺なんか、とページをめくり、
どうせあいつの方が、とメモを取る。
私はひとりカフェでいじけて本

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デッド・フラワーズ

デッド・フラワーズ

クレイグ・べルデンとマット・モーガン、
2人は廃棄品をまとった老いたカウボーイ。
町はまだ昼前だっていうのに、
2人は完全に酔っぱらっていた。
若いゲイのバーテンは惨めな気分で、
彼らのオーダーを聞いていたが、
2人の声が大きくなるたびにささやいた、
「水をお出ししましょうか?」と、冷ややかに。

 さあ乾杯だ、友よ、
 夢の中ではすべてが俺たちのものだ。
 水なんて必要ない、
 俺たちの会話は枯

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メランコリー

メランコリー

眠れぬ夜だった。私はハンドルを握り、
灯りのない峠道を車でさまよっていた。
深い霧の中、ヒッチハイカーが見えた。
車を止めると、哀れなメランコリーだった。
この種のメランコリーはいやしくて、
施しがあるまでドアから離れようとしない。

私の不調は三年も続いていた。
身も心も疲れ果て、何の目標も持てず、
その上今夜は、助手席にメランコリーーー
邪悪で、惨めな放浪者が座っている。
この種のメランコリー

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ハーヴェスト

ハーヴェスト

「宗教的人間は歩くときに上を向いている、非宗教的 人間はまっすぐ前を向いている、この点だけが両者を区別する世界を想像することができる」
             L・ウィトゲンシュタイン

1
地平を越えて、
彼女が大地を
多くの光で照らすと、
野は黄金に染まり、
作物を見守る彼女の姿が
くっきりと現れる。

夕方は酷い嵐だった。
電線は切れ、屋根は飛ばされた。
夜は豪雨で、
道には大きな水たまり

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ガナッシュ・パイ

ガナッシュ・パイ

ホームパーティーの途中で、
私の恋人はどこかへ消えた。
残されたグラスは空っぽ。
皿には吸い尽くされたチキンの骨。
招待客は夜が更けても、
野暮ったい会話をやめようとしない。
みんな親しげに挨拶しながら、
彼女のガナッシュ・パイに手をつける。

彼女の職場は華やかで、
清潔に保たれていた。
同僚たちは金勘定に追われ、
ベッドで夢も見ない。
満員電車で中吊り広告が、
新しい嘘をつく。
ベテラン俳優が

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